第29話 隣国の女王陛下からの親書

 そんなこんなでミコトさんと夫婦になる事になったけど、先ずは隣国の王族の方々のお出迎えをして、楽しんで貰い帰っていただき、それから落ち着いたらお祝いしようという話になった。


「旦那様、さあ今日の朝食はコチラです…… 『そこで私は裸エプロンで起こして差し上げて、それで興奮した旦那様が朝からきつく私を抱き締めて……』」


 漏れてるから、ミコトさん…… 朝から妄想がダダ漏れになってるから…… 先ずはそのヨダレを拭いて下さい…… 頭の中でそう思いながらも口から出した言葉はちゃんと違う。


「有難う、ミコトさん。いただくよ」


「旦那様、結婚したのですからミコトと呼び捨てにして下さい『いえ、むしろこの雌奴隷がっ、と罵倒していただいても……』」


 俺は妄想を止める為に慌てて返事をした。


「分かった、ミコトと呼ばせて貰うよ」


「はい! 旦那様!」


「ミコトも旦那様じゃなくて名前で呼んでほしいな。二人きりの時だけ。俺の名前は○○○なんだ」


「えっ? オッサンじゃ無いんですか!?」


「違うよ。オッサンは仮の名前だよ。この世界に来たときに念じたらオッサンって名前が能力値ステータスに表示されるようになっただけなんだ」


「そうだったんですか、変わった名前だとは思ってたんですけど…… 分かりました、○○○と二人きりの時はその名で呼びますね」


「うん、よろしくね。あ、ユウとレンには教えてもいいかな? 家族だからね」


「はい、そうですね、そうしましょう」


【ミコトの心の中】

『ふう、美少女二人を連れて戻ってきた時にはコレで私もお払い箱かと思ったけど、まさかプロポーズされるなんて…… 嬉しかった…… こんな私をいつも気遣ってくれたオッさんがプロポーズしてくれて…… でも、いつになったら押し倒して目眩めくるめく官能の世界に連れて行ってくれるのかしら? 私はもういつでも良いのに……』


 俺のオッサンスキル【スルー】はかなり進化しているようだ。いや、ひょっとしたら神化したのかも知れない。

 朝食はとても美味しく、ただ朝からかなりボリュームがあって、しかもスタミナ料理だったのはご愛嬌という事にしておこう。

 今回、隣国の王族の方々にもミコトが指導して料理を振る舞うのだが、この料理ならば文句など一つも出ないだろう。ミランダさんに確認して、好物のリサーチも完璧だしね。


 そうして朝食を食べた俺は三人の様子を見に行く事にした。


 三人、アユミちゃん、キョウカちゃん、トオルくんはルーちゃんと話をしていた。


「そうねぇ…… アユちゃんとキョウちゃんはジョブから言って冒険者ギルドで良いと思うわよ。トオルちゃんはどうなのかしら? 何が出来るのか教えてくれない?」


「はい、僕のジョブでは筺体という箱を作って中の装置も状況に応じて作れます。例えば……」


 そう言ってトオルくんが五十センチ四方の箱を作り出した。


「この筺体の中には水の浄化装置が入ってます。この上側の穴に汚れた水のホースを繋ぎ、下の穴に筺体を通した水を流すホースを繋げば、出てくる水はきれいな水となって出てきます。その効果は一年間続きます」


 浄水装置か、凄いな。小さな村なんかでは重宝するんじゃ無いだろうか。


「うーん、確かに便利なんだけど…… それを作れるのはトオルちゃんだけなのよね? 例えば技術の提供とかが出来るとかじゃ無いのよね?」


「はい、この中身は僕でも説明ができません。僕が心の中で思った通りの効果を出すように作られていますが、その装置がどうなってるかは分からないんです。筺体も蓋がある訳じゃ無いので中を見るのなら箱を壊す必要がありますし…… やっぱりこんな能力じゃダメですかね?」


「アラ? ダメなんて言ってないわよ。ただ今あるギルドに所属するのが難しいだけよ。それに、作れるのはそれだけじゃ無いんでしょう? それならどうとでもなるわ。公爵様とお話しましょう。きっとトオルちゃんに興味を持つわ」


 さすがはルーちゃんだ。ちゃんとトオルくんの事を考えてくれている。俺はそこまで話を聞いて四人に声をかけた。


「おはよう、みんな。どうやら何とか身の振り方を決められそうだな」


「出たわね! 裏切り者!」


 いや、ルーちゃんよ、裏切るも何も君とは何の約束もしてないからな。  


「えっ!? オッサンさん、ルーさんとお付合いしてたのにミコトさんと……」


 違うからね、アユミちゃん。キョウカちゃん、そんな蔑んだ目でオッサンを見ない! トオルくん、訳知り顔でウンウンと頷かない!

