第40話 その頃、七人の召喚者たち

「クッソ鬱陶うっとうしいザコばっかだな、ここは」 


 オッサンに斬られた手が王女を介した邪神の力により生えた少年がそう愚痴をこぼした。


「お前だけだよ、ここの魔物をザコなんて言うのは……」


 少年に向けてもう一人の青年がそう告げる。


「ケッ、ここの魔物にヤられそうになってるザコにも劣るヤツは黙ってろや」


手前てめー、王女が贔屓ひいきしてるからって調子に乗るなよっ!!」


「アッ、ヤる気か? 俺は別にいいぞ」


「ケッ、ヤらねーよ…… 俺はもう行くからな……」


 そう言って他の五人の方に向かう青年を見ながら


「腰抜けがっ!?」


 と吐き捨て、一人で森の奥に入っていく少年。斬られた右腕は邪神の力で更に強力になっていて、レベル以上の力を発揮していた。言うなれば右腕だけがレベル100を超えているような状態になっている。その力を持て余しながらも、次々と現れる魔物や魔獣を倒していく少年。

 遂には少年を見るだけで逃げ出すようになってしまった魔物、魔獣たち。 


「まったく、こんなんで修行になりゃしねぇよ。あのオッサンを圧倒的な力でズタボロにしなきゃイケねぇから、ココに来たけど俺より弱いヤツばっかじゃねぇか……」


 そこに少年の脳内で声が響いた。


『ヒカルさん、聞こえますか?』


「おお、聞こえるぞ、姫さん」


『右腕の調子はどうですか? 邪神様も気にしておられます』


「すこぶる快調だぜ、姫さん! 誰にも負ける気がしねぇよ!」


『それは良かったです。ヒカルさん、邪神様からの言伝ことづてです。森の最奥に住まう竜人たつびとを滅ぼしなさいとの事です』


「へぇー、そんなのが居るんだな。分かった、姫さん、殲滅してくらぁ!」


 そこで王女からの言葉が終わった事に気がつく少年。


「ケッ、返事くらいしろや!!」


 そう悪態をつきながらもヒカルという名の少年は森の奥に進んで行くのであった。



 いっぽう他の六人はというと……


「クッソッ! どうなってんだ、いきなりオーガとか!」


「ウワッ、ヤバいっ! アッチから新たに三体来てるぞっ!!」


「いやー、無理、ムリ、むりーっ!! 私は一抜けっ!!」


「あっ!? ちょっと、逃さないわよ!! エイッ!」


「取りあえず、コッチの二体を何とかしようや……」


「そうね、私もその意見に賛成するわ……」


 四人はオーガ二体にパニックになり、二人は冷静に判断を下している。冷静な二人によってオーガ二体は倒されたが、新たな三体を相手に四人はまだワタワタしている。


「オリャーッ、喰らえ! 俺のフレイムボムただの火球!!」


「やってしまいなさい! 私の凶悪な下僕ただのコボルトよ!!|」  


 二人が気合を込めて攻撃するが……


 オーガによってアッサリと散らされてしまう。オーガにしてみれば今の攻撃? という感じだ。


「なにーっ!? 俺の爆炎魔法がっ!? 兎は瞬殺だったのに……」


「そ、そんな…… 私の下僕が…… ゴブリンよりも可愛らしいのにっ!? よくも!!」


 そんな二人を押しのけてもう二人が前に出てきた。


「私が支援するわっ! 筋力強化! 動体視力向上!!」


 筋力強化【身体の筋肉を0.5%強くする】

 動体視力向上【1%向上する】


「フンッ! 良し! 俺の出番だ! 喰らえ、邪竜斬!!」


 邪竜斬【レベル✕0.3%の攻撃力上昇】


 剣が光をまといオーガに向けて振り下ろされた。悲しいかな、レベル上げを真面目にしていなかった四人はまだ10にも満たない為にその攻撃は情けないほど威力が無い…… という事になっている。

 実際にオーガはそのむき出しの腕で剣撃を受け止めた。


「なにーっ!? なっ、なぜだ? 強化もしてもらったのに……」


 冷静な判断をしていた男女二人がため息を吐きながら四人に冷たく言い放った。


「おい、俺とミヅキは向こうに行くからな。お前たち四人でそのオーガ三体をどうにかしろよ」


「それじゃあね、役立たずのおバカちゃんたち。私とヒロキをアテにしてもダメだからね」


「えっ? おいっ! ちょっと待てよ! ヒロキ、ミヅキ、助けてくれよ!! ちょっと弱らせてトドメを刺したら俺らのレベルも直ぐに上がるし!」


 オーガの振り下ろす腕を慌てて躱しながらスキルを発動してアッサリと受け止められた青年が動揺している。


「知るか! 自分の事は自分でどうにかしろよっ!!」


 言うだけ言って二人は足早に去って行った。森の奥へと向かいながら二人は話合う。


「ヒロキ、ヒカルはどうだった?」


 ミヅキがそう聞くと苦虫を噛み潰した顔でヒロキは答えた。


「ダメだ。あいつはもう俺たちとはつるまないだろう…… 元々悪かったあの性格が、かなりねじくれているよ」


「そう…… 私たちはどうする? あの王女様の言う通りに動くのは私はもう嫌なんだけど」


「俺も嫌だがまだ危ないな。もう少しここでレベルを上げておこう。それから抜け出しても遅くないと思う」


「分かった。早く違う国に行って好き勝手に過ごしたいね」


「もう少しだ。レベル100までは上げておこうぜ」


「うん……」


 そうして更に森の奥へと進んで行った二人。そんな二人に見捨てられた四人は……


「おい、行ったぞ。ヤエ、デバフを解除してくれ」


「うん、分かった。レイジくん、解除したよー」


「よーし、やっと本領発揮だぜ。そりゃ!!」


 さきほど、情けないスキルを見せたレイジという青年は一振りで二体のオーガを葬り去った。


「もう一体は任せたぞ、コウキ」


「イエーイ、任せな! 炎弾!」


 左の五指からパチンコ玉ほどの炎がオーガに向かって飛ぶと、その全てが残った一体のオーガの頭に当たり爆散させた。


「フッ、こんなもんよ。ヒカルにヒロキにミヅキは馬鹿だぜ。俺たちが力を隠してるのも知らずにいい気になりやがってよ、ヒャハハハッ」


「ホントだねー、コウキくんの魔法は既にこの辺りの魔物なんて瞬殺だからねー」


「おう! 俺が守ってやるからな、ミキ!!」


「うん! お願いね、コウキくん!」


 どうやらこの四人は仲間である三人にも自分たちの力を隠していたようだ。そうして、隠れて力をつけて、いずれ三人もヤッてしまおうと笑いあっている。


 

 そんな七人を水晶玉で眺めながら、ローラ王女は艶やかに笑う。


「ウフフフ、さすがは邪神様が選ばれた七人ですわ。誰がうつわとなっても可怪しくないほどの邪悪さですわ。でも、第一候補はヒカルさんですわね。あの力は邪神様にも魅力的だと思いますから…… 選ばれるのは邪神様ですけど。ウフフフ、楽しみですわ、顕現されるのをお待ちしております、@?j/様……」


 そうして、ローラ王女はまた水晶玉に目を向けるのであった。


 人外と言われるほどに成長したオッサンたちも、どうやら楽勝とはいかないようだ……


 【超】優秀なナビゲーターは果たして気がついているのだろうか? 神のみぞ知る……


    

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