6.宿泊先はラ○ホテル
夜、盗賊たちのアジトとなっている洞窟を見つけた二人は強襲をかけた。当然ながら二人に敵うはずもなく、盗賊たちはものの十分ほどで全滅した。
「簡単に終わったわね。さっさと金品を掻っ払っちゃいましょう」
死体を踏みつけながら姫愛奈が言った。
「結構広いね。ちゃんと住めるようにある程度整備されてる。──おっ、いかにもな宝箱が!」
政臣は頭が吹き飛んだ死体が寄りかかっている宝箱を見つけた。死体をどかし、クリスタルをナイフ状に形成して錠前を無理やり壊す。開けてみると、金貨や紙幣。そして宝飾品などがつまっていた。
「おお! 結構溜め込んでたんだな。ネックレスやブレスレットは周囲の集落の住人の物かもしれないし、宝石やお金を貰っていくか」
二人はしばらくの間金品を物色する。
「このルビー大きい……街で換金しましょ」
姫愛奈がアマゼレブから貰った〈何でも入るポーチ〉にルビーを入れようとすると、それを政臣が静止する。
「いや待てよ。この宝石類って本物かな? 魔法とかで本物そっくりの偽物とかが簡単に作れるんじゃないの? 真贋が分かる能力とか貰っときゃよかった~」
「確かに。そこに気付くなんて賢いわね」
「ちょっと嫌味っぽいけど褒められたと思っておくよ。一応街で恥をかかないように持ってくのは金貨と紙幣だけにしよう」
「う~ん、何て書いてあるかは分かるけど日本円だといくらなのかしら、この〈アルム〉って通貨単位」
姫愛奈は「百アルム」と読める紙幣を広げて言った。
「百から下の紙幣が見つからないな……今のところ一番大きい値はこの千アルム紙幣だけど、日本のお札みたいに五千とか一万とかがあるのかな?」
「金貨の存在意義は小銭ってことかしら。てっきり銀貨とか銅貨とかもあるって思ったんだけど」
「コイツらが金貨だけ持ち去ったって可能性も考慮に入れよう。──『パレサ王国初代国王、クラレンス一世』……ここはパレサ王国っていう国なのか。といってもオセアディアまで一直線に行くつもりだし、この国で何かするってことは無いかも」
金貨を眺めながら政臣が呟いた。その後資金を調達した二人は朝になるまで待ち、洞窟に集落の人々を呼んで奪われた物を回収させた。
「──なんか俺らがやってるのって『良いこと』じゃね?」
「
二人はこれ以上この集落に居る気は無かった。二人は集落を出て街に向かいたいと申し出た。老夫婦は承諾し、すぐにトラックを用意してくれた。街までは止まらず走っても片道六時間の距離だという。古びてはいるがデコボコではない道路をオンボロトラックが走っていく。荷台の上で二人は爽やかな風を感じながらしばしうたた寝をした。アマゼレブの〈祝福〉により、睡眠の必要は全く無くなったが眠ろうと思えば眠ることが出来る。次に二人が目を覚ましたとき、トラックは草原に敷かれた道路を走っていた。遠くにレンガ造りの建物が並ぶ街が見える。
「高層ビルとかは無いのね。そもそもビルを造ろうって発想があるのかしら」
「ヨーロッパにもああいう街並みの都市は多いし、ここが田舎だからかもしれないよ?アメリカだって一九二〇年代には既に高層ビルを建ててたんだ。都会にはビルがあるかも」
荷台から街並みを眺め、二人はこの世界の技術や文化について考察する。街につく頃には夕陽が差し込み、街灯には灯りが灯り始めていた。二人は看板を見回して宿屋を探すことにした。
「ちゃんと文字は読めるわね。実際に目で見ている文字と日本語が頭の中で一瞬ぐちゃぐちゃになるのが気持ち悪いけど」
ややあって、二人は目的の建物を見つけた。
「あっ、あそこ! ホテルって書いてある!」
「本当だ。ここら辺がホテル街なのか。とにかく、今持ってるお金で泊まれる場所にしよう」
「──このホテル、一泊五千アルムで最上級の部屋に泊まれるわよ。今どのくらい持ってるんだっけ?」
