第15話 旅は楽しく


「ヒャッホーッ!!」

「ヒャッ、ヒャッホーッ!?」


 隣を走るイビルエンジェルから楽しそうな声が届く。後部にはミコトさんのお腹に腕を回してこれまた笑顔のユウが居た。

 さすがにレンは幼すぎて危ないので乗りたいと言ったが止めさせたのだが……

 ジトーッと助手席から俺の顔を恨めしそうに見てくるので、次の休憩の時に少しだけ乗せて貰いなさいと俺が根負けして折れてしまった。 


 しかし、ミコトさんもユウも寒くないのだろうか? 一度目の休憩の時に


「オッさん、この格好だと気分が出ないです! 私とユウちゃんとレンちゃん、三姉妹お揃いの革つなぎが欲しいです!!」


 と目をウルウルさせながら懇願されてしまった。そして、俺は負けた。革は素材があったから魔力もそれほど持って行かれる事も無かったのも災いした。だが、ユウを後ろに乗せて走ると言い出した時は止めた。確かに俺は止めたんだ。だが……

 レザーのツナギの胸元が大胆に開けられた状態で生返事を繰り返したオッサンを誰が責められるだろうか? そんな奴は居ないよな! ガン見して話をろくに聞かずにウンウン言ってたら、俺はユウを後ろに乗せる事を了承してしまっていたようだ……

 はい、ごめんなさい。全ておっぱい星人が悪いんです。


『そうですね、全ては称号が表しています』


 はい、ナビゲーターよ、そういう時だけ入ってこない。

 

『いえ、私にはマスターを導く義務がありますので』


 いや、それジョブに関してだよね。称号は含まれてないよね?


『マスター、確かに私はジョブナビゲーターではありますが、マスターの場合、職を変えると能力値も変動しますので、その全てに対してと認識しております』


 クッ、屁理屈っぽいけどそれらしいから反論できない…… だがまあいつもの事だと割り切る事にしたよ。


 そして、ミコトさんにもただ負けたのではダメだと思い、ヘルメットを被る事を条件にした。で、魔獣や魔物の頭蓋骨で作ったヘルメットの数、三十……

 やっと三人からこれなら被ると合格をもらった時には夜になっていたよ。

 で、現在、レンが乗っているのだが、俺としてはレンにはお姉ちゃんとお揃いの物を渡せば納得するだろうと思っていたのだが、どうしても乗りたいと言い出してしまったのだ。まあ、楽しそうだしな。だけど、この車に合わせて走っているため時速三十〜五十キロだからそこまで爽快では無い筈なんだがな。


 俺たちは急ぐ旅でもなし、昼を少し早めに休憩していたけど、今日もまだ明るい内に野営する事に決めた。そこでミコトさんにこの近くをレンを乗せて軽く走ってやってくれと頼んだ。


「アラ? もちろん良いけどレンちゃん、ちゃんとつかまっていられるかな?」


「うん、お姉ちゃんにちゃんとつかまる!」


「よーし、それじゃヘルメットを被って! はい、後ろに乗ってね。道が悪いからあんまりスピードは出さないけど、ちゃんとつかまってね」


「はーい!!」


 その光景を微笑みながら見ていたらユウが、


「パパ、有難う…… こんなに楽しい気持ちになったのは初めてだよ!」


 ととびきりの笑顔を見せてくれた。俺は照れながらもユウの頭をワシャワシャして、


「礼なんていらないぞ。これからも楽しく過ごすんだからな! もちろん、危ない事をした時はちゃんと叱ったりもするぞ!」


 そう言って自分の照れを誤魔化した。

 

 それからワンルームを出してゴーレムに出てきて貰う。街道からは外れているし、丈の高い草も生えてるからそんなに目立つ事はないだろう。

 

『この辺りではEランクの魔物、魔獣しかおりませんので過剰防衛気味ですが、安心安全に絶対は無いので良いでしょう。但し地雷は止めておきましょう、間違って人が踏む可能性もありますから。悪人ならば踏んでも良いですけどね』


