第25話 ウ・ルセーヤ国にて
ラームが荒れていた。
「何という事なの! 全員が叔父様のもとに行ってしまうなんて! これでは@?j/神様に捧げる事が難しくなってしまった…… それに私の慰みものとして仕えさすつもりだった二人のうちショウまで…… 何とか手を打たなければ……」
そこにノックもせずにラームの部屋の扉が開けられた。
「誰っ!?」
「私だ、ラーム」
「お父様! どうなされました?」
部屋に入ってきたのはウ・ルセーヤ国王だった。
「フフフ、ラームよ。獲物に逃げられたそうだな。それで荒れているのだろう?」
「クッ、まだ逃げられた訳では……」
「良い良い、余に嘘を吐く必要は無い。それにしてもまさかスティーブめの所に集結するとはな…… アヤツも我が弟ながら困ったヤツだ。そろそろ消さねばならぬな。@?j/神様の為にも……」
「お父様、マリアは私に下さい。
「フフフ、それも良いな。@?j/神様もお喜び下さるだろう」
父娘してとんでもない話をしているが二人は楽しそうに会話をしている。
「しかし、並の兵士や騎士ではアヤツらに対抗できんのも事実。よって、ラームよ。再度召喚の儀を行う事にしたぞ。今度は@?j/神様の神官に協力を仰いだのでな。我らの目的の英雄が来てくれるだろう」
「まあ、さすがはお父様ですわ。それならばいけそうですわね。ただ、高潔な精神の持ち主を壊す楽しみが無くなりますけど……」
「我が娘ながら怖い事をいう、だがそれでこそ@?j/神様の巫女よ。良かろう、一人二人は高潔な精神の者も召喚しよう。今回は十人召喚する予定だ」
「ウフフフ、楽しみですわ。お父様、男と女の両方でお願いしますわね。それと、若い方がいいですわ。操りやすいですもの」
「分かっておる。安心せい。今回は十五〜十七才の者を対象にする。コレで長年の悲願である@?j/神様の封印を解きこの世を混沌に落とす事が出来るであろう…… 全く我が祖は何を思って@?j/神様を封印などしたのか…… 愚か者としか言いようが無いの」
「本当ですわね、お父様。@?j/神様こそ全てを統べる神であらせられるのに…… 創世神ムリュエルなど幻想だとこの世界の者たちに知らしめないとダメですわ」
「まあそれももう直ぐの事だ。明日、召喚の儀を行うぞ。お前も準備をしておくように、よいな」
「はい、お父様」
その昔、ウ・ルセーヤ国を興した初代国王アタルは異世界転生した者だったという。アタルがウ・ルセーヤ国を興す事が出来たのは、この地に居た邪神を封印したからだと伝えられている。
邪神を封印し、国を興したアタルは子孫の為に一冊の予言書を残していた。
【封印は完璧ではない
三百年〜五百年の間に封印の効力は弱まる
その間に己を律し鍛え、力を蓄えるのだ
遠き子孫が我が成しえなかった事を成し遂げてくれる事を願う……】
今はウ・ルセーヤ国が興ってからちょうど四百年になる。凡そ百年前からアタルが予言したように封印が弱まり、そして邪神の影響がジワジワと出始めていたのだ。その影響を受けたのは王族からだった。
国王妃から始まったその影響を当時の国王は王妃を幽閉する事により隠した。それがいけなかった。徐々に邪神により蝕まれていった王妃は、その世話役にも影響を及ぼし、それから王宮内にゆっくりと、だが確実に侵食していったのだ。
国王は辛うじて聖剣の加護により蝕まれる事は無かったのだが、その子である王太子は邪神の影響を受けて、次代へと繋がっていってしまった。
王太子から国王になり、更にその国王から今の国王へと受け継がれた邪神の影響は、今や王宮内でその影響を受けてない者は居ない状態であった。
現公爵であるスティーブが何故、邪神の影響を受けなかったのか…… それは今や宝物庫の奥深くに封印されてしまった聖剣に三才の頃に触れていたからだった。幼少期はまだ邪神の影響も少なく、普通にやんちゃな子供として過ごしていたスティーブは、親や兄に隠れて宝物庫に良く入っていた。
王宮内の宝物庫は王族の血筋であれば自由に出入り出来たので、抑圧的な両親や兄から逃げる時には宝物庫に隠れていたのだ。
聖剣の影響で、両親も兄も宝物庫に入る事が出来なかった事を知る由もないスティーブは、時には一週間もの間、調理室と宝物庫を行き来して過ごしていたので、聖剣の加護が与えられたのだ。
そして、兄が国王になり、自分は王位に興味は無いと宣言して、公爵となり今の隣国との境に領地を貰い隠遁したのだった。その際に兄から宝物庫から好きなものを二つまでは持って行って良いと言われたスティーブは聖剣と魔宝珠を持ち出し、公爵領に保管している。
魔宝珠はその中に初代アタルの魔力が込められているらしく、使い方は分からないが何かの役に立つだろうと思い聖剣と共に持ち出した。
しかし宝物庫から聖剣が無くなった事により、邪神の影響は王宮内で更に大きくなってしまった。
心正しい者たちは邪神の影響を不快に思い、王宮内から去っていった。そうして残った者たちは邪神の影響を受けていき、王宮内はすっかり魔窟となってしまった。心正しい貴族の者は王宮に来る度に気分が悪くなり、邪な心を持つ貴族の者は機嫌よく王宮に足を踏み入れる。
近衛騎士は全てが王族に忠誠を誓い、邪神を信仰した。
