第18話 カイリくん到着!

 それから二日間、講習をしてすっかり運転に慣れた公爵様と奥様に次は外での運転を経験してもらう事にした。

 先ずは領都内の走行だが、馬車道も広くとってあるので、時速は十五キロ〜ぐらいでゆっくりと走らせて貰う。ここでも奥様の方がお上手だ。


 そして、門から外に出て遂に最高速度での走行を試す事になった。が、ここで意外な事実が発覚した。


「ウフフフ、ウフフフ、退きなさい! ゴブ共! はね飛ばすわよ!!」


 何と奥様、スピード狂だった…… 逃げるゴブリンを追いかけ回しはね飛ばして行くし……


 この人、怖ぇーー! 何故か後部座席の公爵様もプルプルと震えている。


「な、なあ、ミランダよ、そろそろ…… その、交代しないか?」


「あら、あなた、どうなさったの?お声が震えているわよ。こんなに揺れが無い車の中なのに?」


 あなたが怖いからですよ〜…… とは俺は言わずにとりあえず公爵様に賛成しておいた。


「奥様、そうですね。そろそろ交代の時間です。公爵様にも経験を積んでいただく方が良いでしょう」


「オッサンさんがそう言うなら交代しましょうか。あっ、待って、最後にあのゴブ共を駆逐してからね!」 


 そう言ってゴブリンが十匹ほどいる場所にハンドルを切る奥様だった……


 無事に公爵様にハンドルが渡ってホッとしている俺と公爵様。奥様は隣をイビルエンジェルで走るミコトさんを羨望せんぼうの眼差しで見ている。失敗したな…… ミコトさんには公爵様の屋敷の敷地内で走って貰えば良かった……


「ねえ、オッサンさん」


「はい、何でしょう、奥様?」


「アチラのミコトさんがお乗りになってる自動車はあるのかしら?」


 ここだ、ここで返答を間違うんじゃないぞ、俺。公爵様も頼むぞって目線を俺に送って来てるしな。


「奥様、大変申し訳ございません。あちらはミコトさん専用でございます。残念ですがあれ一台しかございません」


 完璧な答えだ! 俺はそう思ったのだが、しかし奥様は違った……


「そう…… ミコトさん専用が出来るならわたくし専用も用意できるわよね? ねえ、オッサンさん?」 


 しまった、そう来たかーっ!


『そりゃ、お貴族様ですからそういう返しが来ますよね。ここは大胆にもう作れませんって嘘を告げておくべきだったんですよ、マスター』


 そのアドバイスは今では遅くないか、ナビゲーターよ。アドバイス通りに言っても今さら感が半端なく出るだろうしどうすればいいのか……


『まあ、ここはマスターの臨機応変な対応を期待してます』


 あっ、投げやがった。クソッ、どうする? そうだ、原付だ。排気量の少ない原付ならばどうだ?


『車でゴブリンの群れに突っ込む人ですよ、逆に危ないと思いますが?』


 クッ、そうだった…… 公爵様、ごめんなさい。俺には無理でした……


「そ、そうですね、奥様。専用の物をお作りしたいと思います。但し、お屋敷に戻ってからと、お屋敷の敷地内で十分に練習をしてからというのをお約束下さいませ」


「まあ、有難う! オッサンさん。もちろんお約束するわ! お支払は黒金貨十枚でいいかしら?」


 だからお貴族様の金銭感覚…… 自動車が黒金貨二枚だから、白金貨五枚ぐらいだと思うのだが……

 しかし、そこで公爵様からも、


「そうだな、世界にミランダ用しかない自動車だ。黒金貨十枚が妥当だろう」


 そう言って結論付けられてしまった。ま、まあ良いか。取りあえずはお屋敷に戻ってからという話しになりならば早く帰りましょう! と奥様の鶴の一声によりお屋敷に戻る事になった。


 そこからは奥様の要望をお聞きしていく作業。ミコトさんが乗っているのと同じようなアメリカンタイプをご希望のようだが、道が悪い場所でも乗りたいとのご要望が追加される。

 えっと、俺はバイクはあまり詳しくないのだが、そんな車種があるのか?

