第31話 やって来た隣国の王族
「という訳でミコト。隣国メゾーン・イチの女王陛下に会いに行く事になったから」
「なにがどうなって【という訳】なのかは分からないけど、私はオッさんの行く所に着いていきます」
我が妻はチョロインだったよ。あ、オッさん呼びなのはメイドさんが居るからね。
それから隣国へ行く理由を告げるとミコトは心の中で妄想を始めた。
『フフフ、バイク仲間が増えて行くわ。その内ツーリングの計画もしないとダメね。そして、ナンパしてくる馬鹿な男たちをバイクで轢いて……』
轢いちゃダメだからね、ミコト。ここはさすがにスルースキルを発動せずに人を轢いちゃダメだぞと言っておいた。
「オッさん、分かりました。轢くのは魔物、魔獣だけにしておきます」
いや、出来ればそれも止めて貰いたいのだが。まあ、そんな感じでチョロかったから商人レベルは上がらずに、つぎのユウとレンに期待しつつ、部屋に向かった。
「おはよう、ユウ、レン」
「おはようパパ」「パパおはよー」
うんうん、二人とも今日も元気そうだ。しっかりと食事もして体にもちゃんとお肉がついてきてる。
「実はね、お話があって来たんだけど。今度隣の国の女王様に会いに行く事になったんだ。それで、ユウとレンも一緒に行って貰おうと思ってるんだけど、良いかな?」
「うん! パパと一緒に行くー!」
レンはそう言うのは分かってたよ。さて、ユウはどうかな?
「パパ、もうお隣の国に行ったらここには帰ってこないの?」
やっぱりそう来たか。だが、パパは娘を悲しがらせはしないぞ、ユウ。
「フフフ、そんな事はないよ。女王様にお会いして、用事が終わったらまたここに戻ってくるよ」
俺の返事を聞いたユウが笑顔になった。
「うん、じゃあパパやお姉ちゃんと一緒に行く」
あ、ミコトは俺の妻になったけど、ユウとレンはママとは呼ばずに前のままお姉ちゃん呼びだ。ママって呼ぶにはミコトは若すぎるそうだ…… うん、俺はオッサンだからパパね……
『マスター、珍しく気づいておられたのですね』
ナビゲーターが俺に言ってきた。
そりゃ気づくだろうよ。あんなにも熱い視線を送ってたんだから。ユウはここで十ニ歳の誕生日を迎えた。そして、女の子から女性となった。なってしまった…… 親としてオッサンは喜ばしいと思うとともに、少しさびしくも感じてしまう。
そんなユウが熱い視線を送っているのはトオルくんだ。そして、トオルくんはその視線には気がついてない。しかし、パパは応援してるからな、ユウ。しかし、不純異性交友はまだ許さないよ! パパ怒ってトオルくんを斬っちゃうかも知れないからね。
『まだお付合いもしてないのに何の心配ですか? 頭の中は大丈夫ですか、マスター?』
フンッ、こういう事は前もって考えて覚悟を決めておくのが大切なんだよ。同級の結婚して子供が娘しか居なかった奴がそう言ってたから間違いない!
『フウ〜…… ではそういう事にしておきましょう。マスター、商人レベルが1上がって2になりました。交渉の熟練度も上がってます。メゾーン・イチ国に行くまでに上げれるだけ上げておきましょう。女王は無理難題を言ってくる可能性もありますので』
えっ!? そ、そうなのか? バイクの件だけだと思ってたけど……
『バカですか、マスター。公爵から車の件も話をされてるでしょうし、他の件についても調べられてると思って間違いないでしょう。そう考えて行動すべきです。ですので隣国からの視察旅行に来られた他の王族の方の動向に注意して、更には交渉を繰り返してレベルアップを目指して下さい』
わ、分かった。頑張るよ。俺はナビゲーターにそう返事をしながらユウとレンにそれじゃ中庭に行こうかと声をかけた。
「うん、パパ」
中庭でユウとレンに木刀を持たせて稽古をしていたらショウくんとサクラちゃんもやって来て、一緒にやらせて下さいと言ってきた。
そうだな。森でも二人には素振りから型稽古を教えていたのでそのまま参加してもらう。
一時間ほどで小休憩して、また再開。ユウとレンはスキルに刀術が生えてきたそうだ。鍛えると増えるのな、この世界。ショウくんとサクラちゃんにはまだらしいけど、繰り返していれば出てくるだろう。ユウいわく、そういうモノらしい。
「ハアハア、ユウちゃんもレンちゃんも
サクラちゃんがハアハア言いながら俺の娘をそう褒めてくれた。
「いや〜、それ程でも」
俺がそう言うと、ショウくんが
「オッサン、親バカですか、親バカですね!」
と断言してくる。そうだぞ、オッサンは親バカだ!! 開き直る俺だが、ユウとレンは少し恥ずかしそうにしていた……
稽古を終えて風呂場にいき軽く汗を流す。もちろん、男女別の風呂場だぞ。公爵様の好意でいつでも使えるようにしてくれているのだ。風呂場でショウくんからある提案があった。
「オッサン、俺とマリアの結婚式の時に合同でしませんか? あまり目立ちたくないとの事だったので、俺とマリアの結婚式にまぎれればそれほど目立たないとマリアも言ってましたから、どうですか?」
