第35話 模擬試合(ニ)

 俺は武士になって改めてモアル様を見てみた。すると威圧感が無くなっている……


 うん、ナビゲーターは正しかったな。俺が武士になり雰囲気が変わったのを察したモアル様が声をかけてきた。あ、防具は装備してないから見た目は変わってないけどな。


「オッサン殿、いきなり強者の雰囲気になったようだが…… それもジョブの影響かな?」


「はい、そうです。戦闘用のジョブに変更しました。先程までは違うジョブになっていましたが、モアル様と模擬試合を行うならばちゃんとしようと思いまして」


 俺がひねくり出した理屈にニヤッと笑いモアル様が言う。


「その意気やよし! これならば私も本気を出せる」


 そう言うとモアル様が気合を入れた。ゲッ! この人も戦闘用に切り替え出来るのか?


『マスター、違いますよ。普段から闘気を抑えられていて、今はマスターとの模擬試合に本気を出す為に抑えていた闘気を開放されたのでしょう』


 ナビゲーターがそう教えてくれた。えっと…… 戦闘民族? 誰か俺にスカ○ターを下さい。


『マスターならジョブこうで製作可能です』


 おっ! マジで? 作れるなら後で絶対に作ろう! てか、何でナビゲーターはス○ウターを知ってるんだ?


『それは私が【超】優秀だからです!』


 はいはい、お決まりの台詞をどうも有難う。脳内会話をしていたらモアル様が剣を抜きながら俺に話しかけた。


「オッサン殿、後で問題になってはいかぬから私のジョブを言っておこう。私のジョブは【剣皇】だ。カイリ殿の【剣帝】、それとヤーシャ・イー国の騎士団長の【剣王】に並ぶ剣ジョブの最高位だ。まあ、実際に三つのジョブのどれが一番なのかは分かっておらぬのだがな。もし、差し障りが無いならばオッサン殿のジョブも教えて貰えぬか?」


 聞かれた俺は隠す事でも無いと思い素直に話した。


「モアル様、俺のジョブは【士農工商】と言います。四つのジョブ、厳密に言うと四つどころでは無いのですが、まあ、四つを選べるというか切り替えられるジョブです。今は戦闘用の武士になってます」


「ほう? それは東方の島国、イチノニ・ラ・ンマー国のさむらいとは違うのか?」


 うえ? そんな国があるのか? えっと…… 武士と侍って何か違うんだっけ? 教えて、ナビえもーん?


『そんな基本的な事も知らないとは…… ハア〜、仕方ないですからお教えしておきましょう。武士とはその武技を活かして生業なりわいを行っていた者、侍とは主君に仕えるようになった武士を指します。まあ、大まかな説明にはなりますがおおむねはこの説明で間違いないです。マスターは武士です。仕える主君を持たないので、武士となります』


 良し! 分かった!! 俺は今ナビゲーターから聞いた説明を右から左にとモアル様に伝えた。もちろん、俺の言葉として。


「ほう? そのような違いが…… ならばオッサン殿は武技に精通しているのだな。これは楽しみだ! 私も持てる力を全て振り絞る事にしよう。剣もコレではいかんな…… コチラを使用する」


 そう言ってモアル様は抜いた剣を鞘におさめ、腰から剣を外し、虚空から一振りの剣を取り出した。


「聖皇剣【ザーナードゥー】である。この剣に斬れぬ物は今まで無かった……」


 んな危ない剣を出すなんて! これだから戦闘民族は……


『マスター、大丈夫です。マスターの刀ならばあの剣にも勝てます!』


 はい、そうですか…… 俺の刀の方が危ないとは知らなかった…… 

 俺はアイテムボックスから愛刀の二振りを出して腰にさした。俺もモアル様にならって刀の銘を告げた。


「大刀が【神魔斬】、小刀が【雷切断】」


「フッフッフッ、その刀はたいそうな業物のようだな。鞘におさめられた状態でも分かる程とは…… 益々楽しみだ!! メドシ! 開始の合図をっ!!」


「はい、父上! それでは、これよりメゾーン・イチ国総騎士団長モアルと、英雄オッサンの模擬試合を行う! 双方、用意はいいか? 始めっ!!」


 メドシ様の言葉にモアル様はその場を動くことなく闘気? をため込み始めた。


「フウー、スウー、クッ、クアーッ!!」


 ため込んだ闘気を剣に移譲しながら恐ろしい速さで俺に迫ってくるモアル様。速いっ!?


