第19話 洗脳された騎士二名

 うん、それでこの二名の騎士はどうしたら良いんだ?


『取りあえずは様子見するしか無いでしょう。今はなにもしてない訳ですし。カイリさんやショウさん、他の人たちには話をしておくべきだとは思いますが。それと、職、こうで新しい刀を打っておく事をオススメします。今の刀では弱すぎますから』


 そうか、武器の新調が必要なほどか。分かった、戻ったらさっそく作ろう。


『マスター、砥ぎはミコトさんに頼んで下さいね。マスターが砥ぐよりもよほど上手ですから』


 グッ、確かに…… 俺もこうで砥ぎは出来るけどミコトさんの【神砥ぎ】には敵わない……


『それは仕方ありません。ミコトさんには砥ぎに対する特別な才能があるようです。あの歌もありますし……』


 何故かナビゲーターも薄ら寒そうに言った。あの歌ってアレだよな……


『ウフフフ、包丁砥ごうか、魔物狩って食おうか、包丁砥ごうか、魔獣狩って食おうか…… ウフフフ』


 コレ…… 自分の包丁や俺の刀を砥ぐ時に必ず歌ってるよな。ユウとレンには見せちゃいけないと思って砥ぐ時は二人とも俺が違う場所に連れ出しているけど。

 

「オッサン、どうしたすっか? 元気が無さそうすっけど?」


 黙ったままだった俺に心配そうにカイリくんが声をかけてきた。


「あ、ああ、いや大丈夫だよ。元気だ! 俺は元気だけど、士農工商はカイリくんが思ってるジョブじゃないからな。そこだけは訂正しておくよ」


 そう、死のう交渉じゃないからな、カイリくん。


「そうなんすか? まあいいっす。それよりもこの車はどうしたんすか? ひょっとして車に似せたゴーレムっすか?」


 そう、公爵様が自慢気に見せている車を騎士たち(洗脳された二名も含めて)が興味深そうに見ている。だけどこの場所で俺の職について詳しく言いたくないなと思っていたら、ショウくんがちゃんと気を利かせてくれた。


「カイリ、その辺りは公爵のお屋敷で話をしよう。領都の門前でする話でも無いし。さあ、カイリも一緒にこの車に乗って屋敷に行こうじゃないか、良いですよね、公爵?」


「ああ、もちろんだとも。護衛の騎士たちはうちの騎士たちについて行ってくれ。宿まで案内しよう」


 おおっ! 公爵様ナイスです。宿をちゃんと用意されてるなんて! って考えたら当たり前か…… 公爵様の領内で王都の騎士たちを屋敷に入れる訳はないよな。


「ハッ! 公爵閣下。カイリ様、ではまた後ほど」


 そう言って素直に公爵様の騎士さんに着いていく七名の騎士たち。よし、これで車の中である程度は話しが出来るな。


 車に乗り込み公爵様の運転で屋敷に向かう事になったけど、公爵様が少し外を走りたいと言って門の中には入らずに町の外を走る事になった。

 走らせたいだけだろうけど、こっちとしても有り難いのでお付合いする事にした。


「それで、カイリ。王都での生活はどうだった? 何か情報を集める事ができたか?」


 ショウくんがさっそくカイリくんにそう質問している。


「いやいや、ショウさん。ちょっと待って欲しいっす。先ずは何で王都で居なくなったオッサンと一緒に居るのか説明して欲しいっす」


 おお、カイリくんがまともだ。


「あ、ああ、そうだったな。忘れてたよ。出会ってからオッサンが居るのが当たり前になってたから」


 それからショウくんはカイリくんに説明を始め、俺も横から森での事を補足説明した。


「うわー、最悪っすね。オッサン、良く無事だったっすね。それにしても士農工商っすか? 江戸時代は武士、農民、町民って習ったっすよ。そんな言葉は知らないっすね〜。けど、それで助かったんっすから年を取った功が光ってるっすね!」


 なあ、ナビゲーターよ、本当にカイリくんは洗脳されてないのか?


『マスター、残念ながらこれがカイリさんの通常です』


「おい、カイリ。その言い方はオッサンに失礼だぞ。それに、俺たちよりも恐らくオッサンの方が強いと思うぞ」


「えー? そうすっか? これでもレベル20になって騎士団では団長と副団長以外には負けなくなったんっすけど」


 ん? するとさっきの二人が団長に副団長なのか?


