第27話 救出と危機
部屋の扉が開いて中の女性二人がビクッとするが、俺たちが見えないからか首を傾げた。女性と言っても十代だから俺にしてみれば幼い。
そぅーっと扉を閉めて気配察知は使用したままステルスローブを脱いだ。ナツキちゃんも同じようにしてくれている。
「だっ、誰ですかっ!?」
一人の女の子が気丈にももう一人の女の子と目が虚ろな男の子をその背に庇いながら聞いてきた。
俺は咄嗟に唇に人差し指を当てて、
「シーッ、静かにね」
と言っていた。女の子が頷いてくれたので俺は手短に説明をする。
「取りあえず、助けに来たんだ。君たちが召喚されたのは分かってるし、ここの王女様に酷い事をされてる、もしくはされそうになってるのも分かってるから、俺たちと一緒にここから逃げよう」
そう言ったけど不信感丸出しで女の子に言われた。
「オジサンが私たちの味方だという確証が私たちには持てません……」
それを言われると辛い…… まあ確かにこんなオッサンが言っても説得力が無いわな。そんな言葉に詰まる俺を横目にナツキちゃんはスタスタと歩いていき、虚ろな目をした男の子の様子を見て、もう一人の女の子に聞いている。
「何をされたの、この子?」
「あ、あの、その…… 口にするのも恥ずかしいぐらいに辱められたんです。男の子なのに、私たちの見ている前で全裸にされて、それで王女様が手に持った物をこの子のお尻に…… ゴニョゴニョ……」
「そう、分かった。有難う、教えてくれて。それじゃ気つけを一つ……」
そう言うとナツキちゃんは優しく男の子の顔を抱えてキスをしてからその胸に頭を抱え込んだ。そして、
「もう大丈夫だよ。アタシがちゃんと君を守って上げるし、君も負けないぐらいに強くしてあげるから、コッチに戻っておいで……」
右手で頭を抱え込み、左手で優しく背中をさすりながらそう言うと、男の子のすすり泣く声が聞こえた。そんな男の子に大丈夫、大丈夫と優しく声をかけるナツキちゃんは聖母のようだったよ。
その様子を見ていた女の子二人は互いに目を合わせて頷き合い、俺に話し掛けてきた。
「オジサン、このお姉さんと仲間なんですよね? 私たち、今夜からこの子に代わって辱めを受ける予定だったんです。まだ、この子の
そう言って頭を下げる二人に、俺は笑顔で
「オッサンに任せなさい! 必ず三人とも助けるから。男の子が落ち着いたらここを出よう。出る時にこのローブを着てもらうから、誰にも見つからずに出られるよ」
そう言って二人にステルスローブを手渡した。
ナツキちゃんに縋りついて泣いていた男の子も落ち着いたようだ。そこで、簡単に自己紹介をしてもらった。
「
二人を庇っていた女の子だ。
「
アユミちゃんの後ろに居たけど、男の子を庇おうとしてたね。
「
「自己紹介有難う、俺はオッサンで、こっちのお姉さんはナツキちゃんだ。今は詳しい事は言えないし、その首輪も外してあげられないんだけど、俺たちの拠点に行ったらちゃんと外してあげるから信じて欲しい。それじゃ、渡したローブを羽織ってくれるかな? ここから逃げ出そう。大抵の人には見つからない筈だけど、もしも気がつく人が居たらナツキちゃんと一緒に先に逃げてくれ。俺が食い止めるから」
ナビゲーターとの打合せ通りにそう伝えて、部屋を出て転移の間を目指す。三人は俺の名前がオッサンだという事にビックリしていたけど、それも今は急いで逃げた方がいいからと言って部屋から出た。先頭はナツキちゃんで、
足早にけれどもなるべく足音を殺して進む。
『マスター、後方から今回の召喚者の一人と王女がやって来ています。それと、前方にダイアンとレイアが居ます。ダイアンとレイアには恐らく気づかれずにすみますが、後方の王女には三人の位置が分かっているようです…… 足止めする必要がありますが、召喚者が私の言っていたヤバい奴です。どうしますか?』
そんなもん、三人を助けるっていったんだから俺が足止めの為にここに残るに決まってるだろう。ナビゲーターは転移の間に入った四人を拠点近くに転移させる事は可能か?
『はい、大丈夫ですが、私はマスターの命を優先しますので、出来ればこのままマスターも一緒に逃げていただきたいのですが……』
俺はその言葉を無視してナツキちゃんに声をかけた。もちろん、ナビゲーターを介してだから口に出しては言ってないよ。
『ナツキちゃん、追手が来てるからここで足止めするよ。先に四人で転移の間に入ってくれ。俺も後からちゃんと行くから』
『一人で大丈夫、オッサン? 私も一緒に残ろうか?』
『いや、先ずは三人を安全な場所に連れて行ってやって欲しい。俺なら大丈夫だから』
『分かった、気をつけてねオッサン』
そうして俺は立ち止まり、けれどもステルスローブを羽織ったままで待った。
「こちらに向かっていますわ、まさか、転移の間に……」
「おーっと、姫さん、ちょっとここでストップ! 誰か居るぜ!」
チッ、やっぱり気がついたか。コイツがナビゲーターが言ってたヤバい奴か? 見た目は十代だな。
「おーい、そこで隠れてるのバレてるぞ。素直に姿を現すならまだ、攻撃はしないけど現さないなら攻撃するぞー」
何か余裕あるな。そんなに凄いのか? それでもまあ俺もそんなに簡単に負けないとは思うんだけどな。そう考え俺はステルスローブをアイテムボックスにしまった。
「うお! 変なオッサンが現れたよ!」
「あなたは…… どうやってココに? 処刑の森で死んだと思ってましたが……」
少年よ、確かに俺はオッサンだが、変な事は無いぞ。そして、王女様よ。残念だけど死ななかったんだよ。
「まあ良いか。取りあえずヤッとくか、姫さん?」
「はい、廃棄したのにしぶとく出てきたゴブリンのような人です。再廃棄を依頼しますわ」
「分かった。つう訳でオッサン、死んでくれ!」
言い終わって少年が俺に向かって飛び込んできた。速い!!
なす術無く殴られた俺。見切れなかったぞ、どうなってんだ? フラフラする頭を振りながら考える。
「おろ? 中々頑丈じゃねぇか。俺が殴るとここの騎士たちなんか一発でお陀仏だったのに」
少年はそう言うとまた俺に向かってきた。俺もまだフラフラしてるけど反撃したが、あっさりと躱された。
「オッサン、遅いよー。ホレッ、ドーンッ!!」
腹をぶん殴られて吹っ飛ぶ俺。き、効いたぁー…… 痛ぇーっ。年寄りは労るものだぞ、少年。
俺は腹をおさえながらもそんな事を考えていた。
「本当に頑丈だな、オッサン。こりゃ本気で殴らないとダメか? 次は本気で殴るからなー」
ヤバい! 打開策がない! ど、どうする、俺?
そうだ、目で追うからダメなんだ。心眼だ、心眼を開け、俺。
もう半ばヤケクソだけど気配察知を駆使しながら目を瞑る。気分は座○市である。大刀の鯉口に手を添えて五感の中でも特に耳を研ぎ澄ます。
「おっ? 諦めた? 目瞑って俺の攻撃を躱せるのかな? まあ、いいか、本気の本気で行くぞ、オッサンッ!!」
少年が俺に向かって飛び出して来るのが分かる。見えてないけど、見えてる。少年の拳が俺の顔面に入る寸前に俺の右手は鯉口を切り大刀を切り上げていた。
「ぐわっ! いっ…… 痛ぇーっ!! 斬りやがった、オッサンが俺の右腕を斬りやがったーーっ!! ウワーッ、俺の右腕がーーっ!!」
少年の叫びに目を開けると俺の足元に肘から切断それた右腕が落ちている。少年は右腕をおさえて泣き喚いている。王女様はそんな少年を治療しようと魔法を唱えようとしている。
俺は今の内だと思い踵を返して転移の間を目指した。途中でステルスローブを取り出してちゃんと羽織るのも忘れない。
少年の叫びを聞いて前方からダイアンとレイアが走ってくるのが見えた。俺はその横をすり抜けて転移の間に飛び込んだ。
『待ってましたよ、マスター。何とかなったようですね。それでは急いで飛びます!』
ナビゲーターも珍しく焦ったような雰囲気だ。だけど気がついたら俺は森の拠点に着いていた。
気が緩み座り込む俺。だが、鬼なナビゲーターは座ってる暇はないと俺を促す。
『マスター、小刀で三人の首輪を切って下さい。それで首輪の効力は全て無くなります、急いで!!』
俺は少年に殴られてからズキズキと痛む腹を根性で抑え込み、三人の元に向かいジッとしているように伝えて小刀で首輪を切った。
『ほう〜…… コレで大丈夫です。もしも転移の間からこの森に転移してきても、もう三人の居場所は分かりません。それに、転移場所はこの拠点から五キロ以上離れた場所にしてありますし…… マスター、お疲れ様でした。サクラさんに治療してもらいましょう』
「オッサン、無事で良かったよ。手助けに行きたくても行けなくてさ、このまま戻って来なかったらどうしようかって怖かったよ」
ナツキちゃんが俺を見て安心したように言った。
俺が覚えてるのはそこまでだった。腹の痛みに耐えきれずに気絶しちゃったからね……
気絶しながら俺は思っていた。決め台詞を言えなかったなぁ…… って。
【またつまんない物を斬っちまった……】
言いたかったなぁ……
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