第10話 さらば拠点、また逢う日まで

 遂にこの日がやって来た。そう、一ヶ月もの長きに渡って俺とミコトさんを守ってくれた拠点とおさらばする日が明日になったのだ。

 ナビゲーター曰く、明日の正午には結界が無くなるらしい。


『この結界は実はジョブ士農工商の初期特典なんです。士農工商を得た人が成長する為のものですが、本来は発動しません。何故ならば、人は普通ならば自分の生活圏内で安全な場所に居るものだからです。けれども、マスターはいきなり危険な森へと転移させられましまので、結界が発動しました。そこで、第二特典である私も発動する事になったのです。もしも、マスターがココに転移してなく、人の生活圏内に居たならば、結界も私も発動しなかったのです』


「そうか…… ジョブの特典だったんだな。で、拠点の結界が消えるという事は、ナビゲーターもまた消えるという事か…… いや、色々と文句を言ったが世話になったな。明日でお別れだが、礼を言っておこう、今まで有難う。助かったよ」


「ええー、ナビさんお別れなんですか? 寂しいです。もっと色々と教えて欲しいのに…… でも、明日にはお別れなんですね…… 今まで本当に有難うございました」 


 俺とミコトさんが礼を言うと、ナビゲーターからの返事は


『お二人とも、頭は大丈夫ですか? 私が消えるとは一言も言ってないと思いますが?』


 だった。この野郎、俺はともかくミコトさんまで含めて言いやがったよ。

 あっ、ほら、ミコトさんの目が…… 逝ってるよ!! ヤバいっ!


「オッさん? オッさんの脳を切り開けばナビさんが出てきますよね?」


 ナビゲーターの馬鹿野郎! 俺を巻き込むなっ!! 


『マスター、この妄想痴女へんたいは何を言ってるんですかね? マスターの脳を切り開けばマスターが死ぬだけですのに?』


 だから、俺を巻き込む…… あれ? ミコトさんの目が逝ってる状態から死んだ状態になってるぞ。ああ、称号を言われたからか。まだ割り切ってなかったのね…… 取り敢えず今のうちに落ち着いてもらわないと。


「ミコトさん、落ち着いて。俺はそんな事妄想痴女思ってないからね。『狂戦士バーサーカーだとは思ってるけど……』だからちゃんとナビゲーターの話を最後まで聞いてみようよ」


 俺がオッサンスキル【落ち着いた声音】を使用してそう言うと、ミコトさんも心の中で折合いをつけたようだ。


「で、ですよね。私は痴女なんかじゃないですよね?」


 妄想は否定しないところが何だか怖いが、華麗にオッサンスキル【スルー】を使用して、俺はそうだよと返事をした。


「で、ナビゲーターよ、何で【第二】特典のお前は消えないんだ?」


『マスター、まだ職、【商】の検証をしてませんよね? 私はマスターが一通り士農工商を使用して理解されるまでは消える事はありません。最初にお伝えしたと思いますが…… まさか本当に忘れたとか?』


 ああー、そう言えば初心者ナビゲーターとか言ってたな。つまり、俺はまだ初心者を脱していないという事なのか? 一ヶ月もここでレベリングしたのに? うそーん?


『武士と農に関しては確かに初心者を脱していますが、こうと商に関してはトーシロ素人ですね、マスター。商については町で変更して、交渉などを行えば良く分かると思います。ですが、こうに関しては初心者を脱するまでに二〜三年は最低でもかかると思われます』


 なっ、なんでそんなに時間がかかるんだ?


こうで出来る事は膨大すぎて、マスターの脳ではそれぐらい必要かなと思いました』


 この野郎、まだ俺をバカにしてきてるな。見ておけよ! 必ず一年で初心者を脱してやるからな!