 そこに救世の女神様が現れた。


「オッさん、それならインドアン社のスカウターボンバーが良いです」


 そう、バイク大好きミコトさんである。俺はメーカーと車種が分かれば作る事は可能なので、それで取りあえず作ってみた。もちろん、魔核仕様の方だ。

 グッ! 魔力をかなり持って行かれたぞ。でも排気量は1,100ccぐらいなのにな。ああ、そうか魔核仕様に改造したからか。

 で、作ったバイクはを見た奥様のお言葉は。


「素晴らしいわっ! オッサンさん! これなら私の為に相応しいわっ!!」


 だったのでホッとした。そして、ヘルメットと肘当て、膝当て、ライダースーツ(ツナギ夏、冬用)と冬用に厚手の革ジャンもプレゼントした。講習はミコトさんにお願いしたよ。


 屋敷内に戻る時に公爵様から


「オッサン殿…… 我が妻が無理を言って申し訳ない」


 と頭を下げられた上に黒金貨十枚をちょうだいした。


「いえ、公爵様。コレは仕方ない事なんですよ」


 俺は結局バイクを作ってしまう事になったので逆に公爵様には申し訳ないと思っていたのだが、それを言うと藪蛇になりそうなのでそう言ってごまかしておいた。


 講習は自動車よりも長く続いているようだ。敷地内で奥様の返事が聞こえる。


「はい! ミコト教官! 分かりました!」


 アレ? 何か返事がおかしくね? ミコト教官?


「そうね、ミランダ。分かったというならもう一度よ! さあ、自分だけでこの怪物モンスターを起こしてご覧なさい!」


「はい! 教官!!」


 うん…… 触れないでおこう。君子危うきに近寄らずだ。何故かナツキちゃんとサクラちゃんは近くで見ているようだけど、ショウくんはちゃんと近寄ってないようだ。俺もそうしよう。

 ユウとレンは有り難いことに公爵様のはからいで侍女さんと一緒に読み書きのお勉強をしている。


 その時、侍女さんの一人が俺を呼びにきた。公爵様が呼んでいるそうだ。俺は急いで執務室に向かった。


「おう、オッサン殿。呼び出してすまない。先ほど早馬が来てな。カイリ殿がもう直ぐ領都に到着するらしいので、ショウ殿と一緒に門まで出迎えに行こうと思ってな。オッサン殿にも出切れば来て貰いたいのだが、どうだろうか?」


 俺は暇を持て余しているし、もちろんついていく事にしたよ。


「はい、分かりました。ご一緒します」


「では、私たちは自動車で行こう!」


 公爵様、運転したいだけでしょ…… そう思ったけど、ショウくんと二人で顔を見合わせて苦笑いするにとどめておいたよ。


 そして、領都内をスピードを落としてゆっくりと走り、門に到着すると前方にまだ小さいけれども馬影が見えた。きっとアレだろうと思う。 

 さほど急いでいる風もなくゆっくりと大きくなる馬影は八頭。先頭に見えるのがカイリくんのようだ。


 カイリくんも門前で待つ俺たちに気がついたようで大きく手を振っている。ショウくんも手を振り返している。いいなぁ、青春あおはるだなぁ。

 オッサンの俺はそう思っていた。そして、声が聞こえる位置に来たときにカイリくんが言った。


「アレ? ショウくんの横に居るのは死のう交渉のオッサンじゃないすか? 今は誰と交渉してるんすか? まさか、僕とするつもりじゃないっすよね?」


 おい、ナビゲーターよ、このカイリくんは既に洗脳されてるんじゃないか? されてるよな?


『いいえ、マスター。カイリさんは正常です。コレがカイリさんの通常です。ついてきてる七名の騎士のうち、二名は洗脳されてるようですが』


 何だって、洗脳されてないって! クソッ、それにかこつけて一発殴ってやろうと思ったのに…… って、二名の騎士が洗脳されてるだって!? ヤバいじゃないか。


『そうですね、レベルも高く32です。職は剣帝よりも下の剣王ですが経験の差からカイリさんでも戦うと負けるでしょう。恐らくはその為についてきてるかと思われます。良かったですねマスター。夜中にコソコソレベルアップをしておいて』


 確かに。俺はこの公爵領に来てからナビゲーターに言われてみんなが寝静まった頃にレベルアップを目指して魔物と相対してきた。お陰でレベルも28になってるけど、その俺よりレベルが高いなんて、ヤバいじゃないか。


『恐らくは大丈夫だとは思いますが、二名も来て直ぐに行動を起こす事は無いと思いますので、今夜からまたスパルタで行きましょう、マスター』


 ノーーーっ! アレよりスパルタだと俺の寝る時間が…… そう思ったけど背に腹は替えられないのか。俺は諦めの境地に至るのだった…… 

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