第4話 新たにやりたいこと

 あれから1年ほどしてから、僕はなんでここに居るのだろうか?


「貴方がしたことは、どういう事か判っていますね?」


 僕のウチは、明るい白い壁紙の部屋だったはず。なのにここはなんだ。

 灰色の薄汚れた小さな部屋。古びた椅子に座らされ、鉄の机の前には刑事がいる。


「誘拐、監禁、暴行。彼女の意識が戻ったら、まだ貴方の容疑は増えるでしょうが――」

「ユキエは……ユキエは大丈夫なんですか!?」

「命には別状ないそうです。ですが、かなり衰弱していました」

「そんな、莫迦なことを……。

 僕はユキエと一緒に食事もしていたし、何不自由なく生活していたんですよ? 

 それが突然倒れて、慌てて救急車を呼んだら――」

「ユキエ? ユキエとは誰ですか?」

「僕のカノジョに決まっているじゃないですか! ユキエに合わせてください」

「貴方ねぇ……保護された女性は、ユキエさんではありません」

「莫迦なことを言わないでください!」

「運ばれた女性は、1年ほど前に捜索願いが出されて――」

「捜索願い? 僕とユキエは結婚のために、1年前に同棲を――」

「――大丈夫ですか?」

「大丈夫? 何を?」

「貴方が、女性のために救急車を呼んだのは確かです。しかし、それは貴方が監禁していた女性はないですか!」


 刑事は何を言っているんだ?


 僕は……ユキエと結婚のために、1年前に同棲をはじめたんだ……よなぁ。

 あれ? ホントにそうだったか――。


 ……

 …………

 ………………


 僕はあの日、ユキエの部屋による忍び込んだ。

 カノジョを僕のウチに連れ出した。顔に袋を被せた、暴れないよう驚かせるに……いや、誘拐したんだ。

 賭けであったが首を絞めて気を失わせた。下手をしたらカノジョが死んでしまう。首を絞めたのは薬では、入手先から購入者を割り出されてしまうのを恐れたからだ。

 ウチにはカノジョの為に部屋を用意していた。ベッドも新調しており、そこに寝かせた。だが、カノジョを見ていると、心が揺れた。僕も男である。

 初めて自分の家に女性を上がらせたのだ。

 愛しのカノジョを――


 僕は好奇心のあまりに、ユキエの寝間着もすべて剥がした。

 初めて見る女性の裸の肢体に興奮は収まらなかった。それに、カノジョの同意無しでこんなことをしてしまったのだ。


 絶対に嫌われる。


 どうすべきか考えると、思い出したことがあった。

 犬を飼うかどうか考えたが、あのときはピンとこなかった。しかし、ベットショップを手ぶらで帰る気がしなかったので、首輪や紐を買ってあった。

 ペットを愛玩動物という。


 何故、? ニンゲンはどうなんだろう。


 好奇心に駆られ、僕はユキエに首輪を付けてしまった。

 後は……好奇心と欲望のままに、カノジョの身体を貪ってしまった。


 僕はどうして、こんなことをしてしまったのだろうか!


 ひたすらカノジョに謝罪した。

 ユキエは何も言わなかった。

 しばらくは――


 僕はユキエを丁重に扱い、めいで大切に可愛がった。

 プロポーズの前までの関係にやり直そうと……判らなかった。

 しかし、ユキエは何も言わず感情を殺したようだった。


 それが変わったのは……そうだ。僕がリビングに置いてあった婚約指輪を、カノジョに見せたときだ。

 大人しかったユキエが暴れ出した。手が付けられないほどに……だから、拘束を強めた。

 それに、それに……僕の心が興奮した。


 初めてユキエと結ばれたのはその日だ。


 その時、僕は思った。

 僕との子供が出来たら、大人しくなるかもしれない。

 ユキエと『家庭』が作れるかもしれない。

 

 そう何度も、何度も、何度も――


 今までにまして、めいで慰めた。

 家に閉じ込めたままでは、精神に悪いだろうと、外に連れ出したこともあった。


 でも、なかなかできなかった。


 ………………

 …………

 ……


「刑事さん、ひとついいですか?」

「何か?」

「お腹が空きました。カツ丼が食べてみたいです。もちろん、僕が払いますよ」



〈了〉

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【KAC20237】歪んだ愛の結末 大月クマ @smurakam1978

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