18話 オカバ様がもたらしたもの
梓葉達が訪ねてくる事はわかっていた。
だから、旅館に戻って、夕食の時間まで各自、館内を散策するなり部屋でくつろぐなり、好きなように過ごしていいと言われた後も、利玖は外出着のまま、部屋を出ずに待っていた。
とはいえ、具体的な訪問時間を知らされていない状況で漫然と時が過ぎるのを待つのも退屈なので、急須をゆすぎ、茶葉を取り替え、沸き立ての湯をたっぷりと注いで、それとは別に三つの湯呑みにそれぞれ白湯を注いで器を温めていると、ちょうど部屋の扉がノックされた。
ドアスコープを覗くと、予想通り、梓葉と鶴真が立っている。梓葉の方はさっきと同じ服装だが、鶴真は旅館関係者である事がわからないようにする為か、黒のキャップと市販のジャケットを身に着けていた。
利玖はロックとチェーンを外して扉を開ける。
「こんばんは」
「お疲れの所、ごめんなさい」梓葉は深く頭を下げた。「利玖さんに、折り入ってお話ししたい事があります」
「はい。お待ちしておりました」利玖は扉を引き、二人を和室の方へ招いた。「どうぞ奥へ。ちょうどお茶が入った所です」
利玖は、くるりと踵を返すと和室に戻って、手際よく三つの湯呑みに茶を注いだ。茶櫃の蓋を開けると、つやのある木製の茶托が見つかったので、それに乗せて梓葉と鶴真の前に置く。ついでに干菓子の一つや二つ入っていないかと底の方を探ってみたが、見つからなかった。お茶請けに使えそうな物は、部屋に入った時、最初に机に置かれていた酒饅頭が一つだけ。
利玖はビニルの包装をぺりぺりと剥いで、かぶりついた。超自然的な体験をして疲れ切った体に餡子の甘さがじんわりと染み渡る。
「……思うに」
酒饅頭を食べ終えると、利玖は切り出した。
「あの樹は、オカバ様への信仰に深く関わっている。オカバ様が樺鉢温泉にもたらした命を養う果実というのは、あの樹に実る物ではないのですか?」
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