 俺はモアル様の踏込みの速さに驚きながらもカウンターで抜刀する。自信を持っていた居合斬りだが、モアル様はその剣で受け止めた。

 くっ、攻撃した俺の手の方が痺れている。だが、モアル様もまた、


「ぬっ! まさか私の手が痺れるとはな! やるな、オッサン殿!」

 

 と俺に声をかけてきた。仕切り直しとばかりに後ろに飛び下がるモアル様。だが、俺はそうはさせまいとピッタリとモアル様に張り付いて飛ぶ。


「ヌウッ! 私についてくるとはっ!」


 俺はそこで神魔斬を横振りした。当然のようにモアル様はザーナードゥーで受け止める。 

 が、俺の刀の刃はザーナードゥーの剣先凡そ十センチを斬り飛ばしていた。


「なっ!? なにっ!!」


 斬り飛ばされたザーナードゥーを見てモアル様は声を上げるが、俺は構わずに右腰にさしていた雷切断を抜いてモアル様の喉元から一センチ離して突きつけた。


「クッ! 私の敗けだっ!! よもや私が敗れるとは……」


 モアル様は俺に斬られて短くなったザーナードゥーを鞘におさめる。ついつい勢いに任せて斬っちゃったけど大丈夫かな? 聖皇剣とか言ってたからお金でどうとかなるもんじゃないだろうし……

 どうしよう……?


 俺は試合が終わって始まる前よりも嫌な緊張を覚え、動揺しまくっていた。


『大丈夫ですよ、マスター。あの程度の剣ならばマスターなら楽勝で魔力でゴリ押しする事なく作れますから。それに、聖剣ならば自己修復機能もある筈ですので問題ないかと思いますよ』


 ナビゲーターの言葉通り、モアル様は大笑いしながら俺に言ってきた。


「ワーハッハッハッ、敗けた、敗けた! 私がこうも完敗するとは! オッサン殿は世界最強ではないか!? うん? どうした? ああ、剣の事か? 心配いらない。あの程度ならばこの鞘に付与された修復機能で明日には治っておる。それよりもオッサン殿の刀は尋常じんじょうではないな。まさか聖皇剣を斬るとは……」


 モアル様はそう言ってから俺に刀を見せて欲しいと頼んできたので俺は腰から刀を鞘ごと抜いてモアル様に手渡した。

 鞘から刀を抜いたモアル様は、


「ムウ! これ程とは…… この刀は何処で? 何とっ!? オッサン殿が作ったというのか? フッフッフッ、コレはまた敗けたのも仕方がないな」


 刀を鞘におさめて俺に返してくれるモアル様。


「武士とはかなりな戦上手なのだな。あの動きからの抜刀には何とか対処できたが、もしも受け止めきっていても左手の小刀には対処できなんだであろう。私ももっともっと精進せねばならぬ! 模擬試合、ご苦労であったオッサン殿、カイリ殿!」


 こうして、モアル様からの提案だった模擬試合は無事に終わった。俺はホッとして頭を下げてカイリくんと二人、場を後にした。


「いやー、強いっすね、オッサン。自分ももっと精進するっす!」


 そう言うカイリくんとも別れて俺はミコトの教習所に向かう。


 そこでは既に女性陣が一端いっぱしのライダーとなって、自分の愛車を磨いたり、ミコトによる魔(神)改造を受けていたり、子供たちがポケバイも改造(見た目)して欲しいとミコトに頼んだりとワチャワチャしていた。


「あっ!! オッさん、助けて下さい! 私一人では子供たちの方まで対処できません!!」


 俺を見つけたミコトからSOSが来たので俺は子供たちを集めて希望を聞き、ジョブこうに変えてポケバイの外観を変えていった。


「うわー! やった、カッコ良くなったーっ!!」


 喜ぶ子供たちの笑顔を見ながら俺はこの笑顔を守らないとなと思っていた。その為にはやっぱりウ・ルセーヤ国に居るという邪神をどうにかしないとダメだろうという結論に至る。


『やっと、決心しましたか、マスター。なに、大丈夫ですよ、マスターには【超】優秀な私が付いているのですから!!』


 はいはい、頼りにしてるよ。


『それよりもマスター、今夜ミコトさんに話しておいて下さい。明後日には処刑の森から大量のミノタウロスが逃げてくるので殲滅をお願いしますと。女性陣ライダー軍団の初陣です! あのバイクならばミノタウロス如きは瞬殺出来ますので、忘れずに頼んでおいて下さいね』


 いや、ちょっと待て。ミノタウロスは何から逃げてくるんだ? 


『嫌ですね、マスター。お忘れですか? 新たな召喚者七名がレベルアップの為に処刑の森に入るからに決まってるじゃないですか。彼らから逃げてくるので、凡そ五百体のオーク、三百体のミノタウロスがコチラ方面に逃げてくるのです。大量のA7ランクの肉を手に入れるチャンスですよ!!』


 いや、A7なんてランクは無いから……


『マスター、地球ではA5ランクが最上級だったのでしょうが、それ以上なんですから分かりやすくする為にA7ランクと表現したんです。これならお馬鹿マスターでも良く分かるでしょう?』


 今サラッと俺の事を馬鹿にしなかったか?


『私がそんな事をする筈が無いでしょう! 心外です、マスター!』


 むう、取りあえず明後日は女性陣ライダーに出動してもらうけど、公爵様にも、モアル様にも話をしておこう。そう思い、俺は子供たちに今日はもうポケバイはお終いだと伝えて公爵様の執務室に向かったのだった。

 

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