5.情報収集
「本当にありがとうございます。私どもだけではあのまま全員殺されてしまっていたでしょう……本当にありがとうございます……」
「いえいえ。宿を探して歩いていた所に出くわしたもので、全滅を免れて良かったです」
集落を救った二人は住人たちに歓迎された。二人は火の手が及ばなかった建物の中で集落のリーダーの老夫婦と話し合っていた。老夫婦は何度も頭を下げて二人に感謝した。
(お約束通り言語の壁は無いか……文字が読めるかどうかは別として、会話に支障が無いのは助かる)
「俺たち、二人で旅をしてるんですけど、ずっと魔法の勉強や戦闘の訓練しかしてなかったので世情に疎いんですよね」
「はあ、〈魔導士〉の方でしたか。あれだけ凄い魔法を使うということはかなり厳しい鍛練を積んだのですね」
「まあ、そういうことです」
(魔法を使う者を〈魔導士〉と呼んでいるのか……。今は出来る限り情報を収集するべきだな……)
「ところで、あの集落を襲撃していた奴らは何なんです?」
今度は姫愛奈が尋ねた。
「おそらく最近やって来た盗賊でしょうな。ここは王国でも作物が多く取れる土地でしてね、わしらのように植民して作物を育ててる所が幾つかあるんです。今は収穫の時期ですから、ああいう手合いがここら辺でのさばるんです」
「その……国の方では何か対策は?」
「今は亜人たちと戦争をしてますからね。兵士の人たちはみーんな戦争に駆り出されていてこっちにまで手が回らないんですよ。それに最近は魔物の活動も活発化してるとかで、ますます大変なことになってるんですよ」
「魔物ですか?」
「こういう場所には、月に一回くらいしか街の広報さんが来てくれないんですが、ここんとこ魔物が凶暴になってあちこちで被害が出てるって言うんです。遂には隣の〈オセアディア王国〉が、古代魔法を使って〈勇者〉を召喚したとか──」
「勇者、ですか?」
姫愛奈は動揺を抑え込んで冷静な顔で尋ねた。
「はあ、何でも別の世界から凄い力を持った人たちを何十人も呼び出すとかなんとか……眉唾物だと思うんですが、オセアディアはその〈勇者〉サマの力で魔物たちを倒して回ってるって話です」
「なるほど……」
二人は頭の中で情報を整理する。
(私たちが転移したのはみんなの転移した国の隣で、魔物と戦う為に召喚された……亜人と戦う為では無いのかしら?何にせよその〈オセアディア王国〉とやらに行く手段を見つけないと)
(重武装の盗賊を鎮圧する余裕も無いのか。元々軍隊が弱いのかトップが辺境を軽視しているからか……『王国』ということは王様が政治をしてるのか?それに集落の情報源が街の広報だけで月に一回程度……僻地にまで情報網が行き渡っていないのか。情報格差が酷そうだ。今の話もどの程度の『鮮度』なのか……)
「あの、何か?」
老夫婦は突然黙り込んだ二人を見て不安そうに尋ねた。
「えっ? ああ。いや、大きい街に行きたいところなんですが、移動手段が歩きしかなくて、どうしようかなと」
「ああ、それなら作物を街に運ぶ時のトラックがあります。ちょうど収穫できた物を運ぼうと思っていたところなんです。良かったら、街まで運びますよ」
「良いんですか? ありがとうございます」
「いえいえ。命の恩人ですし、ここにいる間はどうぞ何なりとお申し付けください」
******
老夫婦との話を終えた二人は、生かしておいた盗賊を閉じ込めてある建物に向かった。扉を開けると、縄に縛られてじたばたしている男がいた。
「チクショウ! お前らただじゃおかねえぞ!ボスがボスがこの事を知ったら、お前ら二人ぶっ殺──」
姫愛奈は男の股間に軽く蹴りを入れた。バキッという嫌な音が部屋に響く。政臣は姫愛奈の所業にゾッとする。
