17話 二人の思い

 見た目の印象だけでいえば、それは照葉樹によく似ていた。

 クスノキ、ブナ、ケヤキ。そういった樹々の名前を利玖は瞬時に連想する。しかし、そのいずれとも大きさが桁違いだった。

 枝葉の部分だけで本館の三階分の高さはある。幹も、それを支えるのに充分な太さがあり、剥き出しになった地層の表面のように白っぽく乾いている。

 あれほどの巨樹が根を張るには本館の中身を丸ごと土に入れ替えても到底足りないだろう。利玖が見ている世界の物理法則にらない存在である事は疑いようがなかった。

 夜の湿っぽさがまじり始めた風が、辺りの木々を低くさざめかせている。しかし、巨樹にはその風も届いていないようだ。超然と天に向かって伸びる枝葉の末端はまったく揺れていない。ただ、あまりに地上から離れた所にある為か、見えない水に浸かっているかのように、色が薄くにじんでいる。

 精気を溜め込んで、はちきれそうに膨らんだ緑の中に、ぽつ、ぽつっと泉のように白い花が咲いている。それらの間を、まるで花粉を集めるミツバチのように飛び交うモノがいたが、それらは利玖が見た事もない造形の翅と脚を持っていた。

 清史も充も、その方角を見ているはずなのに驚く様子ひとつ見せない。

 二人とも、見えていないのか……。

 訳も分からず、ただ人智を超越した美しさをたたえた巨樹に見入っていた利玖は、ふいに背後から刺すような視線を感じて、ぎくっと振り向いた。

 懐中電灯の光の後ろ。逆光と木暮こぐれに塗り込められて、そこに佇む者の表情が判然としない位置に、黙ったままこちらを見つめている梓葉と鶴真の姿があった。

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