『いえ、マスター。あの二人は団長と副団長ではありません。油断させる為にわざとカイリさんに負けてます』 


 どうでもいいけど何でナビゲーターはそこまで情報通なんだ? 俺は常々思っていた事を確認してみた。


『それは私が【超】優秀なナビゲーターだからです!』


 はい、聞くんじゃなかったよ……


 くだらない事に時間を費やしていたら、今度こそショウくんがカイリくんに確認をしていた。


「で、王都ではどうだったんだ?」


「はいっす、ショウさん。王女様が何かと僕と二人きりになろうとしたっすけど、その都度騎士団の人たちを間に挟んで何とか凌いでいたっす。それと騎士団でも王家の事を疑う人たちが出てきているっす。表立ってはなにも言わないっすけどね。団長と副団長なんかはコソッと僕に召喚の儀式なんて百年以上やった事が無いって教えてくれたっす」


「そうか。それで、騎士団の人たちは王家から今回の召喚については何て聞かされたのかは確認してみたのか?」


「はいっす。どうやら王女様に神託が降りて数年後には魔王が復活するって言ってたらしく、その為に異世界から英雄を召喚するって説明を受けたらしいっす」


 その神託が本当か嘘かはともかくとして、どうなんだ、ナビゲーター?


『何がですか、マスター?』


 いやだから、騎士団に説明したその理由は本当なのかどうかって事だよ。


『そんな訳ないじゃないですか、マスター。小学生でも分かる疑問を私に聞かないで下さい』


 クソッ、相変わらず口が悪いな、ナビゲーターよ。それじゃ、なんの為にショウくんたちは召喚されたんだ?


『まあ、生贄でしょうねぇ、邪神への。それと、邪神を信仰している王女様の慰み者ですか。今はこの世界に魔王が産まれる土壌はありません。魔族と昔に呼ばれた人々も普通に共存できています。まあ、一部では根強い差別がありますけどね。そもそも、昔、魔王と呼ばれた存在も人族から不当に扱われた他の種族の者たちを救うために立ち上がった人ですからね』


 あ、そうなのね。それじゃ、邪神と魔王は別者なんだ。俺はてっきり邪神の手下が魔王なのかな? って思ってたんだよ。


『何ですか、その昭和なファンタジー感は? 時代が違いますよ、今は令和なんですよ、マスター!』


 ナビゲーターよ、いつかお前を具現化してやるからな。そしてタコ殴りしてやる!


『いくらマスターの職が優れていてもそれは無理ですね』


 澄ました返答にそれでも俺は可能性を求めてやってやると心に誓った。


 公爵様も運転に満足したようで、コレで屋敷に戻る事になった。領都内だと時速十五キロ以下で走る。馬車も大体そのぐらいだから交通渋滞や事故も起きない。


 屋敷に戻ると取りあえず疲れを取るためにカイリくんは部屋で休む事になった。俺とショウくんはカイリくんから聞いた話を他のみんなにする為に俺の部屋に集まる事になった。




 ……その頃宿屋に着いた騎士たちは自由行動の許可を貰い町に繰り出していた。その内の二名が会っていたのは公爵家の侍従長であった。


「それで、王女殿下からの指示はありましたか?」


「特には無かった。引き続き公爵家を見張り定期的に報告するようにとの事だ」


「そうですか…… 分かりました。私が公爵から既に王家の者だとバレているのは王女殿下もご存知なんですよね?」


「もちろん、王女殿下はご存知だ。けれども表立って公爵はお前をクビにしたりはしない筈だとも言っておられたよ」


 騎士にそう言われてホッとした顔をする侍従長だが、その次の言葉にゾッとした。


「貴様は早く王女殿下から下賜された薬を飲むのだ。さもなければ我らが貴様を消さなければならなくなる」


 もう一人の騎士も、


「なーに、飲んでしまえば楽になれるのだ。力も格段に上がるから王女殿下のお役にこれまで以上に立てるようになるぞ。さあ、我ら二人の目の前で飲むのだ」


 そう言って迫る。顔は笑っているが目が笑ってない二人の騎士に迫られ、侍従長は諦めたように懐から丸薬を出して口に含んだ。

 見た目に変化は現れないが、その持つ雰囲気が変化した。


「クックックッ、私は何を怯えていたのでしょうね。これほど素晴らしい物だったとは! もっと早くに飲んでおくべきでした。ご迷惑をおかけしましたね」


 侍従長のその言葉に満足そうに頷く騎士二人。


「いや、飲んだからには大丈夫だ。それでは、英雄を一人ずつ我らのところまでおびき寄せるんだぞ。弱らせて薬を飲ますからな」


「お二人だけで大丈夫ですかな? 英雄たちもそれなりの力を持っておりますが?」


 純粋に心配してそう聞く侍従長に騎士二人は自信たっぷりに返答した。


「クククッ、大丈夫だ。我らはレベルも英雄たちよりも上だし、王女殿下のお陰でレベル以上の力を得てもいる」


「騎士団訓練所で手合わせしているが、カイリなどは敵ではないぞ。我らにかかれば赤子も同然よ!」


 その二人の自信を見て侍従長も安心したようだ。


「分かりました、それでは先ずはカイリからでよろしいですかな?」


「ああ」「うむ」


 二人の了承を得てカイリを誘い出す算段を屋敷に戻りながら考え始める侍従長であった……

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