第32話 公爵領に戻られたご家族
昨日は大変だった…… 先ずはヘレナ様用のバイクを出すと、その後になぜかオヅノ様がコソッと近寄って来られて俺にこう言った。
「あの、オッサン様…… 妻用のよりももう少し小さくて扱いやすくて、悪路でも乗れるようなバイクは無いですか?」
と…… 貴方もですか、オヅノ様……
仕方なく俺は奥様がたから離れて少し小型の某メーカーが作っていた狩人カブ125ccを出して上げた。
するとさらりとオヅノ様は俺に握り拳を差し出す。
「この拳の下に手のひらを広げてくれませんか?」
? そう言われて素直に俺が出すと握っていた拳を開いたオヅノ様。チャリチャリーンと音がして自分の手のひらを見たら黒金貨が五枚乗っていた。
「すみません、足りないかも知れませんが私の小遣いではコレが精一杯なんです。コレで売っていただくのと、乗り方の講習をお願い出来ませんか?」
だーかーらー、どこの国でもお貴族様の金銭感覚が俺みたいな一般庶民と違いすぎて困ってしまう。十分な額だから俺はもちろんこの金額では多すぎですと二枚はお返しした。
でも、いやしかし、などと言うオヅノ様を何とか説得し終えると、
『マスター、その調子です。商人レベルが上がりましたよ。交渉の熟練度も』
ナビゲーターからお知らせがきた。よし、この調子で頑張ろう。それからオヅノ様に講習をして、オヅノ様、センスが良くてものの小一時間ですっかり乗れるようになっていた。魔核への魔力補充もお手の物だったよ。しかし、その後がいけなかった……
乗れるようになった喜びからか、なんと乗ったまま奥様がたの方に行ってしまったのだ……
自慢気に見せたオヅノ様だったが、先ずはご自身の奥様、ヘレナ様からのお言葉。
「貴方! そんな小さなバイクではオークを倒せませんわ!!」
続いてミランダ様。
「まあ! オヅノ! 貴方って子供の頃から小さい方が好きよね。だからヘレナだったんでしょうけど……」
いや、ヘレナ様は普通の身長だと思うけど…… そう思い俺は気がついてしまった…… そうだ、俺のおっぱいレーダーに反応が無い事に。そ、そういう事だったのか、オヅノ様は小さいのがお好きなんだな……
最後にミコトが、
「皆さん、聞きなさい! これはバイクではありません! バイクとは私たちが乗っているのを言います。オヅノさんが乗っているのは【カブ】です!!」
「「ハイ! 教官、理解しましたっ!!」」
いや、バイクって二輪車の名称だから、カブもバイクだよ、ミコト。だが、まだバイクについてミコトを論破出来る自信が無い俺は涙目になってるオヅノ様を残して、コッソリとその場を後にした。頑張れ、オヅノ様!
そして一日経って今朝は公爵様が屋敷の門前に立っていた。何事か聞いてみたら、さっき領都の門衛から連絡が来て、ご子息、ご息女ご夫婦が到着したそうだ。そして、着いてきた王都民や騎士たちも。
実は公爵様はこういった事態を想定して何年も前から準備をしてきたそうで、彼らの住む場所などは既に用意済みらしい。普通の民は領都の防壁から東に五百メートル向かった場所に、領都と同じ規模の防壁で囲った住居、農地、商店などを建てているそうだ。騎士たちもその場所の治安を守る為に一緒に行って貰うとの事。抜かりが無いな。
俺も何となく公爵様と一緒に立っていたら、ショウくんとマリア様もやって来た。
「オッサン様、おはようございます。一緒に兄様たちをお出迎えしてくださるんですか?」
マリア様にそう聞かれたので、成り行きだがそうなんですと返答しておいた。
「有難うございます。オッサン様とミコト様、ユウちゃんにレンちゃんが来て下さって領地はとても明るく楽しい場所になりました。兄様たちも楽しみにしてるようです」
そ、そうなんですね。でも、俺は特別な事は何もしてないですよ。むしろ、ミコトが大活躍のような気がします。それに、ショウくんたちが周辺の危険な魔物や魔獣を狩っているのも大きいんだと思うのですが。俺はそう思ってその考えをマリア様に言ってみた。
すると公爵様から反論が出たよ。ビックリしましたよ、公爵様。
「それは違うぞ、オッサン殿。オッサン殿が売ってくれた自動車にバイク、あれらは他では手に入らぬ。それに、ショウ殿たちを鍛えてもくれた。それによって我が領地はウ・ルセーヤ国から抜ける算段が着いたのだ。オッサン殿の功績は大きい!」
「そうですわ、オッサン様。私もショウからオッサン様の凄さを聞いております。ご自分にもっと自信をお持ちになって下さい」
