4.文明レベルに比べてヒャッハーな世界
止まらず走り続けた二人は、火の粉が飛んできているのに気が付いた。
「近いよ!銃声の音も大きくなってる!」
「あっ、建物が見えるわ! 燃えてる……ちょっ、ちょっと隠れて!」
森から飛び出そうとした政臣の首根っこを掴み、姫愛奈は茂みに隠れた。そのすぐ後、必死の形相で走る男がやって来た。二人のちょうど目の前辺りに来た所で脚を撃たれ、顔から地面に倒れこむ。それでも脚を引きずり逃げようとしている所に、銃を持った男が歩いてきた。
(MP-40みたいな銃だな。短機関銃?時代はどのくらいなんだ……?)
(明らかに軍隊って感じじゃ無いわね……。盗賊? 銃を持ってるなんて危険すぎでしょ)
二人がそれぞれ推察していると、銃を持った男が倒れた男の背中を踏みつけ、頭に銃口を突き付けて引き金を引いた。銃声の後、銃を持った男は死体を漁ったが何も無かったのか舌打ちをして行ってしまった。
「……ねえ青天目くん」
「何?」
二人はここである違和感に気付いていた。
「今、目の前で人が殺されたわね」
「うん」
「率直に、どう思った?」
「……」
姫愛奈は政臣の顔を見た。時間は夜。辺りは炎の明かりに照らされて二人の影がゆらゆらと揺れている。
「……何も感じなかった」
姫愛奈は視線を地面に落とし、冷静な声で言った。
「──そう。私たち、本当の意味で『人でなし』になったのかもね」
政臣はすっくと立ち上がった姫愛奈を見つめた。その瞬間、視線は自然と目の前に現れたスカートとストッキングの間の絶対領域に──
「ちょっとどこ見てるの!? 今はシリアスな場面でしょ!」
姫愛奈は膝蹴りを政臣の顔面に食らわせた。
「ぐっ!? ──あ、見えた……黒……」
「よし殺そう」
「すいませんすいません! 鎌下ろして! そんな満面の笑みで大鎌振り上げないで!」
「真面目にやりなさい。これは資金調達のチャンスよ。ここの集落の連中を助けて報酬をねだるのもよし、ここを襲ってる連中から巻き上げるのもよし。っていうか宿の確保をしないとマズイわ!全部燃え尽きないうちに集落の住人を助けるわよ!」
「悪役になるために来たのに人助け?」
「ふざけないで。住人なんかどうでもいいわ。私とあなたの為よ」
「はいはい」
******
集落のまだ火の手が来ていない場所、そこには集落の畑で育てた収穫物を保管する倉庫があった。集落のリーダーの老夫婦と襲撃から逃れた住人たちが立てこもっており、周囲を盗賊たちが包囲していた。
「オラア出てこい! 出てこねえとぶっ殺すぞ!」
ヒャッハーな盗賊たちは倉庫の入り口をこじ開けようと四苦八苦していた。住人たちは入り口をバリケードで封鎖し、大人たちが狩猟用のライフル銃を構えていた。奥では子供たちが泣き叫んでいる。
「大丈夫、大丈夫よ。私たちが守ってあげるから」
女たちは恐怖を押し殺しながら子供たちを抱き締めて必死に宥めていた。出入口はバリケードが積み上がっている正面入り口しかないため、完全に袋のネズミ状態だった。
「マズイ! 煙が充満してきた。戸を開けないと!」
「バカ野郎! そんなことしたらアイツらにぶっ放されるぞ!」
状況は絶望的だった。入り口の扉にヒビが入り、今にも突破されそうだった。
「神様……!」
集落のリーダーの老人は思わず呟いた。
「おい、いっそ火を点けちまったらどうだ?」
外にいる盗賊の一人が言った。
「バカか。ここは食糧庫だ。火を点けたら食糧が燃えちまうだろ。なあに、その内煙が充満してたまらず出てくるさ」
別の盗賊がタバコを吸いながら言った。
「そうか。ならさっき捕まえた女共で『暇つぶし』するか~?」
「いいなそれ! ハッハッハッ!」
盗賊たちはゲラゲラと
「そう。なら、別に殺しても良いわね」
「ん?」
どこからともなく聞こえた声に、盗賊たちは周囲を見回す。
「何だ今の──うっ!?」
突然、タバコを吸っていた盗賊の腕が肘の上からスルリと地面に落ちた。地面に落ちた衝撃でタバコが地面を跳ねる。次の瞬間、腕の落ちた盗賊は仲間たちの目の前で細切れになった。
「何だあ!?」
