第5話 スパルタなナビゲーター
朝目覚めると、寝違えてました……
くっ、首が左に曲がりません……
こんなんで出ても大丈夫かとは思ってるけど、ミコトさんの前ではそんな様子は微塵も見せずに乗り切る昭和のオッサンです。はい、強がりです。
「それじゃ、オッサン。気をつけて行ってきてくださいね。危なかったら直ぐに戻ってきてください」
ミコトさんの言葉に分かったと返事をしながらナビゲーターの案内で結界の外れまで歩く。
『さあ、マスター、準備は良いですか? 武士になってますね? では、行ってみましょう。先ずははぐれオークを探しましょう。大丈夫です、一対一ならば負けません』
その言葉に従って遂に結界の外に出た俺。で、目の前にイノシシ面した身長二メートル近い二足歩行の魔物が居たので叫んでしまった。
「ギャーッ!! 何じゃー、この野郎っ!!」
叫びながらも刀を抜いて斬りかかった俺って実は好戦的な性格なのか……
気づけば抜いた刀がオークの首をバッサリと落としていた。
『おおっ! まぐれとはいえやりましたね、マスター。居合とは恐れ入りました。スキルが生えたようですよ。レベルも上がってますね。さあ、このままアイテムボックスからザイルを取り出して木に吊して血抜きをしましょう。あ、頭は必要無いですけど、牙は取っておいてください。牙は素材として優秀ですので。さあ、急いで! ハリーアップ!!』
言うのは簡単だけどな…… しかし初めて
『武士の補正です』
答え短けぇな、オイ! けれども寝違えた首が痛くて思うように動けない俺がモタモタしていたら、気配察知に引っかかるものが。
『マスター、モタモタしていたからフォレストウルフの群れを追い出されたのがオークの血の匂いに誘われてやって来てしまいましたよ…… 全くこれぐらいならば処理するのに五秒もあればできないと…… 仕方ないですね、吊るすのは後回しにして、とりあえずフォレストウルフを何とかしましょう、来ますよ!』
って、ちょっと待てよ!! 俺は慌てて半ばまで持ち上げていたザイルを手放した。
神様はちゃんと見てくれていた。俺がザイルを手放した事により、凡そ二百キロを超えるオークの体が三メートルの高さからフォレストウルフに直撃したのだ。
「ギャウンッ!!」
ひと声鳴いて絶命するフォレストウルフ。
『フン、まさかの商人の運の良さがここで発揮されるとは…… 命拾いしましたね、マスター』
おい、ナビゲーターよ。何でそんなに残念そうに言うんだ? お前、俺を死なせたいのか?
『まさか、そんな筈はありません。ただ、最初から上手く行き過ぎると調子に乗っちゃうと思ってしまって…… 親心ですよ』
あのな、
『では、マスター。私からの提案です。幸いにしてここは結界から二メートルも離れて居りません。重たいですが、今のマスターならばオークもフォレストウルフも結界内に運べます。血抜き、素材採取などは安全な結界内で行う事をオススメします』
だーかーらー、遅えよっ! その情報! オークの時に言えよ!
『いえ、少しでも早くレベルアップして欲しいという親心です』
要らねえ…… その親心。俺はなるべく安全にレベルアップしたいんだよ。
そう返事をしながらも俺はオークとフォレストウルフを結界内に運んだ。そして、結界内の木にオークを吊して血抜き。フォレストウルフは
斬った刀はもちろん血振りをしてから懐にあった懐紙で拭って納刀してるよ。時代劇ドラマ大好きだったんだよね、オッサンは。
銭形平次、水戸黄門、桃太郎侍、大江戸捜査網、暴れん坊将軍、大岡越前、エトセトラ……
良く見たよなぁ…… 年を取ったら早朝とかにやってるから早めに起きて見たよなぁ。そんな事を考えていたら血抜きが終わったようだ。
何故か知識として解体があるが、ナビゲーターいわく、
『マスターよりもミコトさんの方が早くて正確で、キレイに出来るのは間違いありません!!』
と言うのでアイテムボックスに入れて持ち帰る事にした。その前に、ステータス確認。
名前:オッサン
性別:男
年齢:五十才
体力:530
魔力:310
武器:無銘の大小(+60)
防具:羽織袴草鞋(+30)
攻撃:180(+60)
防御:90(+30)
スキル居合はまあ、嬉しいな。けど、冷静沈着って嫌味か、嫌味なのかっ! 出て直ぐにお見合いしたオークに叫び声を上げた俺に対する嫌味だなっ!!
