第23話 で、どうする?
何だかセーヤ公爵領が好景気に湧いている。隣国からの貿易も盛んに行われ、隣国の王族が視察旅行に来たいとの申し出をしてきたそうだ。
「それもこれもみんなのお陰だ。特にミコト殿には新たな料理を教えていただき、またそのレシピを惜しみなく公開してくれた事を感謝している」
「いえ、私が食べたかったので。美味しい物はみんなを笑顔にしますし」
事実、公爵様の料理人たちが町の食堂でも作れるレベルにした料理の数々を講習会を開いて公開したのが大きいだろう。【元】料理長は公開に反対したようだが、ミコトさんが牛刀を持ってコンコンと説得したようだ。怖ぇー……
「そして、ショウ殿、サクラ殿、ナツキ殿は来ていただいた日から魔物、魔獣を多く狩って貰い、またカイリ殿も後から来られたがBランクの危険な魔獣まで対処していただいた。領主として心より感謝している。お陰で街道の安全が保たれ旅する者たちが多くなったのも今回の好景気に結びついている」
おお、さすがは公爵様だ。ちゃんとショウくんたちの活動の成果を考えていたようだな。
「ユウ殿、レン殿には使用人たちに癒やしを与えてくれた。二人とも聡明で、教育係からは教えた事を直ぐに吸収し、実践し応用していると聞いている。もしも二人が望むならばこのままこの地で暮らして貰えたらとも思うのだが……」
と公爵様が言い、俺もゴクリと唾を飲み込みユウとレンの返事を待つ。そりゃあね、俺は二人の父親だって思ってるけど、二人が望むならばその方向を歓迎してやらないとね。子供だからって自分の考えが無い訳じゃないからね。
「公爵様、有難うございます。でも、私もレンも
「申し訳ありません」
ユウがそう言い、レンが続いて頭を下げる。俺はもう緩くなった涙腺から零れそうになる涙を止めるのに必死だよ。こんなオッサンを慕ってくれて有難うだよ。
【ミコトの妄想】
『クッ、公爵様のナイスな提案だったのに…… でもまあ仕方ないか…… どうやらオッさんはロリじゃ無さそうだからお姉ちゃんを応援してね。ハッ、けど何の進展も無いままユウちゃんが成長していったら…… ダメよ、ダメダメ、弱気になっちゃ。私がオッさんの身も心も癒して差し上げるんだから!』
オッサンスキル、スルーが盛大に仕事をしてくれてるが、お陰で目から零れそうになってた涙は引っ込んだよ、ミコトさん……
「そうか…… 残念だが二人がそう決めたのならば何も言うまい。だが、この領都はいつでも二人を歓迎する事を伝えておくぞ」
公爵様がそう締めくくり、俺の方を見た。
「オッサン殿…… 自動車の件では言葉では言い表せない位に感謝しているぞ…… だが、そう、だがだ!! あのバイクとやらを我が妻に何故に与えたのだっ!?」
あっ、怒ってらっしゃる…… いや〜、止めなかったですよね、公爵様も。あの時に止めていれば良かったんですよ。俺の所為だけじゃないと思うんだけどなぁ。
「確かに、私も妻がそれで喜ぶならと納得はした。だがしかし!
えー…… 車でやってたんだから想定の範囲内だと俺は思うけどなぁ。それに、俺がそうしろって言った訳じゃないし、ミコトさんの教官も公爵様が了承したんだし……
俺が心の中で反論を繰り返していたら、両開きの扉をバンッと音を立てて開けて奥様がご入場なされた。後ろに改心した侍従長を共につれて……
「旦那様にお話がございます!!」
「ミ、ミランダ! ここには来るなと申し伝えていた筈だ!」
「そんな事はどうでもよろしい! 何を言い出すかと思えばオッサン様への糾弾に、教官への誹謗中傷!! 聞きのがすわけには参りません!!」
いや、ミコトさんへの誹謗中傷は無かったですよ、奥様。
「えっ? 私って誹謗中傷されてたの?」
ほら、ミコトさんもそう言ってるし。
「教官、騙されてはいけません。旦那様は
「ええっ!? そうだったの、ミランダ!」
いやあの話がややこしくなるから、その辺で止めましょうよ、奥様。公爵様も顔面を蒼白にして震えているし。ミコトさんの
『いえ、マスターが抱きしめて熱いキスをすれば止まります』
はい、そこ! 静かにしておく!
『そんな…… オッさんに裸で抱きしめられて熱いキスなんてされてしまったら…… こんなみんなが見ている前で私はオッさんの逞しいアレに貫かれてしまうのね……』
…… 裸だとは一言も言ってないですからね、ミコトさん。まあ取りあえず
「まっ、待つのだ、ミランダ。私はミコト殿を誹謗中傷したりなんかしていない。それにオッサン殿にも作成者としての責任を持って欲しいとお願いしていただけで……」
「お黙りなさい!! 例え神の耳を欺けてもこの
おい、誰かコレを止めてくれ! そうだ、オネエの侍従長よ、お前なら行けるぞ!
