第11話 野営にて

 俺はナビゲーターに教えられたとおりにゴーレムを五体、地雷を十個作って野営場所の守りとした。もちろん職はこうにしてある。野営場所には小さな沢があり、森が少し開けた場所を選んだ。その場所はナビゲーターが勧めてきた。


『マスター、この場所ならば明日の朝、二時間も歩けば森を抜けます。そして、この場所にいる魔物、魔獣は限りなくDに近いCランクなので、今のお二人ならば相手をするのに苦労はしません。もちろんマスターのゴーレムでも大丈夫です』


 そうナビゲーターがいうので俺とミコトさんは信じる事にした。で、俺のアイテムボックスからワンルームを出した。今回は一部屋だけだ。守る場所を分散させるのは得策ではないとミコトさんが力説したからだが、恐らくは何かの妄想によるものだと見当をつけている。


(ミコトの妄想)

『深夜になって襲い来る魔物たち。なす術無く、二人の男女は最後だと一線を超えてしまうのよ…… そして、その逞しくそそりかえったモノで貫かれる私は……』


 うん、多分俺の見当は外れてないと思う。今の俺はこの場所に来るまでにまた一つレベルが上がり、23になった。



名前:オッサン

性別:男

年齢:五十才

職業ジョブ:士農【工選択中】商

技能スキル:鉄工・木工・工業全般・素材認識・各種配合生成(制限有り)・建設(制限有り)・掘削・切削・加工・工具制作(制限有り)・車制作(制限有り)

位階レベル:23

称号:おっぱい星人マザコン

体力:1,800

魔力:2580/4,580

武器:石頭セットハンマー2.5kg(+190)

防具:作業着、不織布ツナギ(+90)

攻撃:410(+190)

防御:285(+90)



 思えば俺も強くなったな…… チート…… 出来る事が多いから確かにチートではあるな。 

 そんな時にナビゲーターからの指摘が入る。


『マスター、感慨に耽っていますが、レベルが上がったという事は作れる車の車種も増えている筈です。明日までに確認をしておいて下さいね』


 はいはい、分かったよ。オート三輪から何が増えたのか…… ちょっと期待しちゃうよ、オッサンは。


【車制作】

レベル19

 荷物積載車(350cc)

 消費魔力1,100

レベル20

 軽トラック(550cc)

 消費魔力1,500

レベル21

 軽バン(550cc)

 消費魔力1,800

レベル22

 軽乗用車(550cc)

 消費魔力2,200

レベル23

 悪路走行車(1,000cc)

 消費魔力3,000


 おおう、懐かしいな。確かに昔の軽は550ccだったよ。それにしても悪路走行車なんてのが増えてるけど、何? 魔力を3,000も持っていくのか…… うん、森を抜けてから考えよう。正直言って荷物を運ぶのは俺のアイテムボックスとミコトさんの素材収納で事足りてるからな。ここは軽の乗用車か悪路走行車の二択だな。


 まだ妄想の世界に入ってるミコトさんはおいといて、俺は休む準備を始めた。ベッドはミコトさんが使うから俺は布団を作る。素材が無いから魔力でゴリ押しだ。敷布団だけで300も持って行かれた。掛け布団、枕で500…… 明日の朝までに魔力がどれぐらい回復するかなぁ……


 妄想から覚めたミコトさんの作ってくれた夕食を食べ終え、さあ風呂に入ろうというところでミコトさんが妄想を逞しくしている。


『新婚なんだからお風呂も一緒によね、あなた。でも、お風呂場は声が響くからお隣さんに聞こえちゃうかも? だから、あんまりおイタしないでね、あ・な・た・……』


 うん、俺が先に入ろう。パパッと風呂に入りまだ妄想中のミコトさんに


「先に入らせてもらったよ。ミコトさんも早く入って休みなよ」


 と声をかけるとハッとした顔になり、


「す、すみません! 直ぐに入ります!」


 と顔を真っ赤にしてお風呂場に向かった。そのまま、柱の隙間から少し顔を覗かせて、


「のっ、覗いちゃダメですからね! ダメッたらダメなんですからねっ!」


 と、フリか? と思うほど念押しされた。もちろん、オッサンは覗いたりしないぞ。


 ちょっと残念そうな顔でお風呂からミコトさんが出てきた時に、玄関の扉の外から声が聞こえた。子供の声だ!


