第33話 話合い

 落ち着いてきたので屋敷の中に入る事になった残った俺たち。ついでにルーちゃんに言ってカイリくん、ナツキちゃん、サクラちゃんも呼んできてもらう。一緒に話合いをする為だ。更には王配殿下、王太子殿下ももちろん一緒に参加してもらう。


 で、部屋に全員が入って今後の事について話し合おうという時に、ミランダ様がバーンッと扉を開いて現れた。何か前にもあったな……


「オッサン様!!」


 えっ!? 俺ですか?


「こんな所で暇を潰している場合じゃありませんわっ!!」

  

 いえ、ミランダ様、決して暇を潰している訳では無いのですが…… 俺がそう思ったら公爵様がキレた。


「ミランダッ!? いきなり入って来て何を言っておるのだっ!! オッサン殿はここで話合いに参加していただいてご意見を頂戴するのだっ!!」


 しかしミランダ様はそんな公爵様に言い放った。


「貴方、そんな事を仰っていいんですの? 私とヘレナがオッサン様が必要だと言っているんですよの?」


 いえ、だから何だと俺は思うのですが? だって、これからの話合いは領地の今後を決める大事な話合いなんですよ、ミランダ様。


「グッ! ムウッ! ひ、卑怯だぞっ、ミランダ! 義兄上あにうえ、何とかしてください!!」


 しかし公爵様に言われた王配殿下は、


「スティーブよ、諦めるのだ。オッサン殿、申し訳ないがミランダと共に行ってくれぬか?」


 そう俺に言われたが、俺自身はここで俺の意思を尊重する事にした。


「ミランダ様、一つお聞きします。ミコトも俺に来いと言ってましたか?」


 俺の問いかけにミランダ様が少し焦った様子を見せた。


「もっ、もちろんですわ、オッサン様……」


「そうですか…… それならば戻ってミコトに離婚だと告げていただけますか。俺はこの地を少しでも落ち着いた形にしたいと思っています。それをミコトも分かっていると思ってましたが、そうで無かったようなので…… 結婚したばかりですが相容れない様なので離婚する事にします」


 俺が冷静に、しかも意識して冷たい声を出した事により、ミランダ様が突然謝り始めた。


「まっ、待って下さい! オッサン様! 先程の言葉は嘘です! ミコト教官はオッサン様を連れて来るようには一言も言っておりません。私が勝手にそう解釈をしてお返事をしただけなのですっ!! どうか、お許し下さいませ!?」


 ヤレヤレ、そんな事だとは思ったけど。でも、ミコトにも悪い部分があるのも確かだ。教官として指導をしているのならば、指導中にはその行動にも責任がある。なので、俺はミランダ様に言った。


「分かりました、離婚は撤回しましょう。但し、今夜話があるとミコトには伝えて下さい。それと、この話合いが終わるまではそちらには行けませんので、それもご了承下さい」


 俺は幾分か口調をやわらげてミランダ様にそう告げた。ミランダ様は畏まりましたと意気消沈しながら戻って行った。


「オッサン殿、申し訳ない……」

「済まぬ、オッサン殿……」


 公爵様と王配殿下に謝られたが、俺は気にしないで下さいと言って会議を始めて貰った。


 先ずはウ・ルセーヤ国のこれからの行動を読む事から始まった。公爵様のご子息たちが戻られたタイミングで、この領地は隣国メゾーン・イチ国に帰属するとの宣言書が王宮に届いている。ウ・ルセーヤ国の国王や王女がどのように動くのか、分析して対応をしなければならない。先ず発言したのはテラス様だった。


「皆さん、私は王都で王都民を守る騎士団に所属してました。国王を含め王女も民に対しては何もしていませんでした。が、貴族に対しては自分たちに従わない者を転封したり、また言いがかりをつけて爵位を下げたりしてました。しかし、武力行使はしておりませんでした。が、父が治めるこの領地がメゾーン・イチ国に帰属するとなると、恐らくは武力行使による制圧をしてくると思われます」


「フム、それに対してはメゾーン・イチ国の女王陛下我が妻より、言伝を預かっておる。私はこのままこの地に残り、必要な数の騎士団を要請するつもりだ。スティーブ殿、どのぐらい必要だと思われるかな?」


 王配殿下の言葉に公爵様は少し考え、


「殿下、わがままを言ってもよろしいか? 精鋭騎士を百、魔法騎士を五十でお願い致します」


 そう告げた。


「ほう? その数で大丈夫かな?」


「はい、恐らくは第一陣は騎士三百に兵士が千名ほどで攻めてくると読んでおります。それならば、我が領地の騎士にプラスして今回はテラスが一緒に連れ戻ってくれた騎士たちも居りますので、合わせて八百の騎士で迎え撃つ事が可能です。それに、兵士も千名はおりますのでね。殿下にお願いするのはもしも隠し玉があった時に抑えていただきたいのです」