 サラッと言うなあ。まあそのお陰で俺も人を斬った事をそれほど悔やまずに済んでいるんだろうけどな。


『そうです、マスターはもっと私に感謝すべきです!』


 この調子乗りがなければもっと認めてやるんだが……


 そんな時にミコトさんが戻ってきた。


「ハアー、楽しかった、レンちゃん?」


「うん、凄かった! また乗せてくれる、ミコトお姉ちゃん?」


「そうね、この先は道が悪いから明日からは車で移動になるけど、また道の状態がいい場所があったらユウちゃんと交代で乗せてあげる」


「わーい! やったーっ! 有難う、ミコトお姉ちゃん!」


 どうやらミコトさんはこの先の道の状態をついでに確認してきてくれたようだ。出来る女史は違うなぁ。俺はミコトさんに有難うとお礼を言っておいた。


「お礼はいりませんよ。私のワガママを聞いてもらったんですから」


 どうやらイビルエンジェルを作ったことで何か役に立っておかないとって思ったらしい。そんなの気にしなくていいのにな。と、俺はナビゲーターに質問があったのを忘れてたよ。ワンルームにみんなと一緒に入ってから、みんなにも聞こえるように声に出してナビゲーターに質問した。


「ナビゲーター、森から一番近い町が百キロって言ってたよな? もうそろそろだと思うんだけど、その町はどんな町なんだ?」


 俺の問いかけにナビゲーターの返事。


『マスター、確かにもう少しでセーヤ公爵領都に到着します。あと二十キロほどですかね。セーヤ公爵はウ・ルセーヤ国王の弟さんで、国王とは反りが合わずに領地に引っ込んでいる引きこもり公爵です。が、領民からは慕われております。また、公爵の意向で他種族の差別を禁じておりますので、ユウさん、レンさんを連れていても迫害されるような事は無いでしょう』


 先ずは俺が一番知りたかった情報を教えてくれたな。


「だがウ・ルセーヤ国の公爵なんだよな。避けた方が良いか? 情報がウ・ルセーヤ国に流れる可能性が高いよな?」


 そう、いくら国王と反りが合わないとは言っても領地にくにからの間者かんじゃが居るのは間違いないと思う。だからその領地を通る事によって俺やミコトさんが生きてる事がバレると考えている。


『確かにマスターの考えているとおりだとは思いますが、ウ・ルセーヤ国から出て他国に向かうにはこの公爵領を抜けるしかありません。ですのでこのまま向かう事をオススメ致します。マスターやミコトさんが生きてる事を知っても直ぐに動きも無いとも思えますし。あの処刑の森を生きて出られるとは微塵も思って無いでしょうから、先ずは確認の為に動くだけでしょう。その間に他国へと逃げてしまえば大丈夫だと思われます』


 この問答はみんなにも聞こえている。だからみんなの意見も聞いて見ることにした。


「ミコトさん、ユウ、レンはどう思う?」


「私はナビさんの言う事を信じても良いと思います」

「私もミコトお姉ちゃんと同じです」

「レン、分かんない……」


 おおっと、そうだった。レンには難しかったな。悪いことを聞いてしまった。


「レン、パパが悪かった。気にしなくて良いからな。それじゃ取り敢えず公爵領に向かって真っ直ぐ進もうか。何かしら敵対行為があった場合は直ぐに撤退という事で」


「はい!」


 三人からの同意を得て明日は公爵領に向かう事になった。


 翌朝、いつものように身支度を整え、ゴーレムたちも戻って貰い、いざ出発である。

 道は本当に悪路になったようだがさすがは悪路走行車だ。普通の車ならばガタンッと大きく跳ね上がる筈が絶妙なクッションで跳ね上がりをおさえてくれる。ん? おかしいな…… 時代が段々と進んでいい車が作れるのはいいが、俺たちが地球に居た頃にここまでの車は無かったぞ。


『今ごろ気が付きましたか…… やはりマスターは鈍感ですね。この悪路走行車はサービスです。地球で近未来に開発される予定の超ショックアブソーバを搭載したスーパーカーです。まあ、時速は最高六十キロしか出ませんが。但しこの世界は道と言っても舗装などされていませんので、小さな子供も安全快適に乗れるように先出しさせていただきました』


 おう、鈍感なのは認めるが何やかや言ってナビゲーターも子供には優しいのな。


『当たり前です、子は宝です! マスター!』


 うん、俺もそう思うよ。そんなやり取りをしていたら遂に町の防壁が見えてきたよ。


 ん? 何だか門の方で騒いでるみたいだな? 何だ?


『そりゃあ、この世界で見たことない物が町に迫ってるのですから敵認定されても仕方ないですよね。私はまたもっと手前で車を降りて歩いて向かうと思ってましたよ、マスター』


 いつもいつもだけど、そう言う大事なことは先に言えーっ!!




 

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