第24話 奥様は王族

 その後、疲れきった公爵様が閉会を告げられ、俺は先ずはミコトさんと奥様とお話をする事になった。奥様の後ろには俺に向けてウィンクしてくる侍従長ことルーちゃんが居るが……


「それで、どういう経緯けいいだったか教えて貰えるかな、ミコトさん」


 俺がそう問いかけると、ミコトさんじゃなく奥様が話しだした。


「はい、オッサン様。昨日、教官と一緒にゴブリン集落を二つ潰した後に、そろそろ良いでしょうと教官に許可をいただいてオークの蹂躙じゅうりんに向かったのです…… そして隣国との境まで出向いたのですが、そこで隣国側でオークジェネラル率いるオークの群れに襲われている方々を見つけたのです。馬車を守るように騎士たちが善戦しておりましたが、オークたちの数が多く苦戦どころかそのまま放置しておりますと全滅しかねないと考え教官の許可を貰って轢殺バーサークいたしました」


 そこからミコトさんが話を引き継ぐ。


「それでですね、オッさん。助けたら騎士さんたちの偉いさんからお礼を言われて、それから馬車からヘレナちゃんが降りてきてお礼を言ってくれたんです。更に、ヘレナちゃんがバイクと私達の着てるライダースーツに興味を持ってきまって。それで公爵様の領地に遊びに来たらってお誘いしてみたんです。勝手な事してごめんなさい」


 いや、それは良いんだけど、バイク? 良いのか? 王女様だぞ…… ライダースーツ着せてもいいのか?


「フフフ、オッサン様。大丈夫ですわ。わたくしから姉には連絡を入れてますから」


 姉? 姉ってどういう事ですか、奥様? 俺の不思議そうな顔を見て奥様が教えてくれた。


「オッサン様、そう言えば言ってなかったですわね。わたくしは隣国の元王女ですの。姉が今は女王陛下ですわ。王配である義兄あには元騎士団長ですのよ。視察には姉は来れませんが、義兄あにと甥である王太子夫婦、それと助けたヘレナとヘレナの夫がやって来る予定ですの。つまりわたくしは姪を助けたという事になりますの」


 はあ〜…… 奥様が隣国の王族出身でしたか…… どおりで公爵様も尻に敷かれる訳だ。


「話は分かりましたけど、バイクについてはその王配である親御さんのご意向と、ご主人のご意向も確認してからにしますね。それで良いかな、ミコトさん」


「あっ、そうですね。オッさん。ヘレナちゃんの意思だけではダメですよね」


「うん、そうだね。それじゃ、俺はこれから公爵様とお話してくるよ」


「はい」

「はい、旦那様をよろしくお願い致します」


 二人の返事を聞いてから席を立って公爵様の執務室に向かおうとしたら、ルーちゃんが


「ダーリン、ご案内するわ〜」


 ってついてこようとしたけど、


「お座り! お手! 待機!」


 と命令してその場を動くなと伝えた。


「ワンワン! もう〜、ダーリンったらつれないんだから〜。いっつも放置プレイよね〜」


 そんなプレイに俺は興味が無いぞ! というか隙あらば近くに寄って来ようとするルーちゃんを何とかしたいぞ。


『いや、無理ですね、マスター。よっぽどのイケメンさんを連れて来ない限り』


 ショウくんが居るじゃないか。それにカイリくんだってイケメンだぞ。他にも騎士たちにもイケメンが多いし、何で俺なんだ?


