第28話 三日も寝てた?

 俺は目を覚ました。


『お目覚めですか、マスター』


 おう、よく寝た気がするよ。腹の痛みも無くなってるし。


『サクラさんの癒しと回復のお陰ですね。それよりも、そろそろ公爵領に戻らなければなりません』


 えっ? 何でだ? まだショウくんやカイリくん、サクラちゃんの個別指導があるだろう?


『マスターは気絶してから三日寝てました。本来なら今日は戻る日になります。戻らずに個別指導をしていたら隣国の王族の視察旅行に間に合いませんよ』


 俺はなんと三日も寝ていたのか…… あの少年の打撃はとんでもないな。癒して回復してもらってコレなんだからな。


『内臓が傷ついてましたので仕方ないかと思われます。ショウさんたちは自分たちだけでレベリングを行い、ショウさんがレベル37、カイリさんがレベル38、ナツキさんがレベル35、サクラさんがレベル34になりました。十分な成果です』


 そうか、それなら帰っても大丈夫だな。けど、四人には悪かったな。そうだ、助けた三人はどうしてる?


『アユミさん、キョウカさん、トオルさんの三人もレベリングを行い、それぞれレベル12になってます。因みにジョブはアユミさんが魔法剣師、キョウカさんが討鬼匠とうきしょう、トオルさんが筺体師きょうたいしです』


 えっと、魔法剣師は何となく分かるけど討鬼匠とうきしょう筺体師きょうたいしって何?


『読んで字の如くですよ、マスター。討鬼匠とうきしょうは鬼を討つたくみです。この場合の鬼は人から見てのあくを指しています。筺体師きょうたいしはそのままです。作った筺体の中に装置を仕込めます』


 いや、討鬼匠とうきしょうは分かったけど、筺体師きょうたいしは訳分からんぞ……


『マスターの理解力では仕方ありませんね。その内にトオルさんに見せて貰って下さい』


 なにか引っかかる言い方だが、まあ分からないからしょうがないか。そこに扉をノックする音が聞こえた。


『はい、どうぞ』


 俺が返事をする前にナビゲーターが返事をした。


「どうすっか、ナビさん。オッサンは目を覚ましたっすか?」


 扉を開けて入ってきたのはカイリくんとサクラちゃんだった。って、カイリくんにも既に話しているのか。


『仕方ないでしょう。マスターが倒れてしまったので、私が彼らを指導しました』


「ほんっと、鬼でしたっす。途中で何度も死ぬ思いをしたっす。って、オッサン、目が覚めたんすね。良かったっす」


「オッさん、良かった。目が覚めたんですね。私、自信を無くしちゃうところでした……」


『いえ、サクラさんの癒しは完璧でした。ひとえにマスターの年の所為です』


「ほっとけ! サクラちゃん、有難う。サクラちゃんのお陰で痛みもすっかり無くなったよ。けど俺が体力ないから三日も休んでしまったようだ。悪かったね。みんなにも心配をかけたようだ」


