第7話 ミコトは狂戦士だった
名前:オッサン
性別:男
年齢:五十才
体力:680
魔力:400
武器:無銘の大小【砥ぎ】(+80)
防具:羽織袴草鞋(+30)
攻撃:230(+80)
防御:110(+30)
俺の能力は跳ね上がっていた。武器を含めた攻撃の数値は300を超えている。(230+80=310)
ナビゲーターが言うことが正しければ、Bランクの魔物ならば一対一で負ける事は無いそうだ。
俺の横では怖い事を口ずさみながら包丁を砥ぐミコトさんが居る。
「ウフフフ、包丁砥ごうか、魔物狩って食おうか、包丁砥ごうか、魔獣狩って食おうか…… ウフフフ」
こっ、怖ぇー。美人さんなだけに物凄い恐怖をオッサンは覚えるんだが……
それも、柔らかく微笑みながら言ってるんだぜ、背筋が凍るというのはこの感覚なのかと分かった気がする。しかも、妖怪小豆洗いのセリフを替え歌にしてるよ……
オッサン世代だから分かるけど、何でミコトさんはその歌を知ってるんだ?
謎は深まるばかりだけど触らぬ神に祟りなしだな。俺はオッサンスキルであるスルーを使用していた。
「さあ、砥げましたよー。オッさん、コレで武器は準備万端です!」
そう、ミコトさんは俺を呼ぶ時の発音を変えてきたのだ。オッサンだとそのままオッサンって呼んでるみたいだから、オッさんって呼ばせて下さいねって昨夜になって言われたから俺は了承した。
どっちにしろ俺はオッサンなんだからどっちでもいいしね。
「よっ、よしっ! それじゃあ結界の外に出てみようか、ミコトさん」
「ハイッ! 先生、オークを希望しますっ!!」
いや、まあそう言われても居るかどうかは運次第だからね、ミコトさん。
「ま、まあ、頑張ってみるよ……」
一応そう返事をしておいた。
『それでは、マスター。先ずはマスターが適度に相手を弱らせて、ミコトさんがトドメをさせるようにして下さいね。オークが出やすいのはコチラ方面です』
そう言って俺の脳内に地図を出して矢印を表示するナビゲーター。果たして信じていいものか……
だが、他に情報がないから仕方なく俺はナビゲーターの指示する場所にミコトさんと共に向かった。
結界を出て気配察知を使用してみると、十五メートル先にオークらしき気配を感じる。でも二体居るようだ。どうしようかと思ったら向こうもコチラに気がついたらしく、藪を蹴倒しながらやって来てしまった。俺は刀を抜いて一体の胴を斬った。
もう一体がミコトさんの方に向かう! ヤバい!!
と俺が思った時にはオークの首から鮮血が
えっと…… 何がどうなってるんだ?
「ウフフフ、高級食材が自ら私の元に飛び込んで来るなんて、なんて素敵な環境なの……」
め、目が逝ってるよな…… ヤバいのはミコトさん自身だったようだ。そして、俺にダメ出しをしてきた。
「オッさん、胴を斬ったらキレイに血抜き出来ないじゃないですか! ちゃんと首を狙って斬らないと!」
「ハイッ、スミマセン! 次から気をつけます!」
思わず俺はそう返事をしていた。だって、目が逝ってるんだもん……
「さてと、それじゃ私の方にきたこの食材は結界内で吊してと…… オッさん、ボウッとしてないで、そっちも何とか血抜きをして下さい!」
「はい、ただいま取り掛かります!」
俺は胴を斬った事を後悔した。上半身と下半身に分かれているから、吊るす手間も二倍になったからだ。次はちゃんと首を狙おう。
血抜きを終えてミコトさんが言う。
「解体は拠点に戻ってからします。今は私のレベルアップを優先でいいですか?」
もちろん、それが目的だから俺は了承した。
「もしも一体だけなら私にヤらせて下さいね」
とまた目を逝かせて俺を見ながらそう言うミコトさんに頷く事しか出来なかった……
「居たーっ! A5ランク牛!! 私の牛刀の元に大人しく素材になりなさい!」
それから何故かオークには出会わず、今は目の前にオークよりも筋骨たくましく、鉄の
ナビゲーターが俺に語りかける。
『ミノタウロスはBランクの最下位ぐらいですが、今のミコトさんのレベルでは難しいと思いますよ、マスター?』
そんな事を言ってもミコトさんが私の獲物だから手を出さないで下さいって俺に釘を差したんだから、取り敢えず様子見するしか無いだろう?