「あ、あの、あの、すみません。どうか一晩で良いので休ませて貰えませんか? どうか、どうか、私は良いので妹だけでもお願いできませんか?」


 その声に俺は直ぐに反応して、それでもちゃんと職を武士に変更してから警戒しながら扉を開けた。まあ、ゴーレムが通してる時点で危険が無いのは分かっていたが。


 扉の外に居たのは地球で言うならば小学校高学年ぐらいの子と低学年ぐらいの子の二人。だが二人とも頭に狐耳があった。

 獣人けもびとキターッ!! オッサンは心の中で叫んだよ。二人を見つめたまま初対面に驚いて固まった俺を見ながら姉の方が不安そうに聞いてきた。


「あの、泊めていただけますか?」


「あっ、ああ、ごめんごめん。少し驚いてしまって。もちろんだ、さあ上がりなさい。あ、靴はここで脱いでくれな」


 俺も正気に戻りそう声をかけた。ホッとした顔をする二人の靴を脱がせて、部屋に上げてやると妹の方がトサッと軽い音を立てて倒れてしまった。


「ど、どうした? 大丈夫か?」


「すみません、妹は病気で…… 人にはうつらないので!!」


 慌ててそう言う姉の言葉に俺は妹さんを抱えてさっき作ったばかりの布団に入れてやった。100%羽毛の布団は軽く、なおかつ温かいから少し寒いように震えていた妹さんの体の震えが止まるのをみて、姉の方が驚いている。


「ま、魔法のお布団ですかっ!?」


 いや、人類の叡智の詰まったお布団だから。そう返事をしようと思ったらナビゲーターから突っ込みが入った。


『マスター、この世界の人の叡智じゃないからその言葉は止めて下さいね。それよりも、そちらの布団に入った獣人さんはヤバい状態です。助けるつもりならば薬を作って飲ませて上げて下さい。そのつもりが無いならば放置で』


 助けるに決まってるだろうが! オッサンは結婚してないから孫が居ても可怪しくない年齢でも、子供は国の宝だと思ってるんだぞっ! 

  

 俺は直ぐに職をこうに変更した。だけど困ったぞ。医者じゃないから何の薬が良いのか分からない……


『ハアー…… まあサービスです。その子は呪いによる魔力経路阻害症ですから、経路回復薬を飲ます事によって回復します。但し、子供ですから今からひと粒、明日の朝にもうひと粒と二回に分けて飲ませてやって下さい』


 おお、ナビゲーターよ、お前に感謝する日が来るとは!! 俺は直ぐに薬生成を立ち上げて経路回復薬を検索。あっ、魔力を1,000も持って行かれた…… 


 だが、コレでこの子が助かるなら安いものだ。俺は姉の方に断りを入れてから、布団に寝かせた妹さんを起こして薬をひと粒飲ませた。もうひと粒は明日の朝に飲ませると伝えて、姉の方も疲れた顔をしていたので、そのまま妹さんの布団で休むように言って寝かせた。


 ミコトさん? もちろん水を用意してくれたりしてたよ。何故か二人をライバルを見るような目で見ていたけど……


(ミコトの妄想劇)

『不味い、不味いわっ!! ロリ○ンのオッさんの毒牙にかかる前にこの場所から立ち去らせないと! 私があなた達二人を守って見せるわっ! そして、オッさんを大人の女性に目覚めさせてみせるっ!!』


 そんな妄想をしながらも子どもたちの為に甲斐甲斐しく動いていたミコト。そして、オッさんが使用する筈だった布団が二人に入ったのを見て、更に妄想が捗ってしまう。


(ミコトの妄想劇)

『ダメッ! 直ぐ下で子どもたちが寝てるんですよっ!? ああ、そんなトコを……! ダメよ、ミコト、声を我慢するのよ! でもオッさんのごっつい指が優しくあんなトコを撫でるから、が、我慢出来ないわっ!?』


 まーた、なんかやらしい妄想が浮かんでるんだろうな…… 俺はミコトさんを見ながらそう思ったけど、声に出しては違う事を言った。


「ミコトさんももう寝なよ。俺はこの子たちを見ておくから。隣で座りながら寝るわ」


 詳しい事情は治ってから聞こうと思い、何ならもう一泊、ここで野営してもいいなと思いながら、凄く残念そうな顔のミコトさんをベッドに行くように言って、俺もタオルケットを身にまといながら寝る事にしたのだった。


  


 

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