 公爵様の言葉に王配殿下は分かったと返事をされた。更に公爵様が言葉を続ける。


「ショウ殿、カイリ殿、ナツキ殿、サクラ殿は今回は参加せずにいてください。もちろん、オッサン殿、ミコト殿も同様ですぞ。第一陣は向こうも様子見でしょう。第二陣、第三陣の時にはお力添えをお願い致します」

 

 公爵様のその言葉にショウくん以外は分かりましたと返事をした。


「公爵、いえ義父上ちちうえ!! 義兄上あにうえも戦場に出られるというのに、俺が出ないでいられましょうか!? どうか、第一陣よりの参戦の許可をお願いします!」


 ショウくんが熱く語る。うんうん、気持ちは分かるよ、ショウくん。身内になるんだから、何とか手助けしたいよね。よし、オッサンが一肌脱いであげよう。


「そうですね、公爵様。こういうのはどうでしょうか? 俺とショウくんは遊撃隊として周りの状況を確認するというのは? 何かあっても俺と二人ならば大抵の事は対処可能ですし」


「ムッ、うーむ…… 確かにそのように動いていただけるならば有り難いが…… よろしいのかな? オッサン殿、ショウ?」


 おっ! 公爵様が遂にショウくんを息子として認めたぞ。呼び捨てがその証だ。ショウくんも嬉しそうに顔を綻ばせながら大きな声で返事をした。


「はいっ!! お任せ下さい、義父上ちちうえ! オッサン、よろしくお願いします!」


「うん、よろしく頼むよ、ショウくん。で、カイリくんとナツキちゃんと、サクラちゃんには別のお願いがあるんだけど、いいかな?」


「なんすか、オッサン?」

「アタシはいいよ〜」

「アユミちゃん、キョウカちゃん、トオルくんの三人とミコトさん、ユウちゃん、レンちゃんはしっかりと守ります!」


「あっ、そうすっね、俺もちゃんと守るっす!」

「アタシも守るよ! オッサン」


 サクラちゃんはショウくんの妹だけあって察しが良いなぁ。でも、それだけじゃ無いので話を続ける。


「有難う、三人とも。それと、今いった人たちにプラスして、ミランダ様、リョウ様、ヘレナ様、レラ様、ミレイ様、ナーシェ様、マリア様、そのお子様たちも守って欲しいんだ。いくさあいだは全員この屋敷に篭ってもらうつもりだけど、戦える男手がこの屋敷から減るからそこを狙ってくる可能性もあるかも知れないからね。頼むよ、みんな」


「はい! 分かったっす!」

「任せて〜」

「結界を張ります!」


 うん、頼もしい。多分、第一陣では俺も大丈夫だとは思ってるけど、可能性はゼロじゃないから警戒はしておかないとな。そうだ、コレも言っておこう。


「もちろん、俺のゴーレムも庭に出して警戒してもらうからね。間違って攻撃しないように」


 三人がウンウンと頷いてくれたのを見て、公爵様から質問がきた。


「オッサン殿、ゴーレムまで創造出来るのか?」


「あっ、はい。言ってなかったですね。護衛ゴーレムが創造出来るので、屋敷の敷地内に出させて貰います。良いですよね?」


「もちろんだとも! よろしく頼む」


 こうして、第一陣についての対策の話合いが終わり、俺はミコトたちの元に向かった。


 そこには意気消沈してしまったミランダ様と、それを必死に励ましているミコトがいた。近づいてくる俺に気がつきミランダ様が更に落ち込む。ミコトは大丈夫だと言うようにミランダ様の背中を軽く二度叩き、俺の元にやって来た。


「オッさん、ごめんなさい。迷惑をかけてしまいました。如何様いかような罰でも受けます……」


 よ、良かった…… ミコトにもちゃんと指導者としての自覚があって。もしも、コレで逆ギレなんてされたら、オッサン、立ち直れなかったよ。


 俺はミコトの言葉にウンと頷き。


「それじゃ、罰を与える!」


 そう言ってミコトの唇を奪った。


「キャーッ、だっ、大胆ですわーっ!!」 

「ワーッ、チューしてるー!、」


 奥様方からの黄色い声が飛び、子供たちからも大きな声が飛ぶけど、俺は気にせずにミコトの唇を十分に堪能してからはなした。


「オッさん……?」


「良かったよ、ミコトがちゃんと指導者としての自覚を持ってくれていて。だから、講習と公衆をひっかけて、【公衆の面前でキスをする】の辱めの罰を与えた! コレで今回の件はお終いだ」


 俺自身も顔が赤いが、何とか言い切る事が出来た。


『もう! もう! 不意打ちなんて卑怯だわっ! もっと堪能したかったのにっ! ハッ、そうよ! 今度は私から謝罪としての熱いキッスをすれば良いのよっ!! 今よ! ミコト!!』


 全部、聞こえてるけど甘んじて俺は謝罪のキスを受け入れた。よわい五十才、好きな人とのキスがこんなにも甘いとは俺も知らなかったからな。許して欲しい……


 その日の夜、俺とミコトは無事に結ばれたと誰にとは言わないが、報告しておくよ。



   


 

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