2話

あの日から、家に帰ったら課題をやって英単語を20個覚えて、と下校中あれこれ考えたり、授業中真面目にノートをとったりした。

家に帰ってからは7時から勉強すると決め、7時になると机に教科書を広げた。しかし、すぐにソシャゲを始めて、結局9時から勉強を始めてすぐに寝落ちする日が多かった。授業中真面目にノートをとっても内容がいまいち理解できず、ただ黒板に書かれていることをそれっぽく書き写しただけになった。

今のままではいけないと思っていた。それでも「しょうがない」と、何かしら理由をつけ続けた。


肌寒くなり、半袖のシャツから長袖のシャツに衣替えし始めた頃、初めて模試を受けた。結果は惨敗だった。

この時ばかりは今まで以上に焦った。何もできないのだ。

もうこの頃には親に大学に行くと宣言していた。

しかし、模試は酷く、今の段階では地元の国公立に行くのも難しい。

「孝本当にちゃんと勉強してるの?」

「うるさい。俺だってよくないって分かってるから」

「私立は無理だからね。もし私立に行くなら自分で奨学金取るなりしてね」

昔ほどソシャゲはしなくなった。その分勉強という名目の時間は増えた。それでも自分に言い訳をし続ける癖は中々直せなかった。


時は過ぎ、すぐに気温は10℃を切るようになった。

「この模試で偏差値50とらないとまずいんでしょ」

「そう、やばいの」

冷たい机に突っ伏したまま、孝は声を漏らした。

偏差値50を超えるというのはただの目標でしかない。時間が過ぎるのは早いが、まだ時間はある。3年生になっても間に合うと妄想している。もうハリボテの目標になっていた。

それでも偏差値が50を切るのは、出来損ないとレッテルを貼られるようで、今までの努力が無駄だと証明されるようで嫌だった。今まで勉強ができないわけでも苦手なわけでもないというのが余計にそう強く感じさせた。

模試が始まる。

解けない。

前回よりは解けている。それでも納得いく出来ではない。

「努力は報われるまでするものだ」という誰かの言葉を思い出した。

今まで机に向かった時間は努力とは言えないのか。

むしゃくしゃして、その言葉を頭から追い出そうとペンを走らせた。

前を見ると、時計の針は試験開始から一周しようとしている。

その時、前に座る奴の解答用紙がちらりと見えた。

すぐに自分の解答用紙に目を戻し、解いているふりをしたが、もう一度ちらっと目線を前にやると確かに一部解答用紙が見えた。

悪いことだとは知っている。カンニング。でもこうでもしないと点数を取れない。納得できない。

これで点数が上がったとしても、数点だけ。その点数に見合うだけの努力はたくさんした。だから、ここでカンニングしても別に俺の実力はそこまで変わらない。

孝はまたちらりと前を見ると、ペンを走らせた。

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嘘をついたら何になる 泉葵 @aoi_utikuga

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