『ハア〜、マスター。コレで突然に出会っても驚かなくなるんですから、喜ぶべきところですよ』
ナビゲーターがそう
『まあ、それならそれでも良いですけどね。それよりも後一つレベルを上げればミコトさんを連れていけますよ。初日から運が良かったですね、マスター』
そうか、レベルが5になったらって言ってたよな。既にレベル4だし。コレはコレで良かったな。安心安全な状態でミコトさんを連れて来てあげたいからな。
その日、俺が持って帰ったオークを見て、嬉々として解体を始めたミコトさん。地球では仔牛ではなく、大人の牛をまるまる一頭、一人で解体した事もあるそうで…… その手際の良さに惚れ惚れとしてしまった。
フォレストウルフも勿論、キレイに解体されたけど、肉は食用にならないそうなので、ナビゲーターが言うとおりに、結界の外で魔物をおびき寄せる為に利用する事にした。なので今は俺のアイテムボックスに入っている。その他はミコトさんの素材収納に入れてもらった。
「凄いですね、オッサン! もうレベル4なんですね! コレなら私の牛刀が火を吹く日も近いですね!!」
先程解体に使用していた牛刀を構えてそう言うミコトさんはちょっと怖かった……
オッサンを震えさせるとは、やるな、ミコトさん!!
そして、翌日、レベルが4になったからとナビゲーターが無茶振りをしてきた。
『さあ、マスター! そこです! そこにフォレストウルフの肉を置きましょう! 私の狙い通りならヤツが来ますよ!』
ヤツって何だよ? 知らないから教えてくれよ。
『おや? 分かりませんか? ヤツですよ、そう、マスターのレベルが今日中に上がる為に、ヤツをおびき寄せないと! ををっ、そう言ってたらさっそくヤツがきましたよっ!!』
俺の気配察知にも反応が出てるけど、オークじゃないな…… 何だ?
はい、金棒持った青鬼さんが現れました……
ひょっとして、
『マスター、頑張って下さいね。運良くオーガジェネラルが釣れましたよ! コレならレベル2アップ間違い無しですっ!?』
いや、待て待てっ! コイツ本当にCランクか? 俺は見た目でそう思ったのでナビゲーターに確認してみたら、
『何を馬鹿な事を…… オーガジェネラルなら限りなくAランクに近いBランクじゃないですか。世界の常識ですよ?』
知らねぇよっ!!
クソッ、取り敢えず居合をかましてみるか!
キーンッ!! 甲高く響いた金属音で俺の居合が金棒で防がれた事を知った。
「やっぱり反応するのか、クソッ、いきなり格上過ぎるだろっ!?」
「グガガガガ、バハハァァー」
笑ってやがるのか? 舐めやがって……
オーガジェネラルとやらは金棒を片手で軽々と持ち上げて俺めがけて振り下ろしてきた。
こんなの受けたら刀が折れちまう。俺は飛び下がった。そして振り下ろされた金棒が地面に当たる一瞬前に飛び込んでオーガジェネラルの腕を斬る。
昨日、包丁を砥ぐついでだとミコトさんが砥いでくれた刀はスパッとオーガジェネラルの太い腕を斬り落とした。
が、その痛みでのたうち回るように振られた左腕が俺に当たる。
吹っ飛ばされて大木に激突する俺。
「グハッ! ゲホッ、ゲホッ!!」
背中を強打し肺の中の空気を全部吐き出し咳き込んでしまう。
「いっ、痛ぇーっ!!」
オーガジェネラルはまだ暴れ回っているが、その動きはデタラメだ。だから、スキだらけでもある。
俺は痛む体に鞭打ってオーガジェネラルに背後から迫り、その首をめがけて刀を振った。
ストンと落ちたオーガジェネラルの首が俺を見上げて、何でお前が俺の上に居るんだという風に首をかしげようとした瞬間に絶命した。
いや、直ぐに死ねよ。それにしてもヤバかった…… 死ぬかと思ったよ。
『さすがマスターですね。やはり私の見込んだ通りです。見事オーガジェネラルを倒すなんて! まだ無理かなー? って思ってたのは内緒ですよ!』
ナビゲーター!! お前がいつか俺の目の前に具現化する事を神に俺は祈るぞ!! そしてこの刀のサビにしてやる!!
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