 俺がはっきりとそう告げると二人とも安心したように微笑んだ。


「元気になって良かったっす。ナツキちゃんが連れて来た三人も元気にレベリングしてたっす。それじゃ、ショウさんに言って帰る準備をするっすね」


「分かった。俺も準備するよ」


 二人が出て行った後に俺は起き上がり着替えを済ませた。

 ふと気になってナビゲーターに尋ねた。


『なあ、俺が寝てる間って排泄はどうなってたんだ?』


『フフフ、マスター、気になりますか?』


『そりゃ、気になるだろう』


『ナツキさんが足取り腰取り……』


『嘘っ! マジか!?』


『嘘です。体を休める為に少し私がいじらせてもらいました。排泄分すらも栄養に変換したので、寝てる間の排泄はしておりませんのでご安心を』


『焦らすなよ。でも、助かったよ、有難う』


 俺が素直に礼を述べると


『私の超優秀さがコレでマスターにも分かった事でしょう』


 などと言われたのでハイハイと返事をしておいた。


 俺が部屋を出るとみんなが揃っていた。ゴーレムたちも居る。俺はみんなに頭を下げた。


「すまん、どうやらみんなに迷惑をかけたようだ。満足に個別指導も出来なくて申し訳ない」


「オッサン、大丈夫ですよ。超優秀なナビゲーターさんが指導してくれましたから、俺たちそれなりにレベルアップを果たしました」


 とショウくんが言い、ナツキちゃんも


「オッサン、無茶したらダメだよ〜。心配したんだからね」


 と言ってくれた。 


「あの…… 助けてもらって有難うございます」

「ここで皆さんに助けて貰いながら少し強くなれました」

「僕はこれからもっと強くなりたいです。助けてもらって有難うございました」


 アユミちゃん、キョウカちゃん、トオルくんもそう言ってくれた。


「うん、三人とも良かったよ。それじゃ今から公爵領に戻ろう。隣国の王族が来るまでに戻らないとな」


 そして俺はゴーレムたちを収容して、拠点としていたワンルームも収納して森を出ると車を出してみんなで乗り込んだ。

 帰りはショウくんに運転席に座ってもらった。俺は助手席でノンビリさせて貰う。


「オッサン、戻ったらこの子たちはどうするんですか?」


「ん? それは本人たちに決めて貰うよ。公爵領で住むのもいいし、別の場所を探して旅するのも良いだろうし。取りあえずギルドに登録して身分証を手に入れて貰うよ」


「あの、ギルドって冒険者ギルドですか?」


 トオルくんが目を輝かせて聞いてくる。うん、これだけ元気になったんならもう大丈夫だな。


「うん、そうだよ。他にも商業ギルド、魔術師ギルド、職人ギルドなんかもあるみたいだ。詳しくは公爵領についてから、優秀な【オネエ】さんが居るから聞いてみると良いよ。自分に合ったギルドに登録すれば良いと思うよ」


 そう、俺はルーちゃんに聞けば良いと思ったのだ。オネエになってしまったが優秀な事に変わりは無いので大丈夫だろう。


 そうして俺たちは公爵領に戻ってきた。隣国の王族はまだ来ていない。ゆっくりと体を休めるように、先ずは公爵様とお話しないとな。三人も人が増えるんだから。


「オッサン殿、戻ってきたか。どうやらみんなのレベルアップは順調だったようだな。それで、そちらの少年や少女たちはどなたかな?」


 それに答えようとしたら、ショウくんが話を始めたので俺は黙る。


「この子たちは王家による新たな犠牲者です。王家は戻ってこない僕たちに見切りをつけ、十人を召喚したそうです。その内の三人がこの子たちなのですが、今回はこの三人は王女の慰みものとして召喚されてしまったそうです。それに気がついたオッサンが、ナツキと一緒に王宮へと行き救出してきました。今回召喚された他の七人はどうも王家と同じような者たちらしく、オッサンも大怪我をして戻ってきました。幸い、サクラの治療が効いてオッサンは回復したのですが、これからどのような手を打ってくるのか、予断を許さない状況です」


 ショウくん、理路整然と話すなぁ。さすがはイケメンだ。


「なっ? ど、どうやって森から王宮へ?」


 あ、やっぱりソコが気になりますか…… 困ったな、何て言おうか?


『マスター、ここは神による奇跡で行きましょう!』


 了解。


「あ〜、公爵様。神様の奇跡によってです」


「ムウッ! ま、まあそういう事にしておこうか…… それよりも体はもう大丈夫なのかね、オッサン殿」 


「あっ、はい。すっかり良くなりました。ちょっと新しい召喚者に不覚をとりまして…… まあ、一矢報いて戻ってきたので直ぐに動く事は無いとは思いますが、王都に居られる息子さんご家族は早めにコチラに呼び戻した方が良いかと思いますよ」


「むっ、もうそんな所まで来てしまったのか…… 分かった。息子には直ぐに連絡を入れよう。それよりも、オッサン殿が不覚をを取るとは……」


 公爵様が真剣に悩んでいる。けどまあ大丈夫じゃないかな。俺もレベルアップしてたし。それも一気にだよ。少年の腕を斬り飛ばしただけなのにな。戻る道中で確認したらレベル52になってたよ……

 どんだけ格上だったんだ、あの少年は。俺も良く腕を斬り飛ばしたなって後になって怖くなったよ。まあ、座頭○を良く見てたお陰だな。

 ああ〜、やっぱり最後のセリフは言ってから戻って来たかったなぁ……


 そんな阿呆な事を思っていたら、駆けてくる足音が聞こえてきて、ユウとレン、それにミコトさんにまで抱きつかれた。


「パパ、パパ! だい、大丈夫だったの? ナツキさんから聞いて、本当に大丈夫なの?」

「パパー、居なくなっちゃヤダーッ!!」

「オッさん、まだ私の操を捧げていないのに、危険なことをして! ダメですよ!!」


 三人が三人とも目に涙をためて俺にそう言う。ああ、地球では持てなかった家族がココに居るな……

 俺もちょっと涙目になりながら、ユウとレンの頭を撫でて、二人を抱き上げる。


「大丈夫だぞ、パパは誰よりも強いんだから、心配するな。ユウとレンが成人して、ちゃんと生活出来るようになるまでパパは居なくなったりしないからなっ!」


「うん、うん、パパ。約束だよ!」

「パパ、約束!」


 それから二人をおろして、ミコトさんに


「ミコトさん、操を捧げて貰うのはまだ早いな。ちゃんと、俺から言わして貰おう。こんなオッサンでも良いよと言うならば、結婚して欲しい!」


 なけなしの勇気を振り絞ってプロポーズした。


「はい!! 結婚しますっ!!」


 泣き笑いの素敵な笑顔で了承をくれたよ!


 周りから拍手が巻き起こったけど、一人ルーちゃんだけがハンカチを噛み締めてたそうだ…… 後からカイリくんが教えてくれたよ。

 まあ、ルーちゃんと結ばれる人も誰か現れるさ、多分…… 



 




 

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