今度はそう叫んだ盗賊の首が驚愕の表情のまますっ飛んでいく。まだ無事な盗賊たちは、銃を構える瞬間、黒い衣装に身を包み、大鎌を持った少女が見えた気がした。
「な!? ──ぎゃあああああああッ!」
倉庫に立てこもっていた住人たちは、突然盗賊たちが叫びながら銃を乱射し始めた事に困惑していた。
「何だ? 外では何が起こってるんだ?」
「きっと罠だ! こっちを安心させて入り口を開けさせるつもりだ!」
「でも……」
住人の一人が入り口の横についている戸を見る。外の状況が気になる。特に何かを切り刻んでいるような鋭い刃の音が。本当に罠なのか、男たちの声が消え、自分たちの家が燃え盛る音しかしない中、遂に住人の一人が戸に近寄り、戸を思い切り開けた。
「おい馬鹿!」
「──っ!?」
戸の向こう側には、さっきまで騒いでいたであろう盗賊たちの無惨な死体が転がっており、その中心辺りに金髪の少女が佇んでいた。背丈と同じくらいの丈の大鎌を肩にかけ、赤い瞳で住人を見つめる。
「なるほど、食糧庫か。どうりで火を点けなかった訳……」
合点がいった姫愛奈は政臣を探すため高く跳躍し近くの建物の上に乗り、そのまま歩いて行った。
一方、政臣は盗賊たちの銃撃を後ろ手を組み余裕の佇まいで防いでいた。盗賊たちの撃った銃弾は、政臣に当たる数センチ前でアマゼレブの〈祝福〉によって弾かれてしまう。
「なるほど。こういう風に攻撃を防げるわけだ」
〈祝福〉の効果を十二分に確認した政臣は、口をあんぐり開けて棒立ちしている盗賊たちを見て笑った。
「絵に描いたような驚き方をするんだな。まあどうでもいいか。俺たちの為に死んでもらうぞ、実験体共」
政臣は手のひらを突きだし、ナイフを脳裏に浮かべた。クリスタルが形成され、銃弾並みの速さで飛ぶ。盗賊の一人の上半身にグサグサと突き刺さり、刺さった盗賊は鮮血を噴き出しながら倒れた。
「人を殺しても何も感じない……カルマが低いせいなのか、それとも〈祝福〉のせいかな?」
「ひ、ひいいいいぃ~!!」
もう片方の盗賊は銃を投げ捨てて逃げ出した。政臣は右手をピストルに見立てて光弾を撃ち出す。連続で撃ち出された光弾は盗賊の左手を吹き飛ばし、次いで身体をバラバラにした。
「威力強っ!? 普段はクリスタル撃ち出す方がいいなこれ……」
「青天目くん、いた!」
屋根の上から姫愛奈が降り立つ。大鎌を振り回して血を払う。
「生き残りの集団を食糧庫で見つけたわ。それと残った建物に火を点けようとしてたやつらを殺ったから、村人に恩を売れたわ。これで宿の確保が出来たわよ」
「いや、まだ泊めてもらえるかどうかはまだ分からないけどね」
「助けてあげてるんだからそれくらいして当然よ。さあ残りを片付けるわよ」
集落の中心に出た二人は、十数人の住人たちが盗賊に囲まれているのを見つけた。
「多分あれが最後だね」
「じゃあさっさと済ませちゃいましょう!」
大鎌を手首で回し姫愛奈は突撃する。手始めに一番近い盗賊を叩き斬り、上半身を吹っ飛ばす。他の盗賊たちが驚き発砲するが〈祝福〉によるシールドで防がれてしまう。
「青天目くん!」
「ああ、サボろうとしてるのがバレたか」
政臣はクリスタルを飛ばして盗賊たちを倒していく。二人の容赦の無い攻撃によって盗賊たちはあっと言う間に壊滅する。
「う、うわあぁ~!」
最後の一人が情けない声を出して駆け出した。姫愛奈はそれを見て侮蔑するように鼻で笑う。
「逃げても無駄よ」
脳天に刃を食らわせてやろうと姫愛奈が足を踏み込んだ時、政臣が叫んだ。
「白神さん、待って! そいつは殺さないで!」
政臣はクリスタルを男の脚に食らわせ、行動不能にする。
「ぐあっ──」
「何のつもり?」
不機嫌気味に姫愛奈が尋ねる。
「食糧庫を焼かなかったのはアジトに食糧を持っていくためなんじゃないかなって思ってね」
「ああ、なるほど……そういうことね」
生存者たちが中心の広場に集まってきた。辺りが白み始め、二人は差し込む朝日を見た。
「……新しい朝ってやつ?」
「そうね。異世界に来て最初の朝だわ」
二人はお互いの顔を見合って微笑んだ。
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