二人がかりでそう言われて困ったようにショウくんを見ると
「オッサン、そうですよ。俺たちもオッサンのお陰でこうしてここに居られてます。だから、これからも指導をお願いします」
なんて言って頭を下げられてしまった…… うーん、俺の目指すスローライフはまだまだ先のようだ。まあ、関わってしまった以上に公爵様にはお世話になっているから、落ち着くまでは何とかしたいとは思ってる。じゃないとミコトやユウとレンと落ち着いて生活出来ないからな。
待つこと十五分。遂に三台の馬車が連なって現れた。その後ろにも馬車が五台ほど居るけど…… 荷物が乗ってるんだろうな。
三台は六頭だての馬車。後ろの五台は四頭だての馬車だった。先頭の馬車から公爵様によく似た男性が女性と子供をエスコートして降りてきた。
「父上、無事に戻りました。妹たちとも合流でき、こうして一緒に戻ることができました!」
「うむ、良くぞ無事に戻ってまいった。テラスよ。レラも疲れたであろう、孫たちと共に屋敷で寛ぐが良い」
「お
何と、この人もミコトの信者か? いや、バイクのトリコか……
「お
その話の最中に二台の馬車から降りてきたご夫婦。
「お父様、戻りましたわ。私もお
「私もそうしますわ、お父様」
いや、帰ってくるなりソレで良いのか?
「フウ〜、仕方ないな。ミランダがどうせお前たちもと書いて知らせたのだろう…… マリア、お前がミコト殿の所に案内しなさい。だが、その前に、お前たち、貴族の礼を忘れておるぞ! コチラにいるのはミコト殿のご主人でオッサン殿だ。そして、コチラがマリアの婚約者であるショウ殿だ。恥を知るならばちゃんと自己紹介をするのだ!!」
公爵様が一喝するとハッとした顔をする六人。先ずはご子息様が立ち直ったようだ。
「お客人に対して礼を失した態度を取り、申し訳ありません。私はスティーブ・セーヤの長男でテラス・セーヤと申します。こちらは妻のレラと息子のコウシと娘のリヤです。オッサン殿、ショウ殿、これよりよろしくお願い申し上げます」
次に男性が、
「私はコルト・ユーミー侯爵です。こちらの妻、ミレイの夫となります。オッサン殿、ショウ殿、英雄と出会えて光栄です」
そう名乗り、公爵様のご息女が続く。
「私はミレイ・ユーミーで、スティーブの長女です。こちらは娘のハレイです。よろしくお願いします、英雄様方」
更にもう一人の男性が続く。
「初めてお目にかかります、英雄様方。私はジン・ライム侯爵です。私の先祖は今から百六十年前に召喚された者だそうです。私の名付け親はその召喚された曽祖父だと言う話を祖父から聞いております。どうか、よろしくお願い致します」
うん、間違いなく召喚された人だよ。ライムって言う名字? 性? にジンって名前をつける時点で間違いないと思います。
「私はスティーブの次女で、ナーシェ・ライムと申します。息子のサガン共々、どうかよろしくお願い申し上げます」
「僕は皆様の妹御であるマリアと婚約させていただきました、ショウと言います。兄上、姉上に恥じない行動を取るつもりです、どうかご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します」
ちょっ! ショウくんズルいよ! そんな立派な挨拶なんかして! オッサンは何も考えて無かったから、簡単に名前だけ言って済まそうと思ってたのに……
そんな俺の内心はともかく、皆さんからの視線が集まっている。俺は覚悟を決めて挨拶をした。
「えー…… どうも初めまして。オッサンと言います。ミコトの夫です。どうかこれからよろしくお願いします」
俺にはコレが限界だ。許して欲しい。そこにマリア様が爆弾を投げた。
「お姉様、オッサン様がお姉様たちの楽しみにしているバイクを作られますのよ。乗り方はミコト様がお教えしてくださるけど、オッサン様が居ないとバイクには乗れませんのよ」
それを聞いたお三方が俺に熱い視線を送って来たあとにそれぞれのご主人に対して、
「貴方! 黒金貨の用意は出来てますわよね? まだ? 何をやっているの!? お
それぞれ似たような言葉を発してマリア様の案内でミコトの元に向かった。
残った男性陣がガックリと項垂れていたのは見ものだったよ。
どうも公爵様の身内の方は女性の方が強いみたいだな…… 俺も気をつけよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます