第22話 侍従長を改心させよう
驚いてるカイリくんに説明をしていたら薬を飲ませた二人が気がついたようだ。
少し警戒しながら見守る俺とカイリくん。
「グッ、ムウ、こ、ここは一体……」
「ハッ! し、失礼だがご貴殿たちはここが何処かご存知か?」
アレ? 記憶が無いの?
『はい、マスター。洗脳されていた時の記憶は無くなっています。なのでカイリさんの事も知らないのです。
そうかぁ。でもそれなら完全に洗脳は解けたって事だよな。邪神とはいえ神様の洗脳を解く薬って、俺は神に匹敵する力を手に入れた!!
なんて、いい気にはならないからな。神様に喧嘩は売らないから。
『チッ、乗りませんでしたか……』
ナビゲーターよ、オッサンの俺は美人に褒められたり、乗せられたりしないとその気にはならないんだ。学習しておくんだな。
「オッサン、ゲイルさんとセブさんが自分の事を覚えて無いみたいっす? どうなったんすか?」
カイリくんが二人の様子を見て不思議そうに俺に聞いてきた。俺は先ほどナビゲーターに聞いた事を説明する。
「そうなんすか…… 出会った時には既に洗脳されていたんすね。それじゃ、しょうがないっすね。でもオッサンのジョブはどうなってるんすか? チート過ぎるっす」
カイリくんはそう言いながらも二人の騎士にここはセーヤ公爵領だと説明をして、更に今までの出来事を語っている。襲われたというのに落ち着いているカイリくんには脱帽するよ。
そして二人が一応半信半疑ながらも納得したようなので領都に戻る事にしたけど、その前に。
「カイリくん、コレ飲んでおいて」
俺はカイリくんが二人と話をしている間に作った回復薬を手渡した。コチラも
「おっ!? ポーションまで作れるんすか? ぶっ壊れてますね、オッサンのジョブは。でも有り難くいただくっす」
そう言ってカイリくんは俺からの回復薬を飲んだ。
カイリくんの全身が光り、薄汚れていた装備も全て新品のようにピカピカになった。
「なっ!? 何すか、これは一体何なんすかっ!?」
慌てて自分自身を見るカイリくんに俺は説明してやった。
「ん? 回復薬だけど?」
「いや、確かに回復したっすけど、何で服や装備まで回復してるんすかっ!?」
えー? いいじゃん、全部回復したんだから。若いのに細かい事を気にするなぁ……
「えっと…… そういう薬だから、かな?」
俺の簡潔極まる説明に鼻息荒く反論するカイリくん。
「その説明じゃ納得出来ないっすっ、オッサン!?」
そ、そうなの。オッサンなら納得しちゃうけどなぁ……
『マスター、面倒くさいのは分かりますがちゃんと説明してあげないとカイリさんは納得しないと思いますよ』
ナビゲーターにまでそう言われて俺は仕方なく説明をする事にした。
「えっとだな、カイリくん。君が飲んだ回復薬は俺が作ったものでこの世界のポーションとは似て非なるものなんだ。俺がさっきから
またポカーンだよ。それも騎士の二人も含めてだよ。何でだ? 親切丁寧に細かく説明したというのに。
「本当に…… なんっ何すかっ!? そのぶっ壊れ性能はっ!?」
アレ? カイリくんがキレてるよ。どうしてだ?
「そんな薬が作れるなんてもしも知れたらオッサンは国に囲われて死ぬまでその薬を作らされるマシーンになるっすよ!!」
うそーん? そ、そうなの? 教えてナビえもーん!
『カイリさんの仰っている事は本当です、マスター』
いや、でもこの回復薬を作った時にナビゲーターよ、何も言わなかったよな?
『私はマスターが普通に体の回復をする薬の方をカイリさんにお渡しすると考えていたので…… まさかそこまで考えなしのオッサンだとは思いたくなかったのですが……』
毒っ! 毒が強いよ、ナビゲーター。 その毒には俺の薬も効かないんだからな!