「えーと、だいたい二十万アルムくらい? この高級そうなホテルの最上級が五千か……いや日本円に換算出来ねえ!」
頭を抱える政臣。するとホテルから従業員らしき女が出てきた。
「あっ! そこの二人、もしかして一晩泊まる場所を探してます?」
「えっ? ああ、まあ……」
「なら当ホテルにお泊まりしていただければ、『カップルプラン』で最上級の部屋を割引で提供いたしますよ!」
「本当に!? じゃあここに泊まります!」
「いやちょっと待って、『カップル』では──」
姫愛奈は政臣の腕に組み付き囁く。
「合わせなさいよ。私たち、確かに見た目は一緒に旅してるカップルよ。否定して状況をややこしくしないで」
「──そうだね!ここにしようか!」
「うん!」
二人は従業員の後について行った。受付でチェックインし、鍵を貰って指定された部屋に行く。部屋に入ると、高級絨毯が敷き詰められたスイートルームだった。
「おお! ──ん?」
一瞬煌びやかな内装に目を奪われた二人は、突如として違和感に襲われた。一番の違和感は、ベッドがダブルベッドであること──。
「それでは、熱い夜をお過ごしください~」
「え、『熱い』?」
ドアは閉じられ、部屋には二人が残された。
「……何でダブルベッドなの?」
「いや、カップルプランって言ってたし……待てよ、そもそも『カップルプラン』って何だ? 普通のホテルにそんなプランってあったっけ?」
政臣はそう言いながら部屋を見回し、そしてあるものを見つけた。
「あっ──」
それは、ベッドの横に設置されているタンスの上にあった。正方形の薄いピンク色のビニール製の袋に入っている物。その正体を察した政臣は思わず口を開いた。
「……これって、コンド──」
言いかけた政臣の後頭部を姫愛奈が思い切り殴り付ける。
「ぐおっ!」
「ちょっと。ここってまさか、ラ、ラー、ああー」
「ラ○ホってやつだね」
「そんな冷静な口調で言わないで!」
「なるほど、『カップルプラン』ってのはそういうことか。にしても、全然分からなかったぞ。元の世界のはもうちょっと分かりやすかったんだけど」
「さ、最初に言っておくけど、そういうことはしないからね!」
顔を赤くさせながら姫愛奈は政臣を指差した。
「え、何? 『そういうこと』って。よく分からないから教えてほしいなぐッ──!?」
姫愛奈は政臣のにやけ面にパンチを食らわせた。
「私、シャワー浴びてくるから」
「いたた……は~い」
目の前がクラクラしながらも政臣は答えた。クラクラが治まり、丸テーブルの方に向かう。椅子に座って所持金の精算をすることにした。
数時間後、深夜になりすっかり静かになった街を二人は窓から眺めていた。
「明日はアマゼレブと話が出来るように、なんか適当な像を買いに行こう。一方的に見られているのは癪だしね」
「あと服が買いたいわ。この服、やっぱり目立つと思うわ。街を歩いてるときチラチラ見られたもの」
自分の学生服を見ながら姫愛奈が言った。政臣も自分たちに注がれる視線には気付いていた。いくら見た目がだいぶ変わったとはいえ、クラスメイトとの関係性を示唆する要素はいざ対面するまで極力消しておくべきだ。
「……こうして待っているのも苦痛ね。ちょっと寝ようかしら」
「えっ、ずるい。俺が寝れないじゃん」
「くれぐれも襲ったりしないでね。もしそんなことをしたら鎌でその首かっさばくから」
政臣は集落で姫愛奈が盗賊の股間を蹴り潰した光景が脳裏に浮かんだ。
「襲うわけないでしょ。そこは安心して」
しかし本当に襲われないか心配だった姫愛奈は、時折目を閉じるだけで政臣を監視し続け、結局一睡もしなかったのだった。
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