『健闘を祈ります……』


 その返事は出来ないって思ってる返事な……


 まあ取り敢えずは話は終わって次に公衆トイレやワンルームをどうするかの話になった。


『別にそのままでも構いませんが、マスターが必要だと思うならばアイテムボックスに収納して持ち運ぶ事も可能です』


 うーん…… どうしようかな? 必要ならばまた作ればいいし、置いていくか。ワンルームの中の必要そうな物だけアイテムボックスに入れる事にした。着替えやタオルなどは俺が、調味料や食材はミコトさんにお任せした。


「コレで明日は落ち着いて出発出来ますね、オッさん。最初は徒歩で森を抜けたら車ですよね?」


「うん、ミコトさん。道があるなら車を出すよ。無い時はオフロードバイクになるけどね」


『道がある場所に出られるようにナビゲートします。但し、森を抜けるのは一日はかかると思って下さい。野営していただく必要が出てきますのでお二人ともその心構えをしておいて下さい』


 それそれ、そういう情報を事前に教えてくれるなんてナビゲーターらしい仕事をしてるじゃないか。


『私はいつも的確にナビゲートしておりますが?』

  

 いや、普段は情報が遅いよな。俺はそう思ったけど突っ込むと長くなりそうだからやめておいた。


 それよりも野営か…… 俺もミコトさんも結界なんて出来ないから不寝番ふしんばんが必要になるな。当然、女性にそんな事は頼めないから俺になるだろうけど、翌日の移動に差し障りが出そうだ…… 人間、五十歳にもなると睡眠不足だと動けなくなるんだよね。


『マスター、ここでお知らせです。今のマスターはレベル22です。こうのスキルを確認される事をオススメ致します』


 なんかナビゲーターが仕事をすると不信感を覚えるのは俺が捻くれてるからか?


『そうです、マスターが捻くれてるからです』


 ぐっ! この、否定しろよな! 


 それでも俺はこうのスキルを確認してみた。ゴーレムや罠の生成がある。


【ゴーレム生成】

レベル1

 ミニチュアゴーレム 身長十五センチ

 愛でる為のゴーレム 消費魔力2


レベル2

 ミニチュアゴーレム 体長二十センチ

 犬型 愛でる為のゴーレム 消費魔力3


 ……相変わらずレベルが低いとなんの為のゴーレムか分からない。それでもめげずに確認すると、


レベル20

 護衛ゴーレム 岩石型 Cランク

 Cランク魔物、魔獣を相手にしても引けを取らない

 一体につき消費魔力100


 出たよ、役に立つゴーレムが。こいつがいれば不寝番を頼めるな。消費魔力も100ならば何体か生成可能だ。よし、罠を見てみよう。


【罠生成】

レベル1

 草の輪っか 足を引っ掛ける輪っかを生成

 力の強い魔物、魔獣には通用しない

 消費魔力1

レベル2

 つんのめる段差 少しだけ段差をつけて転ばす

 力の強い魔物、魔獣には通用しない 

 消費魔力2


 ……こっちもか。だが俺は諦めない。そして遂に、


レベル21

 地雷 魔物、魔獣が踏めば大ダメージ

 Cランク魔物、魔獣ならば行動不能になる

 一個につき消費魔力150


 やった。これならば更に安心安全な野営が出来そうだ。俺はミコトさんにゴーレムや罠について説明した。そして、野営時にはこれらを生成して安全にすごす事になった。


『マスター、それでは畑は処分しておいて下さい。本来はこの場所に無いものですから』


 だが俺はあえてナビゲーターに聞いてみた。


「他にあの国からこの森に送られる人が居たなら役に立つと思うんだが?」


 俺の質問にナビゲーターの返事は


『あの転移の部屋はランダムにこの森の何処かに送ります。ですのでこの場所に送られるとは限らないので、残しておいても無意味です』


 だったよ。そうかランダムなのか。それじゃ畑も整地しておこう。それならばやっぱり公衆トイレやワンルームもまるごと持っていく事にしようと俺は考えを変更した。

 もしも他にもこの森に送られる人が居たならば役に立てるだろうと思い、残していくつもりだったけど、場所がこことは限らないならば残す必要が無いと思ったのだ。それをミコトさんにも伝えて了承を得たのでそうする事にした。


 そして、翌朝。俺は全ての準備を終えてナビゲーターの言うとおり、先ずは徒歩で少し森が開ける場所まで進む事にした。職は武士にしてある。


「オッさん、いよいよですね」


「ああ、ミコトさん。この辺りの魔物、魔獣には勝てるようにはなったけど、油断せずに慎重に進もう」


「はい、そうしましょう」


 俺もミコトさんも結界が効いてるうちにこの拠点を出る事にした。

 さらば、俺とミコトさんを強くなるまで守ってくれた拠点よ。いつの日かまた訪れるかも知れない、その時までお別れだ。


 そんな日はもう来ないと思いながら俺は物語の主人公気分でそう語りかけていた。  

   

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