「下品な奴ね。もう少し立場を理解出来ないのかしら」
男の首を掴み持ち上げ、そのまま壁に向かって投げつける。男は置いてあったタンスにぶつかり、ぶつかったタンスから雑貨が散乱する。
「今ボスって言ったわね。ということはアジトがこの近くにあるんでしょう? 教えてくれたら逃がしてあげても良いわよ」
「ふざっけんな、クソ女!誰がお前なんかに──」
今度は政臣の攻撃で負傷していた脚を踏みつけた。血が噴き出し、折れた骨が皮膚から飛び出す。
「ぐあああああああ!!」
「早く教えないと死んじゃうわよ?」
姫愛奈は更に男の腹に蹴りを食らわせた。男は思い切り血を吐き出した。
「……うう……ぐ……うう……分かった……ここから東の……池が近くにある洞窟だ……」
痛々しい姿で男は声を絞り出した。
「そう。ありがと。──
姫愛奈は大鎌を喚び出し、男の首を裂いた。
「すごいね。完全に悪の女幹部だったよ」
二人は生き残った住人たちが家族や仲間を埋葬している様子を観察していた。
「うるさいわね。あなただってあいつを生かしておくつもりはなかったでしょう?」
「まあね。でも、最初に股間を蹴ったのは少し可哀想だなって思ったよ。あれがどれだけ痛いか、分かる?」
「どうせもう使わないんだからいいでしょ。あなたのも蹴るわよ?」
「やめろっての。──とにかく、盗賊たちのアジトを襲撃してそこで金品をくすね、トラックで街まで連れていってもらう。これが現状のプランね」
「そうね。少なくとも街での宿泊費程度は確保しないと。路上で寝るなんてまっぴらごめんよ」
「今ごろみんなは何してるんだろ。あのおじいさんの話から推測すると、少なくとも召喚されてから四ヶ月は経ってるはずだ」
「思いの外期間が開いてるわね。みんなは人間とか亜人相手に戦ったりしたのかしら」
「初戦闘の相手が人間だなんて。ド◯クエだってこんな殺伐としてないよ。それに話を聞く限りみんなは魔物と戦う為に召喚されたっぽいじゃん。亜人とは戦わないんじゃないの?」
「どうかしら。みんなの力は一応この世界ではチートレベルなんでしょ? 召喚した連中が亜人との戦争に投入しない理由が見つからないんだけど」
「う~ん。みんなが亜人をどう見るかによるんじゃない? 普通の人として見るか、魔物の一種として見るかで」
二人は老夫婦から与えられた部屋にそれぞれ入り、夜になるまで待つことにした。その間、政臣は自分たち二人の欠けたクラスがどんなものか考えてみた。謙遜も甚だしいが、スクールカースト中位程度にいる自分が居ないところで特に影響は無いだろう。誰がどんなチート能力を手に入れて活躍しているかは詳しく分からないが、まとめ役が誰なのかは大体予想がつく。クラスの陽キャ代表、
一方の姫愛奈も自分たちが居ないクラスがどういうものになるか想像していた。姫愛奈は自分の容姿に自信があり、実際それを武器にしていた。そして誰に対しても良いように接することでクラス内の地位を築いた。自分が居ないことによる男共の落胆ぶりは想像に難くない。どいつもこいつも単純なやつらだ。……政臣はどうだろう。一年生の時同じ班になったくらいしか絡みがなかったが、同じ穴の狢だったとは思わなかった。だが姫愛奈は政臣を意外にも高く評価していた。話をしていてイライラしないし、他の男共と違って遠慮しない物言いをする。家にいる
「セクハラしてくるのがちょっといただけないけど、まあまあ良い奴ね……」
ベッドに寝そべり、天井を見ながら姫愛奈は呟いた。そのまま目を閉じ、夕方まで眠ることにした。
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