『年齢がネックなんでしょう。ルーちゃんは三十代前半で自分よりも大人の男性と共に暮らしたい愛の巣を作りたいと考えているようですので』


 俺以外の渋いダンディーなオジサンでその手の性癖の人を至急探そう。

 俺はそう心に誓いながら公爵様の執務室に向かった。ノックをして返事を確認してから部屋に入ると、疲れた表情の公爵様が出迎えてくれた。


「オッサン殿、済まないね。そちらに座ってくれ。飲むかね?」


 公爵様は手ずから蒸留酒を取り出して飲む準備をしている。この世界の蒸留酒って焼酎に近いんだよな。俺は焼酎が苦手だから、ジョブこうの時に作れると知ったウィスキーをアイテムボックスから取り出した。


「公爵様、コチラを試してみませんか? 俺が作った蒸留酒ですが」


「ほう? それは興味深いな。頂いてみよう」


 既に俺の事は信用してくれていて、毒味も必要ないと公爵様はウィスキーの水割りを飲んだ。もちろん、俺が先に飲んでるけどね。毒味役がわりにね。


「旨い! 芳醇な薫り高い良い酒だな。コレは作り方を教えて貰わなければ」


「後でお教えしますよ。コチラの蒸留酒を作ってる醸造所ならちょっと改造したら作れるようになりますから」


 俺の言葉にニコニコと嬉しそうな顔になる公爵様。 


「それは有り難いな。この酒も我が領地の特産になりそうだ。黒金貨十枚で権利を買おう」


 もういい加減それなりのお金が貯まったからいいんだけどなぁ…… だけど、俺がそれを言うと他の商人たちが損をする事になるって教えられたし、ここは有り難く受け取っておく事に。


「それでだが、オッサン殿。妻から詳細を聞いたかね? そうか、聞いたか。そうなんだ、妻は隣国の王族出身でね。ヘレナ王女殿下は私から見ても姪にあたるのだが、来てくれるのは嬉しいのだが、妻の姉、女王陛下がもしもヘレナがバイクを持って帰った際に何と言うのか…… それを私は恐れているのだよ。考えてみたまえ、オッサン殿。あの妻の姉だぞ、私が頭が上がる訳が無いだろう? もしもお怒りになられたらと思うと……」


「奥様にとりなしをお願い出来るのでは?」


 俺がそう言うと公爵様は首を横に振った。


「無理だ、妻も姉である女王陛下には逆らえないからな。女王陛下がお怒りなると雲隠れしてしまう程なのだよ……」


 そうかぁ…… あの奥様が恐れるぐらいか。ならアレだな。奥の手を使うしかないな。


「それならミコトさんにお願いしますよ。彼女なら上手くやってくれますよ」


『相変わらず面倒事は人任せにしようとしますね、マスター』


 うるさい、良いんだよ。ミコトさんにもバイク道に引きずり込んだ責任があるんだから他人事じゃないだろうし。


「うむ、そうであった。ミコト殿が居たな。そうだ、そうだ。何でそんな簡単な事を私は思いつかなかったのだ」


 公爵様が笑顔になったところで俺は聞いてみた。


「それで、隣国から視察にはいつ来られるんですか?」


「ああ、十日後に来られると聞いている。道中での護衛は境界までで、うちの領地に来られたらショウ殿たちが護衛を引き受けてくれるそうだ。そうそう、ショウ殿と言えば正式にうちのマリアと婚約する事になったよ。マリアが十七になったら結婚する事になる。あと半年ほど先の話だがそれまでは我が領地に居てくれるだろうね、オッサン殿」


 おお! いつの間に! でもそうかショウくんもちゃんと前に進む事にしたんだな。青春あおはるだなぁ。良いなあ、若いって。


「俺もショウくんの緊張した姿を見たいので、結婚式まではここに居させて下さい」


 俺がそう言って頭を下げるとホッとした顔をする公爵様。よろしく頼むと言って逆に頭を下げられたよ。それからは少しだけ雑談をして公爵様と別れて部屋に戻る。

 ユウとレンは既に寝ていたから起こさないようにそぅーっと部屋に入り俺も自分のベッドに横になって寝た。ミコトさんは隣の部屋だよ。


 翌朝である。ショウくん、カイリくん、ナツキちゃん、サクラちゃんから指導を頼まれた。

 何の指導かって? 驚くなかれ、戦闘の指導だよ。どうやらそろそろこの近辺の魔物や魔獣ではレベルが上がりにくくなってきたらしくて、四人ともレベルが22~25で止まってしまってるらしい。