「と、取りあえずカイリくんは黙っててくれる…… よな?」
ハア〜とため息を吐いてカイリくんは言う。
「自分は言わないっすけど、この二人はどうするんすか?」
ハッ! そう言えば二人も居たな…… 消すか? なーんて物騒な事はオッサンは思わないよ。ちゃんと話合いで解決するのだ。
俺は大刀と小刀を抜いて二人の首元に突きつけて言った。
「二人とも、今の回復薬については黙っててくれますよね〜?」
何故か分からないが俺に対してはヤられた記憶が潜在意識下にあるのか、二人とも顔面を蒼白にしながら誓ってくれた。
「もっ、もちろん、我らは何も見てない! 聞いてない! この剣に誓おう!!」
「当然だ! 私もこの剣に誓って何も見てないし、聞いてないっ!!」
うんうん、良かった。話せば分かってくれる人たちで。俺はニコニコ笑顔で刀を鞘におさめた。
「オッサン、エグいっす……」
まあ何はともあれ無事だったし、公爵様の屋敷に戻ろうかとカイリくんに話をし、途中で二人は騎士たちの宿屋に案内する事に。
「我らはカイリ様の護衛騎士……」
「王都からここまで護衛してきた……」
必死に自分に言い聞かせてるけど、大丈夫かな? まあ、ダメな時はカイリくんが何とかするだろう。
『本当に面倒なことは人任せですよね、マスター』
オッサンの特権だよ、ナビゲーター。そうして俺とカイリくんは屋敷に戻った。
「カイリ! 何処に行ってたんだ、何も告げずに行くなんて、心配したぞ!」
カイリくんを見たショウくんの第一声。仲間思いのいい青年だな。イケメンだし…… オッサンの俺とはえらい違いだ。
「あー、カイリ、お帰り〜。ショウったら心配し過ぎてハゲるんじゃないかってアタシは心配したよ〜」
ナツキちゃんはマイペースだ。ある意味大物だな。
「カイリ、勝手に黙って出ていったらダメだよ」
サクラちゃんはひょっとしてカイリくんの事が? いや、何も言うまい。
「悪かったっす、ショウさん、ナツキちゃん、サクラちゃん。緊急の呼び出しだったから誰かに伝言を頼む暇も無かったっす…… まあ、嘘だったんすけど」
そう、もう一人この屋敷に成敗しないといけない
『マスター…… その台詞は悪役浪人の台詞ですよ……』
アレ? そうだったっけ?
ま、まあそれはいいか。取りあえず俺は四人と別れて侍従長を探す。何処に雲隠れしやがった! この遊び人のオッサンの目は誤魔化せねぇぞ!
『金さんにオッサンをかけてもねぇ…… いまいち締まりが無いように思いますよ』
ナビゲーターよ、俺の娯楽の邪魔をするな…… 一人で楽しんでるんだからツッコミは無しにしてくれ。
『ハア〜…… 了解しました、マスター……』
という訳で捜索再開だ。って思ったら居やがったよ、侍従長。俺の顔を見てギョッとなってるし。小物感丸出しだよな。
「あっ、あっ、な、何で…… いや、オッサン様、ご無事で何よりですな……」
ほら、この人自分から白状しちゃうし。俺が何処に行ってたか知ってる筈ないのにな。まあ、カイリくんを探す途中で出会ってはいるけどね。
「ん? 無事って? 俺は別に危険な場所には行ってないですけど?」
オッサンは男には容赦しない主義だからちゃんと追い詰める。
「えっ!? あ、いやあの、カイリ様の所に向かわれたのかと思いまして。私も騎士から連絡を貰って直ぐにカイリ様にお知らせをしてご案内した後に、オッサン様が門に向かって走って行かれるのを見たものですから……」
おお、さすがに言い訳は上手だな。
「ん? カイリくんは危険な場所に行ってたの? いやー、それは俺は知らなかったなぁ。俺は用事があって門衛さんのトコに行ってたんだ」
俺はすっとぼけてそう言った。
「そ、そうでしたか…… ってもう良い!! 私の真の力を見せてやる!! 王女殿下より賜ったこの魔獣化薬でな!!」
まーた薬かよ。あの王女様って薬師なの?
『いえ、もちろんマスター違いますよ。邪神の眷族になってるだけです』
そうか、邪神の眷族か…… 関わらないようにしよう。
『いや、絶対に無理ですからね。もうここまで関わってしまってますし』
現実逃避ぐらいさせてくれよ。って掛け合い漫才してたら薬を飲んだ侍従長が魔獣化してしまってるじゃねぇか。
「グルルルゥ、私が魔獣化するまで待つとは随分な余裕だな! だがコレで終わりだっ! 死ねーっ!」
と俺に飛びかかろうとした魔獣化侍従長だったが、真横から来た二台のバイクに跳ね飛ばされた。
「アラ? オッさん。轢いちゃいましたけど、良かったですか?」
「教官、レベルが上がりましたっ!!」
そこには凶悪な見た目のバイクに跨ったミコトさんと公爵様の奥様が並んでいる。跳ね飛ばされた魔獣化侍従長はピクピクしていたが、魔獣化が解けてしまっていた。
「あー…… いや、助かったよ、ミコトさん、奥様……」
俺は一応のお礼を言っておいた。
「そうですか、良かったです。それじゃ今から生徒に最後の教習をして来ますね」
「う、うん。でもあんまり過激なのは止めておいてね。公爵様が最近はやつれてる様に見えるから……」
「ウフフフ、大丈夫ですよ! ちょっとゴブリンの集落を
「楽しみです! 教官! またゴブリンキングが居たらいいですね!」
「あー…… 二人とも程々にね……」
「はいっ! では行ってきます!」「行って参ります!」
二人は元気に走り去った。さてと、この侍従長はどうしようかな? 取りあえずは呪消薬を飲ませてと……
『マスター、もともと
ああ、何かそんな薬あったよな。でもアレって副作用があるって出てなかったか?
『大丈夫ですよ、マスター。男性ならオネエ様に、女性ならオニイ様になるだけですから』
まあ、改心するなら良いか。そして俺は改心薬を侍従長に飲ませた。
後日…… 公爵様からは改心したのは嬉しいのだが、あの口調はどうにかならなかったのかと苦情をいただいたのだが、口調だけじゃないですよって言ったら頭を抱えていた…… すまぬ、公爵様……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます