第26話 ナビゲーター活躍

 翌朝、早朝、三時である。オッサンである俺は朝に強い。なのでこの時間に起きても大丈夫なのである。そして、俺は今、ナツキちゃんの部屋に入っている。


『お巡りさーん、大変です! 変態さんがココに居まーす!!』


 馬鹿か、お前ナビゲーターは。俺はしっかりと起きて貰う為に二時間前に部屋に来たんだよ。

 まさか、ナツキちゃんがタンクトップとパンティだけで寝てるとは思って無かったんだからなっ!

 本当だぞ!


『はいはい、言い訳は良いですから、マスター。遂に称号以外の性癖を暴露しましたね、その行動によって……』


 だから違うって言ってるだろうが。そもそもナビゲーターが言ったんだろうが。ヤバい奴が居るって。そんな奴が居るのに寝呆けたままだと危ないと思ってだな!


『マスター…… 作ったばかりのステルスローブを着てナツキさんを起こしにきた時点で説得力がありませんから……』


 ちがーう! コレもジョブが拳闘王のナツキちゃんが気がつくようなら役に立たないと思って試してるのっ!? 分かってて言ってるよな、絶対に。


『さあ、マスター! その変態を思いっきり試して下さい!!』


 はあ〜、もう無視だ、無視。俺はステルスローブを着たままナツキちゃんの肩を軽くトントンと叩く。

 …… 起きないな。普通なら起きる程度の強さで叩いたんだが。しょうがない、もうちょっと強く叩いてみるか。

 因みに叩く前にナツキちゃんにはちゃんと布団を被せてるからな。


 そうしてさっきよりも強めに肩を叩いたが、やっぱり起きない…… コレは強敵だ。ここまでやって起きなかったのは従姉いとこのハルねえ以来だな。

 うーん、ステルスローブを着てるから起きたら誰も居ない、お化けだぞー作戦が中々実行されないな。コレはもうハルねえにやったのと同じ事をするしか無いな。

 俺はベッドの足側に回り込み、左足の裏をくすぐった。すると、すかさず右足の蹴りが俺に向かって飛んできた。

 何とか躱す事が出来たが、危ねぇ! 間一髪だったぞ。だが、それでもナツキちゃんは起きてない…… クソッ、如何なってるんだ、この娘の朝の弱さは。

 それから俺は色々と試したが、起きない。エッチな事以外は全て試し終えて、時間は既に四十五分も経っていた…… こ、これはもう如何どうしようも無いんじゃないかと俺が諦めかけた時に女神がやって来た。


 サクラちゃんは何も言わずにナツキちゃんの両足を縛り、腰も縛り、両手も縛り上げると、馬乗りになってナツキちゃんの両頬を往復ビンタで十回も叩いた。その後に、


「ナツキちゃん、起きて。早く起きないと百回叩くよ」

 

 と淡々と告げた。その声にナツキちゃんが反応を示した。


「うーん…… サクラ〜、後五分だけ……」


「ダメ! 五分って言って一時間は寝るでしょ、ナツキちゃん」

 

 そう言ってまた二往復ビンタだ。反射的に反撃しようとする両手足は縛られて動けないからナツキちゃんも諦めて起きた。

 

 ここまでしないと起きないなんて…… コレは俺では無理だったな。俺はそう思いながらそお〜っとナツキちゃんの部屋を出て自分の部屋に戻った。ステルスローブはちゃんと役に立つ事が確認できたけど、何故か敗北感が俺の中に芽生えていた……


『女性一人を起こす事も出来ないなんて…… 私が導いているのに情けないですよ、マスター!』


 ナビゲーターの声に反論する元気も無かったよ。


「オッサーン、起きたよー。修行に行こう!」


 そうして敗北感にまみれていたらナツキちゃんの声が部屋の外から響いた。そうだ、こうしてはいられない。三人の召喚者を助けに向かわないと。 

 俺は気持ちを切り替えて外に出た。そして、今現在居る護衛ゴーレム八体にプラスして十体の護衛ゴーレムを出した。

 サクラちゃんがナツキちゃんと一緒に居たので説明をする。


「サクラちゃん、ナツキちゃんを起こしてくれて有難う。それでだね、この十体の護衛ゴーレムはBランクの魔物、魔獣にも対処出来るんだ。二対一ならAランクにも対処出来る。だから三人でレベリングを行う時はこの内の六体を一緒に連れて行けば大抵の事は大丈夫な筈だから、よろしくね」


