8話 作家・波來満の次回作

 四〇九号室は手前半分がフローリング、残りが畳敷きの和洋室である。フローリング部分にベッドが置かれているが、セミダブルの物が二つも並んでいるので、それで床面積の約七割が埋まってしまっている。その為、冷蔵庫やクローゼット、テレビ、金庫といった設備は和室の方に固まっていた。

 和室は部屋の奥の一段高くなった所に造られていて、障子をしつらえた窓に接している。広縁がない代わりに、机の前に座ったまま外を眺められるようになっていた。

 上等の茶葉が入っているであろうちゃびつからつとめて目をそらしながら、利玖は畳の端に置かれていたボストンバッグを持ち上げ、写真に映り込まないように部屋の隅に移動させた。


 今回作成した滞在記は〈湯元もちづき〉のホームページ上で公開される。雑誌に載せるよりもレイアウトの融通が効くので、本文の内容に合った画像を挿し込めるように、なるべくたくさん館内の写真を撮っておこうと三人の間で決めてあった。梓葉を通して、支配人の鶴真から直々に撮影許可ももらっている。

 それに、写真の使い道は他にもある。

 廣岡充、ひいては作家・波來満の次回作の資料として採用される可能性があるのだ。

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