王都の防衛を担う第二騎士団、第三騎士団には邪神に染まる者、そうでない者とに別れていた。
第二、第三騎士団をまとめる防衛騎士団長であるスティーブの長男はその事を憂いている。スティーブの長男も幼き頃より聖剣に触れてその加護を得ていたので邪神の影響を受けていない。
今現在のウ・ルセーヤ国の王宮内ではそのような状態が続いているのだった。
「それでは始めよ!」
「ハッ! 陛下!」
王宮内の一室で召喚の儀が行われようとしていた。
「良いか? 此度は十人を召喚せよ。邪神様の息吹を用いて召喚するのだ。その内ニ〜三人は邪神様の息吹から外すようにしておけ。その方らの魂は邪神様の御元へと導かれる。恐れずに行え!!」
国王の言葉に邪神の神官である十人ほ祝詞いや、呪詞を唱える。
「偉大なる神、@?j/神様の呼び掛けに答え、今こそ我らの前に姿を現さん! 数多いる英雄の中より我らが神のおん為にその姿を見せよ! 我らは
言葉が終わると同時に魔法陣の七割が黒く光り、三割が白く光った。神官たちの姿は消えている。
「フフフ、ようやった。@?j/神様もお喜びになるだろう……」
「お父様、@?j/神様の神気が感じられますわ」
「そのようだな。七人は良き者たちのようだ。三人はどうやらカスのようだが、ラームよ。三人はそなたの好きにするが良い」
「有難うございます、お父様。@?j/神様にお喜びいただけるようにしっかりと
魔法陣の中には未だに目覚めぬ十人の少年少女たちが居た。目覚めと共に三人は絶望を感じる事になってしまうが……
…… 処刑の森にて
『マスター、どうやらウ・ルセーヤ国にてまた召喚を行ったようです。今回は邪神の気に入る者たちを七人も呼んだようです…… いや、待って下さい、三人ほど邪神の影響を受けてない人が居るようですね。全部で十人も呼び寄せたようですよ…… 三人は可哀想に…… 王女の慰みものになるようです……』
何ーっ! アイツらまたそんな事をしたのか!? 何でだ! ってショウくんたちが戻らないからだろうな…… けれど何で三人は邪神の影響を受けてないんだ?
『心正しい人たちですので、邪神の息吹に負けなかったのだと思います。それか敢えて邪神の息吹をかけなかったのか…… どちらかは分かりませんが…… 今回は少年、少女と言ってもいい年齢の人ばかりのようです。一番年上の人で十六才ですね』
ムウ! 何とか助けられないか? 無理か?
『マスターが一人では無理でしょうね。ナツキさんの助力があれば三人は助けられると思います。他の七人については手遅れです。邪神の息吹に晒される前からその心根は邪悪でしたので。恐らくは息吹の影響が無くとも邪悪なままでしょう』
そ、そんな子が居るのか? 俺には信じられないが……
『マスター、人は育った環境、受けた教育、自分の考えにより変わります。たまたまマスターの周りにはそういう人が居なかっただけで、地球でも年若い内から邪悪な人は多く居るのですよ』
そうか…… だが、三人は違うんだろ? なら何とか助けてやりたいな。でも、ナツキちゃんだけ連れて行くとなったら他の三人が何て言うか……
『一人一人に個別訓練をするという名目をたてましょう。今日は今のように四人全員で行動して指導をしていますが、明日から個別指導をするという話を今晩、しておいて下さい。それと、マスター』
ん? 何だ?
『マスターのレベルは今は32で、ナツキさんのレベルは30になりました。が、今回召喚された人たちの中に一際やばい者が居ます。彼にだけは見つからないように行動する必要がありますので、今夜、
わ、分かった。で、何を作れば良いんだ?
『ステルスローブです。素材は足りませんが幸いにして魔力のゴリ押しで作る事が出来ます。ローブのサイズは大きめにしておいて下さいね』
分かった。でもここから王宮まではどうやって行くんだ?
『それは私がやりますので』
出来るのか?
『マスター、お忘れですか? 私は【超】優秀なナビゲーターなんですよ!』
うん、ナビゲーターだよな? ナビゲーターってそんな事出来るっていう認識が俺には無いもんだから……
『コレを機に覚えておいて下さいね』
何か引っかかる言い方なんだよな。俺を馬鹿にしてるだろ?
『成長しましたね、マスター。私の導きの賜物でしょう』
いつか、ぜーったいに、ぶん殴る!!
『無理でしょうけど、頑張って下さい。目標を持つのはいい事ですから』
そうして俺は拠点に戻って四人に話をし、明日の朝、五時にナツキちゃんを連れて修行に行くと説明をした。この辺りに居る魔物、魔獣ならば三人でも対処出来るが、念の為に護衛ゴーレムを十体出しておくとも伝えた。
「アタシ、朝弱いから起こしてね、オッサン」
ナツキちゃんからはその言葉を貰い、了承されたけど、サクラちゃんがコソッとやって来て、
「オッさん、ナツキちゃんは一時間前に起こしに行かないとダメですよ。本当に起きませんから」
と教えてくれた。それならばと寝起きドッキリを敢行する事を俺は決めた。
『いやらしい事をする訳じゃ無いよ、本当に』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます