第17話 公爵様に自動車を売る

 何だその洗脳って? この子たちが洗脳されてしまうという事か? 物騒だな。


『はい、マスター。この方たちは非常に優秀な職やステータスを授かっていますが、相手は神です。それもマスターたちから見たら邪神という神になります。人はどれほど優秀でも神には逆らえません』


 おう、そうなの? 俺なんてオッサンで神仏習合を体で表してるんだけど、それでもダメかな?

 墓は仏だし、クリスマスは密かにソロでお祝いだーってケーキ買ってるし、初詣には神社に行くし…… うん? 何か自分が神も仏も信じてない気がしてきたぞ? いや、苦しいときには咄嗟に神様仏様ーって心の中で頼んでるから、ちゃんと信じている筈だ。


『ハア〜…… マスターならば洗脳【されない】可能性が99.9%ありそうですね……』


 おい、何だその中途半端な数字は? そこは100%でいいじゃないか!


『マスター、ご存知でしょう。公正競争規約により100%という表記は避けるようにと決まったのは。コチラでもそれは同じくなんです』


 衝撃の事実だ! 異世界にも影響がある公正競争規約ってどうなんだ…… 


 けど、やっぱり俺ならば洗脳はされそうに無いなぁ。オッサンだし。自分でも納得してしまったよ。


『私の言った事に納得しましたか、マスター。ちなみにミコトさんもユウさんもレンさんもマスターが納得される前に納得されてましたよ』


 その言葉に俺が三人に視線を向けると三人がにこやかに俺に手を振っていた……

 まあこのままじゃ話が進まないから教えるだけは教えておこうかな。


「ショウくんよ、これはあるスジからの情報なんだけど、とある邪神が絡んでるらしくてな。このままこの国に居たら君たちも洗脳されちゃうらしいんだよ。だからそのカイリくんが公爵領に来たタイミングで君たちもこの国を出た方がいいと俺は思うよ」


「あるスジって、どのスジなんですかオッサン? でも本当なんですか、その情報は? だったら一人残っているカイリが危ない!」


 慌てて飛び出そうとするショウくんを俺は止めた。


「まあ、待て待て。いったん落ち着こうか。とりあえずカイリくんは公爵様が呼んでくれるんだから来るまで落ち着いて待ってみよう。それから話合いをしても遅くないだろうし。俺たちもそれまではこの公爵領に残る事にするよ」


「オッサン…… 有難うございます。オッサンたちの方針は決まってるのに俺たちが足止めする形になってしまって申し訳ないです」


 うん、本当によくできた子だな。俺ももしも結婚できていたならこんな息子が…… 居ないか。イケメン過ぎるな、ショウくんは。

 次に俺は気になっていたことを確認してみた。


「でさ、君たちも有無を言わさずにこの世界に召喚された訳だろ? 地球でのご家族とかは大丈夫なのかな」


 俺がそう聞いてみたら、ショウくんから返事が…… あまり良い返事じゃなかったよ。


「ああ、それについては大丈夫です。俺とサクラの家であるジンミョウジ家は親父がお妾さんの子供を含めて十五人も子作りしてたので、俺とサクラが居なくなったぐらいじゃ誰も心配なんてしませんよ。ナツキの家も似たりよったりで、カイリはもともと祖父母と暮らしてたんですけど、その祖父母も高校二年の時に相次いで亡くなっているので。カイリは俺より年下なんですけど、バイト先で知り合いになって、その後にサクラやナツキとクラスメートだと知って四人で遊ぶようになったんです。四人とも家族には恵まれてなかったのでウマが合ったんだと思います」


 うん、ジンミョウジってあのジンミョウジかな? 今や地球じゃ知らない人は居ないって言われてるジンミョウジグループの事だよね。そうかぁ、テレビに出てた厳ついけど渋めのあの人がショウくんとサクラちゃんの父親だったか。なるほどねぇ。

 ナツキちゃんは名字がかんだけど中国がルーツなのかな?


「えっとね、アタシもよく知らないけど先祖は千年前に日本に来てたらしいの、だから国籍上は純日本人だけど、何だかご先祖様のご威光がーとか何とか爺ちゃんが言ってた」


 おおう、名家なんだね。千年も続いてるなんて、天皇様のお家に次いで古いお家じゃないのか。オッサン驚いたよ、ナツキちゃん。


 そんなこんな話をしていたら夜も遅くなってきたからとりあえず今日は解散する事になった。また話合いを重ねて具体的にどうするか考えようって約束してみんなが出ていく。

 

 ……で何で俺の部屋に居るんですかね、ミコトさん? ユウとレンはわかるよ。俺の部屋にベッドがちゃんと運び込まれてて三人で寝られるようになってるからね。


「えーっ、今まで一緒に寝てたのに私だけ仲間はずれにするんですか? ひどいわオッさん…… 『早く既成事実を作らないとダメだわ。サクラちゃんやナツキちゃんにオッさんを奪われてしまう! ハッ、まさかオッさんの狙いはハーレム? 若い娘を優先して私だけ放置プレイ…… ああ、何て甘美な響きなの、放置プレイ……』」


 まーた、何か妄想してるよな、絶対に。その間に俺はユウとレンに確認をすると、一緒の部屋でいいよって言うから、ユウとレンを挟んで両端に俺とミコトさんが寝る事にした。ベッドもセミダブルサイズが三つあるからくっつけて並べたら四人とはいえ十分すぎるぐらいに広いからな。ユウとレンはまだ小さいしね。


『端と端にわかれた男女は子どもたちが寝静まった夜中に……』


 ミコトさん、オッサンはもう寝ますからね…… おやすみなさい。



 翌朝になって公爵様にショウくんと二人で話に向かった。そう、車の件だ。


「何だって!? あの車を要らないかって! もちろん欲しいが、いくらで売ってもらえるのたろうか? 現状、私が支払える最大は黒金貨五十枚なのだが」


 おおう、知らないお金の話が出てきたよ。で、ショウくんに教えて貰った。


「オッサン、小銅貨が十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で小銀貨一枚、小銀貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で小金貨一枚、小金貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚、白金貨十枚で黒金貨一枚になります。俺たちなりに換算してみてるんですけど、小銅貨が百円、銅貨が千円、小銀貨が一万円、銀貨が十万円、小金貨が百万円、金貨が一千万円、白金貨が一億円、黒金貨が十億円ぐらいだと考えてます。物価なんかは違うので一概いちがいにそうとは言えませんけど、だいたいそれぐらいで合ってるかなと思ってます」


 いや、ちょっとまって、公爵様は黒金貨(十億円)を五十枚って…… ごっ、五百億円! 要らないから、そんな大金は小心なオッサンに必要ないですし、持ちたくないです……


 俺が金額の大きさにビビって首を横に振っていたら何を勘違いしたのか公爵様が、


「むっ、やはり足りぬか…… オッサン殿、数日待っていただけたら黒金貨を二十枚追加で支払いは出来るが、それでどうだろうか?」


 なんて仰ってますよ…… 違いますからね、足りないんじゃなくて多すぎるんですよ。俺は慌てて否定した。


「ちょっ、ちょっと待って下さい、公爵様。逆です、逆!」


「うん? 逆? 逆とはどういう意味かな、オッサン殿?」


 ダメだ、分かってねぇ。


「多すぎです。俺が思ってる金額は高くて金貨一枚ぐらいですよ」


 俺の言葉に公爵様がクワッと目を見開いた!!


「何を馬鹿な事を言っておるのだっ!! あの自動車とやらが金貨一枚だとっ! そんな事はあってはならないっ! 技術の結晶が込められたあの自動車は最低でも黒金貨三十枚は支払われなければならんっ!!」


 更にショウくんまで、


「オッサン、金貨一枚は無いですよ。この世界では未知の技術でもありますし、せめて黒金貨五枚は貰わないと……」


 なんて言い出した。そこで俺も考えを改める事にした。


「分かりました、公爵様。けれども黒金貨二枚です! それ以上多く支払おうとするならば売りません!」


 小心なオッサンの俺はこれでもビクついてるのだが、ここは強気で公爵様に迫った。


「グゥッ、う、売らないとは卑怯じゃないかね、オッサン殿。しかし…… 私は自動車アレが欲しい…… 分かった。対外的には購入金額をはっきりと伝えずに、黒金貨が必要だったと言う事にしよう。これは君たちを守る為でもあるんだよ。あまりに安い金額だと少しばかり裕福な商人ならば売れと直ぐに言ってくるからね」


 どうやら後から湧いてくる売れ売れ商人を牽制する為の黒金貨五十枚でもあったようだ。ああ、確かに俺もそこまでは考えてなかったや…… 反省します。


『マスター、コレで違う国に行っても家を購入できます。貴族屋敷ですと大体白金貨一枚が相場ですから』


 おい、ナビゲーターよ、お貴族様の屋敷を購入するつもりは無いぞ、俺は。


『また馬鹿な事を。もしも、ショウさんたちも含めて生活をするのであれば貴族屋敷ぐらいの広さが無いと住めませんよ。庶民の家ではそこまで広くなくて、部屋数も少ないのですから』


 呆れたようにナビゲーターにそう言われてしまった。それもそうか……


 それから俺は魔核を動力とした自動車を作り、公爵様の運転講習を行った。公爵様の屋敷の敷地内は十分に広い。教習所なんかよりも広いから、敷地内での講習だ。

 魔核は魔力をいっぱいにしてあると走行距離は五百キロぐらいだった。

 公爵様は十分だとご満悦の様子だったけど。簡単な矢は弾くし、火魔法なんかにも外装が鉄だから対応可能なのでホクホク顔をしていたよ。その後、なんと公爵様の奥様にも講習を行い、純粋に運転技術だけで言うならば奥様の方が上手だった事をコッソリとお伝えしておいた。

 

「フフフ、あの人は少し大雑把なところがありますからね。コレはわたくし専用にしようかしら」 


 そう仰っていたけど、俺は何も聞いてないフリをしたのは言うまでもない……


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