「そうよ〜、公爵様〜、オッサン様に何て事を言うのかしら〜。私の恩人様に向かって、酷い事を言っちゃうから奥様にご注進しちゃったじゃない〜」
『いや〜、モテますね、マスター』
俺にその趣味は無いぞ、ナビゲーター。何とかしろ。
『私はナビゲーター。マスターを教え導く事は可能ですが、他の方をどうこうは出来ません。私がマスターをその道に導きましょう』
要らんわーっ! っ! ミコトさん、変な妄想しない!
『ああ、オッさんが汚れていくわ…… 侍従長とのBLの沼にオッさんが入ってしまった…… 侍従長に迫られて、断りきれないオッさんは遂に……』
ど、どう収集すんだ、コレを……
『マスター、頑張って下さい。私は陰ながら応援していますね』
あっ、おい、ナビゲーターよ…… クソッ、逃げたな。俺が逃げたいのに。しょうがない、何とか頑張ってみよう。
「取りあえず、奥様。お座りになって下さい。侍従長、奥様にも飲み物をお持ちするべきだと思うが?」
「アラーン、そうねえ。ごめんねぇ、ダーリンに言われるまで気が付かなかったなんて、ダメな侍従長よね。直ぐに用意するわ〜。奥様、お座りになって」
「わかったわ、ルーちゃん。
「は〜い、畏まり〜」
その間に公爵様はがっくりと項垂れていた。
「オッサン殿…… 改心したとはいえ本当にアレを私の屋敷で雇い続けないとダメなのか?」
「いや、公爵様、アレでもかなり優秀な侍従長ですよ。能力的には申し分ないと思ってそう進言したんですけど」
「確かに能力は申し分ない…… だが、あの口調はどうにかならないのか……」
「まあ! 旦那様は
「待て待て、ミランダ。そんな事は言ってないぞ。もちろんルーダンはこれまで通りに勤めてもらうつもりだ。それと、先程の話だが、私はオッサン殿もミコト殿も感謝こそすれ、誹謗中傷をしたりはしてないのだ。ただ、ミランダが危険な事をしているからな、それを何とか止めて貰いたいと思っているだけなのだ。私はミランダが怪我をするところなんて見たくないからな」
「まあ、旦那様!! そんな風に考えていただなんて!
何だかんだ言って仲良いよな、この夫婦。まあ、ミランダ様も実年齢はともかく見た目はお若いし、公爵様もダンディーだしな。マリアちゃんの弟か妹が出来ちゃったりして。
「公爵様、私がお教えしたんです。ミランダはもうオークすら楽々轢き殺しますよ。だから大丈夫です。次はオーガを目標にしてますし。レベルも始めは5しかなかったですけど、今や21まで上がってますから。それに、バイクも超改造でもはやベヒモス並みにはなってますから」
ミコトさん、そこで話をぶり返さない! って、ベヒモスって言葉にみんなが唖然としてるけど、そんなに凄いのか?
『マスター、ベヒモス並みならば地竜と勝負しても勝てますね。但し、私の見立てではまだベヒモス並には至っておりませんが』
『ええっ!? そうなの、ナビちゃん? どこをいじればいいかしら?』(ミコト)
『それについては後ほどお話しましょう、ミコトさん。それよりも、一体何の話合いだったのでしょうか?』
それだ。俺もそれが気になったよ。
「公爵様…… あの、それでこの話合いはなんの為にでしたっけ?」
「あっ、ああ、オッサン殿。隣国の王族が視察に来られるのでな、皆さんはこの屋敷にこのまま居られるよりかは何処か別の場所に居られた方が余計な気を使わずに済むのではないかという提案をしようと思っていたのだが……」
「何を仰っているの、旦那様。皆様はココに居ていただかなければ! ねぇ教官」
「そうよね、じゃないとヘレナちゃんとの約束を破る事になっちゃうし」
ん? ヘレナちゃんって誰?
「あっ、そうだ、オッさん。言い忘れてたんですけど、カワザキのイルミネーター400を作って貰えますか? 隣国との境でオークを蹂躙してた時に会ったヘレナちゃんと約束したんです」
ガタッと音を立てて公爵様が立ち上がる。
「その…… ミコト殿…… まさかとは思うがヘレナちゃんと言うのは隣国の第二王女殿下、ヘレナ様の事を言っているのかな?」
「アッ、公爵様もご存知ですか? そう、そのヘレナちゃんです」
ギギギィーと音を立てて首をミコトさんから奥様に向ける公爵様。
「ミ、ミランダ、本当か?」
「はい、旦那様。つい先日の事でしたのでお伝えするのを忘れてましたわ。
「オッサン殿…… あとで二人だけでお話したい…… 良いだろうか?」
「はい、公爵様…… 心中お察しします……」
何時もの罰が気になり過ぎるけど……
しかし、隣国の第二王女殿下と約束って…… どうすんだ、コレ?
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