1話

「昨日の課題見してくれ。頼む」

孝は自分の席に荷物を置くとすぐに颯太そうたに駆け寄った。

「また?今日の帰りなんか奢れよ」

颯太は面倒くさそうにプリントをバッグから取り出した。

「あざす!」

孝はすぐに自分の席に帰り、自分のプリントと颯太のプリントを机一杯に広げた。

「俺のも一緒に出してて」という颯太に「うーんわかったぁ」と雑に返事をしながら、バレないよう適度に書き写し、ペンを置いた頃ちょうどチャイムが鳴った。

先生は少し遅れているらしかった。教室後ろの棚の上に積み上げられたプリントの束に自分のプリントと颯太のプリント、2枚を重ねると駆け足で席へ戻った。

ややあって、先生が教室へ入った。まだ慣れない先生に教室の雰囲気がピリッとする。そのまま朝のHR《ホームルーム》が簡単に行られ、先生が教室から出ていくと、またいつも通りの緩い雰囲気に戻った。

1日はあっさりと終わった。孝は真面目に勉強するふりをして、いつも通りソシャゲのことを考え、午後には惰眠をむさぼったりもした。

「孝、行くぞ」

終礼後、颯太の声に続くように「はーい」と返事をし、教室を飛び出した。

「孝そろそろ勉強しないとまずくない?」

「まぁ大丈夫やって」

「まだ本気出してないから」と続け、コンビニで買った肉まんを口いっぱいにほおばった。

「大学行くでしょ?」

「まぁみんな行くし。今は大学行っとかないとだめだし」

「颯太は?」

「もちろん行く」

放課後、宿題を見せてもらった颯太に奢るためにコンビニに立ち寄った。昼食が少し物足りなかった孝は肉まんを買ったが、颯太はずっと店内をぶらついていた。結局「今度でいいや。そん時奢って」と、何も買わなかった。

「もうそろ勉強に本腰入れないとまずいって先輩言ってたよ」

「そんなもんか」

実際孝もそろそろ勉強頑張らないととは思っていた。しかし、まだ2年生が始まったばかりで時間はたくさんある。勉強も少し難しいが、これまでの定期テストで平均点前後を取ってきた実績が孝のペンを持つ手を止めていた。

「じゃあ」

「バイバイ」

空は青い。やや傾いた太陽が陰り、辺りを暗くした。

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