 俺は全力でルーちゃんとは何の約束もしてないし、付合いもしてない事を説明した。


「ダーリン、そんなっ!? あの一夜のトキメキを忘れたって言うの?」


 いや、知らないから…… 一夜も何もルーちゃんと夜を過ごした事は一度も無いからね。念押しして言っておく。


「フンッ! まあ良いわ。今に私の良さが分かってヨリをもどしてくれって言ってくるんだから!」


 絶対に無いからね。それじゃ、ここはもう退散しておこうと思いきびすを返そうと思ったら、ルーちゃんが俺に言う。


「あ、ダーリン、公爵様が呼んでたわよ」


 早く言えっ!! 俺は公爵様の執務室に向かった。


「おう、オッサン殿、おはよう」


 ちょうど執務室に入ろうとしていた公爵様と鉢合わせした。そのまま一緒に執務室に入る。


「公爵様、お呼びとうかがいましたけど?」


「ああ、実は義姉上あねうえから親書が届いてな…… オッサン殿、王配あにうえや甥、姪夫婦が隣国に戻る時に、一緒に隣国に出向いて貰えないだろうか? 義姉上あねうえがどうしても会いたいらしくてな……」 


「はい?」


「いやその…… 姪であるヘレナ王女殿下の話を聞いてバイクにとても興味を持ったようでな…… ヘレナだけになどズルいと言い出しておるようだ…… ソレは王配あにうえからの親書で分かったのだが……」


 えーっと…… つまりコレは決定事項な訳ですかね、公爵様? そうですか、決定事項ですか。

 まあ俺もこの居心地いい公爵領にいつまでもお世話になりっぱなしっていうのは心苦しく思ってましたから良いんだけど、王族とかかわり合いになるのか…… 出来れば避けたいなぁ。


「あと因みになんだが、ウチはウ・ルセーヤ国から離脱して、隣国メゾーン・イチ国に属する事を決めたから。息子夫婦とその賛同者、それに民の一部がウチに亡命してきている。彼らがウチの領地に入るのを確認してからウ・ルセーヤ国にその旨を伝える事にしてある」


 思い切ったなぁ、公爵様。実の兄より義理の姉と組む事にしたんだから、かなり悩んだんだろうな。


「それにより、恐らくここは戦場になるだろう。そうなる前に皆を隣国へと出すつもりだ。ここは私と息子、それに騎士団を配備して守る」


 アレ? ショウくんたちはどうするのかな?


「ショウ殿たちも隣国に移って貰うつもりだ。私たちの世界の揉め事に巻き込みたくないのでな」


 はあ、本当に良い人だけど…… 恐らくは向こうは新たに召喚した者たちを繰り出してくるから公爵様たちだけでは対抗できませんよ。


「それでは犬死ですね、公爵様。ショウくんたちはともかく、俺はここに残っておきます。なに、いい手がありますから」


 そう、俺は遂に禁断のジョブを極める事にしたのだ。そうある意味最強とも言える商人を!!


 まあ、先ずは隣国の女王陛下にお相手いただいてスキルに磨きをかけようと思う。戦場になると言っても直ぐにはならないから時間的な余裕はある筈だしね。


「しかし、オッサン殿、せっかくミコト殿と結ばれたのに!?」


「だからですよ、公爵様。俺は平和な世界で穏やかに暮らしたいと思ってますから、これは俺やミコトの為でもあるんです。もちろん、ユウとレンの為でもあります」

  

 俺の言葉に公爵様は


「かたじけない……」


 そう言って静かに頭を下げた。 


 さてと、それじゃ先ずはミコトとユウとレンの説得からだな……


『マスター、助力が必要ですか? というかこれからのためにも早速ですが商人になって【交渉】を鍛えましょう。身内を説得出来ないスキルでは役に立ちませんからね』


 鬼なナビゲーターの指示に今回は素直に従う事にしたよ。さあ、俺はこの異世界一の商人になるぞ!!

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