「おう、それは良いな。ミコトにも確認してから返事をするよ。でも、まだ結婚させないって言われてたんじゃなかったのか?」
「それが、隣国から来られる王族の方たちが早とちりしてマリアに結婚祝いを持って来てるそうなんです。それならば来られたタイミングで結婚式をしようって話になって、でも急な話だったからこの二日間はバタバタしてました…… まあ、主役の俺とマリアは何もしなくて良いって言われてたんですけど、落ち着かなくて…… サクラに言うとオッサンが朝稽古をユウちゃん、レンちゃんとやってるからと言って連れ出してくれたんですよ。それで、マリアに言われてた事を思い出して今お知らせした感じです」
うわ〜、イキナリだったんだな。でも、早まったんなら良いじゃないか。俺からも何かお祝いを用意しないとな…… 日本だと新婚旅行に行くだろうし…… 旅を快適にするキャンピングカーだな。ショウくんなら大事に乗ってくれるだろうし、魔核仕様で作って上げよう。俺は心の中でそう誓った。改造はミコトに任せよう。俺がするよりも対魔物、魔獣仕様に
そうして、その日の午後に遂にメゾーン・イチ国の王族がたがやって来た。公爵様は境界まで車でお出迎えに行ってたらしく、
ショウくんたちも少し気圧されてるみたいだな。
「出迎えご苦労! 英雄たちに出会えて光栄だ。私はメゾーン・イチ国の王配であり、騎士団をまとめているモアル・メゾーン・イチだ。よろしく頼む。おお! 貴方がオッサン殿だな。コチラに居る間に一手ご教授をお願いしたい、頼むぞ。それと、カイリ殿はどちらかな? おう、貴方がそうか。珍しいジョブ、剣帝だとお聞きした。貴方とも一手お願いしたい、よろしく頼む!」
い、一方的に言われて了承した事にされてしまった…… クッ、交渉を発揮する間もなかったとは…… さすが、王族。しかし、次こそは頑張るぞ!!
「オッサン、勝てる気がしないっす……」
「カイリくん、弱気になるな。胸を借りるつもりで行けばいい」
「はいっす……」
その後に馬車に乗ってやって来たのは、王太子殿下ご夫婦と王女殿下ご夫婦だ。
王太子殿下は父親ほど背は高くないが、しっかりと引き締まった体でかなり鍛えられているのが見て取れた。
「皆様、初めまして。私が居ない間にひょっとして父が皆様に試合を申し込んだりしませんでしたか? 全て無視して大丈夫ですので、ご安心ください。申し遅れました、私はメドシ・メゾーン・イチと申します。隣は妻でリョウと申します」
「皆様、お出迎え有難うございます。メドシの妻でリョウと言います。私もミコト様のバイクに興味があるので、あとでお見せいただけないでしょうか?」
「はい、もちろんです!」
ミコトが嬉しそうに即答している。ツーリング仲間を増やそう計画が着々と進んでいるようだ。だが、王太子殿下のお顔が少し苦いぞ…… どうか俺にお小言が回ってきませんように……
『何を言ってるんですか、マスター! お小言は望むべきです! 商人レベルを上げるチャンスなんですからっ!』
そ、そうだった……
次にはミランダ様とミコトに助けられたヘレナ王女殿下ご夫婦だ。
「お姉様がた! やっと来れましたわっ!! この日がどんなに待ち遠しかったかっ! さあ、早速私のバイクをっ!!」
そんなヘレナ様をご主人だろう人が慌てて止めた。
「待て待て! ヘレナ! 先ずはご挨拶にお礼を述べるべきだろう!
その言葉にヘレナ王女殿下は顔をサッと青くしてから、王族としての態度に早変わりした。
「皆様、お出迎えを有難うございます。また、ミランダお姉様、ミコト教官には先日、危ないところを助けていただき、感謝の念にたえません。それと、マリア! 結婚おめでとう! ショウさんはアチラの英雄様よね! なんてイケメンなのっ!! まあ私の主人には負けるけど!」
「コラコラ、ヘレナ、また王族としての態度を忘れてるよ。スミマセン、ショウ様。どうかお許し下さい。皆様、本日は私たちのわがままを聞いていただき、本当に有難うございます。私はヘレナの夫でメゾーン・イチ国で侯爵位を女王陛下より賜っております、オヅノ・ベンテンと申します。よろしくお願いいたします」
おお、オヅノさんはまともな方のようだ。ちょっと安心した。
こうして、隣国の個性的な王族がたがやって来られたのだった。明日は一日、領都の中を見学され、明後日には公爵様のご子息やご息女たちも戻って来られるので話合い、明々後日は何故かカイリくんと俺が王配殿下と王太子殿下と模擬試合となった。
何故かヘレナ王女殿下は一切それらには関わらずに、ミランダ様とミコトと共にバイク講習という事になっている。
王配殿下があっさりとヘレナ様がバイクに乗るのを許可したのにはガックリきてしまった……
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