言葉にしても無理がある

束白心吏

言葉にしても無理がある

 自分では物忘れが激しいと思ったことはないが、それを抜きにしても時折忘れることはあると思う。家の鍵をかけたか、暖房は止めたか等、大体は杞憂に終わるとはいえ、日常的な活動では低頻度ながらあることだと思う。


「電気がついてる? 消し忘れたか……?」


 だから今回もそんな感じだと思っていた。今回は俺の部屋の電気と廊下全体の電気がついていたのだが……消し忘れかと思ったが違うだろうと考え直す。朝でもそこそこ明るくなってきて、まず廊下は電気をつけないし、俺の部屋の電気なんて以ての外。朝は使わないから消してあるはずだ。ついていたとしても常夜灯……寝るときにつけてたオレンジ色の微かな色の筈。

 するともしや――消さんと二階の自室に向かっていた足は途端に止まる。

 ……もしやこれは、空き巣か?

 俺は玄関に戻る。靴は……うん。俺の履いてた学校指定のローファーと、それより一回り小さいローファーがある。

 別に普通――じゃないな。不審者入ってるわ。

 ちなみにリビングや縁側も見てみたが、三角割りの形跡や窓が開いてる形跡はなかった。まず鍵かかってたし。まあ侵入後にかけられてたらまた話は変わってくるけど。

 一応、重要なものが入ってるところも確認する。なんかそうしてる俺のが空き巣っぽい気がせんでもないけどそれは気にしないことにした。こちらとら住民じゃい。なお盗られてはいない模様。まあ荒らされた形跡ないし、誰か想像は出来たからないだろうとはわかるけど。

 気を取り直して、俺は二階にある自室に向かう。階段が少し古いため、俺が進むたびに軋む。近づいて行ってるのはわかっているだろう。なんかを慌てて落としたような音が響いた。


「えーっと、何やってるんですかね……津木華つきはなさん」

「!? え、えーっとですね……お帰りなさい! 知流ともるさん!」

「たぶん勢いで押し通そうとしてるんだろうけどアウトだぞ?」


 ちなみに部屋の真ん中で突っ立ってました。俺の恋人何やってるの?

 まあ色々気になるところはあるけど、立ち話というのも面倒なので、俺はベッド、咲姫は俺が使ってるデスクチェアに座らせる。ベッドに座りたそうにしてたけど、何か色々危険そうなので阻止した。


「で、随分と早いお帰りだったようだけど……何してんの?」

「知流さんの帰りを待ってました?」

「何故に疑問形?」


 というか俺が一緒に帰ろうと誘う前に帰ってましたよねあなた。

 あまりにも無理のある言い訳から更に浮かぶ疑問を解消しようと口を開きかけたとき、ゴトリ、と何かが音を立てて落ちる。あれは……コンセント? このタイミングで出てきて、かつ我が家の物じゃないのが更に怪しい。


「……それは?」

「これはと――じゃなくてコンセントですね」

「おい待て何と言い間違えかけた!?」


 『と』って何『と』って!? というか更に挙動不審になってるし!

 俺は回収される前にコンセントを拾う。「あ」と咲姫の口から声が漏れたが……うん。普通のコンセントじゃね?

 そう思っていた俺だが、ふといつかテレビで見た映像が脳裏を過る。バラエティーだかニュースだかは覚えてないが、コンセント型のがあった――


「――盗聴器?」

「!? と、知流君は何を言ってるんですか!?」


 それはもはや言い逃れも出来ない反応ではなかろうか。頭の文字『と』だし。

 確信とは言い難いが、真実に近い部分に迫っているのは確か。心なしか冷や汗の見える咲姫に対して、俺は口を開く。


「言い訳があるなら、聞くぞ?」

「すいませんでした」


 その日、俺は感嘆してしまうくらい美しい土下座を見た。

 なおマジで盗聴器を仕掛けようとしてた模様。

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言葉にしても無理がある 束白心吏 @ShiYu050766

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