 王族様が視察に来られるまで日数があるから、俺は公爵様に言って四人を連れて処刑の森に遠征に出かける事にした。

 今回は新車だ。俺もレベルが28になり何と軍用車両が作れたのだ。後部座席八人乗り、運転席、助手席を含めると十人が乗れ、しかも悪路にも強く最高速度は百二十キロだ。これなら一日で森につき、レベリングを五日ほど行って帰ってきて体を休める事も可能だ。

 ミコトさん、ユウとレンはお留守番してもらう。さすがに強くなったとは言えミコトさんのレベルではまだ森の奥は危ないだろうからね。


 という訳で出発する。


「オッさん。ミノタウロスを待ってます!」

「パパ、皆さん、気をつけて下さいね」

「パパ、気をつけてねー」

「ダーリン、ちゃんと無事に帰ってきてね!」


 俺は三人の家族に見送られ、一人の他人にも見送られる。


「英雄たちが更に強くなって戻ってくると信じているよ」

「ショウさん、うちのマリアが悲しまないようにお願いしますわ」

「ショウ様、必ず無事に戻ってきて下さいね」


「ウオー、ナツキの姉御! また戻ってきたら俺たちと勝負してくださいよ! 次は必ず勝ちますからっ!!」


 ショウくんは分かるけど、ナツキちゃんって公爵様の騎士たちから人気あるのな。


「アタシと勝負したけりゃちゃんとサボらずに訓練しとくんだよー」


 何て返してるし。ナツキちゃんらしいな。


「それじゃ、ちょっと若者たちと修行してきます。行ってきます」


 そう言って俺は車を出した。屋敷を出て町中は時速十五キロでノロノロ走ったけど、門を出たら時速八十キロを出して走る。オートレーダーにより自動で生き物を感知して避けてくれるから運転も楽だ。技術のシッサン仕様の車両は凄いなぁ。


「オッサン、それで処刑の森ではどうするんですか?」


 さつそく真面目なショウくんが俺に質問してきたから、答えた。


「そうだね、俺とミコトさんが居た拠点よりももう少し奥に拠点を構えて五日ぐらいレベリングを行おうかと思ってるよ。あ、野営の準備とかは要らないからな。俺が作るから。目標は俺を除いた四人のレベルが35以上になる事でいいかな?」


「そんなに上げる事が出来るっすか?」


「うん、多分大丈夫だと思うよ、カイリくん」


「アタシ、毎日お風呂には入りたいなぁ……」


「それも大丈夫だよ、ナツキちゃん」


「私はこの貰ったメイスを上手く使えるようになりたい」


「頑張ろうね、サクラちゃん」


 そう、今回は四人に俺が作った武防具をプレゼントしてある。


カイリ

【破魔の剣】(神砥ぎ+400)

【牛魔の革鎧】(+300)

ショウ

【氷月の杖】(+180)消費魔力二割軽減

【暗闇のローブ】(+200)状態異常耐性付与

ナツキ

【鬼硬鋼爪】(+280)速さ二割増し

【蟷螂の武闘着】(+250)速さ二割増し

サクラ

【月神のメイス】(+300)力二割増し

【天糸のローブ】(+200)消費魔力二割軽減


 この装備ならばBランクならば楽々、Aランクでもそんなに苦戦しない筈だ。まあ、元の攻撃力、防御力もかなり高いからな。

 そして、誰も居ない事を確認してから速度を最高速度まで上げて、日が暮れる前に処刑の森にたどり着いた。

 車は俺のアイテムボックスに入れて森の中に足を踏み入れ、以前の拠点よりも五百メートル奥に拠点を構える事にした。

 ミノタウロス居るかなぁ……


 






 

 

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