「はい、分かりました。オッさん、有難うございます。兄とカイリくんにも伝えます。それで、今日は何時ぐらいに戻られますか?」


 俺は分からないからナビゲーターに質問した。


『どうかな? 何時ぐらいになるかな?』


『マスター、問題なく進めば昼過ぎには戻れると思います。何か問題が起こっても私が強制的にマスターとナツキさんを十八時にはここに戻しますので』


 そうか…… その場合は助ける事が出来なかったという事になるのか……


『それはしょうがありません。何よりもマスターとナツキさんの命を優先させて貰います』


 分かった。


「サクラちゃん、早ければ昼過ぎには戻れると思うよ。遅くても十八時には戻ってくると思う」


「はい、分かりました。それも二人に伝えておきます。ナツキちゃん、オッさんのいう事をちゃんと聞くんだよ」


「分かってるよ〜、サクラ。それじゃ、行こう。オッサン」


 そうして俺はナツキちゃんを連れて拠点を出た。ナビゲーターの指示通りに南に向かう。


『ここら辺でいいでしょう。初めまして、ナツキさん。私はジョブ、士農工商のナビゲーターです。マスターであるオッサンをナビゲートしています』


「ウェッ!? エッ、何? 誰?」


 慌てるナツキちゃんに俺は説明をした。って、ナツキちゃんにバラすなら先に俺にも言っておけよな。突然だったから俺も慌てたよ。


「ナツキちゃん、落ち着いて。俺のジョブに付随してるナビゲーターなんだ。色々と教えてくれる【超】優秀『らしい』なヤツだよ」


「うわっ! オッサン、ズルい。私たちのジョブにはナビゲーターなんて居ないよ」


『それは仕方ありません。皆さんのジョブは良くも悪くも定番のものですから。チートではありますけどね』

  

「うーん、そうなんだ。アタシもちょっと可怪しいとは思ってたんだよ。オッサンがアタシたちよりも強くなってたから。でもまさかナビゲーターなんて居るなんて…… どうして今まで隠してたの、オッサン?」


「いや、隠してたというかナビゲーターから黙っておくように言われててね。騙そうとかそんな事じゃないからね。そこは信じて欲しい」


 俺の言葉にナツキちゃんは頷いた。


『さて、それではご説明しますね、ナツキさん』


 そこでナビゲーターは俺に言った事と同様に新たに召喚された人たちが十人居て、その中の三人を救出するつもりがマスターにあること、それにはナツキちゃんの協力が必要なこと、更には危険を減らす為にステルスローブを作成していることなどを説明した。


「まーた、やらかしたんだ、あの王族。分かった、その三人を助けに行こう!」


 即断即決だったよ。


「それじゃ、行こうか。コレを渡すから羽織ってくれるかな、ナツキちゃん」


 俺はそう言ってステルスローブをナツキちゃんに手渡した。このローブ、同じものを羽織ってる同士は認識出来るらしいんだけど、どうかな?


 おお、大丈夫だったよ。俺にはナツキちゃんがちゃんと見えてる。よし、コレで大丈夫だな。


「それで、どうやって王宮内に移動するんだ?」


 俺はナビゲーターに質問した。


『簡単です、マスター。今からマスターとナツキさんをこの森に連れて来られた転移の間に転移させますので、そこから王宮内に入って三人を救出してください。そのローブがあれば大抵の人は気がつく事は無いですが、中には気づく人もいるかも知れませんので慎重に行動してくださいね。お互いに声は出さないように注意してください。私を介して頭の中で言葉を発して貰えばお互いに伝わりますから』


 俺とナツキちゃんは分かったと頷いた。そして、ナビゲーターの、では行きますの言葉と同時に周りの景色が森から部屋の中に変わった。


 ほう、こんな部屋だったんだ。前の時は部屋に入れられたと思ったら森だったからな。


『あの時は既に転移魔法が発動した状態でしたので。今は魔法は発動してませんのでこの状態です』


 なるほどな。それじゃちょっと気配察知。よし、部屋の扉の外に人気は無い。


『ナツキちゃん、それじゃ、部屋の外に出るよ』


『うん分かった、オッサン』


 扉を静かに開けて部屋の外に出た俺たちはナビゲーターの指示で廊下を進んだ。


『マスター、ナツキさん、百メートル先にメイドたちが居ます。中の一人は戦闘にも長けたメイドのようです。できるだけ気配を殺して通り過ぎて下さい』


『分かった』『分かったよ』


 その場を通り過ぎようとした時にチラッと俺たちの方を見たメイドさんは、ダイアンというオジサンにレイアと呼ばれていたメイドさんだった。首を傾げているけど、俺たちが見えてないから気のせいだと思ったようだ。また仕事に戻っていく。


 ホッとしたのもつかの間、ナビゲーターからもう直ぐ三人が居る場所に着くと教えられた。


『お二人ともよろしいでしょうか? 中には男性一名、女性二名が首輪をつけられて囚われてます。首輪は魔力封印と体力抑制の効果に半径二キロ以内だとその居場所が分かるようになっています。ステルスローブを着ていてもそれは変わりません。幸い、手枷や足枷は付けられておらず、お二人でサポートしながら移動は可能だと思います。が、男性の精神こころは壊れかかっています。そこで、ナツキさんの天真爛漫さの出番です。なるべく明るく男性に話し掛けて上げて下さい。この場所であまり時間をかけるのは得策ではありませんので、出来るだけ早く説得しましょう』


 そう言われてもな…… 俺とナツキちゃんは顔を見合わせたがやるしかないと思い、三人が囚われている部屋に覚悟を決めて入ったのだった。

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