『危なくなったら直ぐに行けるように準備はしておいて下さいよ、マスター』
言われなくても分かってるよ。
「ウフフフ、そんな危ない物を持って…… どうやら素直に私の食材になる気は無さそうね…… ならば料理研究家の凄ワザを見せて上げるわ! スキル、解体!!」
そう言ったかと思うとミノタウロスの目の前に瞬時に飛んだミコトさん。そして、ミノタウロスはその
「フフフ、料理研究家を舐めた罰よ。大人しく素材になるなら一息で逝けたのに、逆らうからこうなったのよ…… でも安心しなさい、私とオッさんとで美味しく頂いて上げるから、ちゃんと後で供養塚も作っておくわ」
俺は思わずナビゲーターに確認した。
「おい、スキル解体って戦闘用なのか?」
『馬鹿ですか、マスター。そんな訳は無いでしょ! ただ、ミコトさんが素材だと認識したものには活き造りならぬ、生きたまま解体を発動できるようですね。私もそんな能力は知りませんが、目の前の事実がソレを証明してます。解体してる時のミコトさんの目は
ナビゲーターすら少し恐怖を感じているようだ。ひょっとして俺も素材認識されたら解体されちゃうの? 何て怖い事を考えてしまった。
何事も無かったかのように解体したミノタウロスを素材収納に入れてるミコトさんに恐る恐る声をかけた。
「あのー、ミコトさん。レベルアップしましたよね?」
そう、俺にも見えるミコトさんのステータスはレベルが5になっていた。俺の問いかけにミコトさんが笑顔で振り返り、
「ハイッ、オッさん。レベルが5になりました。今日は帰ってオークも解体しなきゃいけないですから、レベルアップ作業はもういいですか?」
と自分からもう拠点に帰ろうと言い出した。オークの解体を理由にしているが、絶対に違う。ミノタウロスを早く料理して食べたいのだろう。ヨダレが溢れてるからね。しかし、俺は華麗にスルーして、返事をした。
「そ、そうだな。今日は初日にしては上出来だし、もう拠点に戻ろうか」
俺が賛同すると嬉しそうに笑いながらハイッと大きな声で返事をするミコトさん。解体してる時のミコトさんとのギャップが凄すぎて逆に萌えないなとか思いながらも、二人で拠点に戻っていった。
名前:ミコト・カツラギ
性別:女
年齢:二十四才
体力:140
魔力:130
武器:ドイツ製牛刀【魔砥ぎ】(+50)
防具:料理研究家エプロン(+12)
攻撃:93(+50)
防御:68(+12)
ミコトさんは強くなった…… スキルに変なのが生えてるようだが、オッサンスキルを使用してスルーしておく。
拠点に戻ったミコトさんはオーク二体を五分で解体して、そして夕食を作り始めた。
勿論、ミノタウロスだ。
「ウフフフ、こんないい肉質の牛は初めてだわ。最高級の和牛よりも上質だなんて…… コレはステーキね、そうね、今日はステーキだわ! ああ! でも調味料が香草だけになるわね。考えるのよ、ミコト! 料理研究家の名に恥じない味を出さなきゃダメよっ!!」
うん、分かった。ミコトさんは何かに集中すると周りが気にならなくなる人なんだって事が。自分の世界に入ってしまうんだな。
まあ、俺としては作ってくれる料理はどれも美味くてとても感謝してるからいいや。
おっと、そうだった。俺も自分の部屋を作っておこう。そうして、野宿に飽きた俺は職を
赤ワインと塩、胡椒を手にして料理を始めようとするミコトさんに声をかける。
「ミコトさん、コレで大丈夫かな?」
俺の声に俺が手にした物を見て、
「凄い! 何処から! もしやオッさんは神! 神様なんですかっ!?」
って叫ぶミコトさんに、目に入ってないようなのでさっき作った俺用のワンルームを見せて、着替えなんかも想像したら付属してくるから、調味料もちゃんと想像して作ったら付属してきた事を説明した。
「キャーッ、ソレってかなり凄い事ですよ、オッさん。まさに神の
興奮冷めやらぬミコトさんを何とか落ち着かせて、俺は料理を続けてもらった。
その日のステーキは五十年生きてきて、初めて心の底から世の中にこんな美味い物があるのかと感動した事を報告しておこうと思う。
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