第2話 転がってきたチャンス

 その後のことはよく覚えていない。

 目の前のカラになった椅子をずっと見続けながら、飲めないワインをあおっていた。閉店まで――。

 家に帰れたのは、店の人が代行運転を呼んでくれたからだ。

 カノジョが断るとは思っていなかった。


「お人好しだから、彼女は断らない」


 他人のカノジョへの評価を、僕が信じてしまったのがいけなかった。

 だからといって、翌日、仕事場で顔を合わせられない。

 

 初めて、仕事を休んだ。

 飲み慣れないアルコールの所為で頭痛がする。振られたショックなこともある。

 同僚とかは、僕がカノジョを好きで連れ回して付き合っていることを、気付いているようだ。


「振られたんだ……」


 と、後ろ指を指されるのは気に食わないが、背広スーツに袖を通せなかった。


 それが2日、3日と続けば、仕事先からは心配の声が聞こえてきたが、


「体調が優れない」


 そう返した。ズル休みをしたのも、生まれて初めてだ。

 気が付けは、平日の昼間、閑散とした公園のベンチに座っていた。小さなアパートの部屋にいる気がしなかったからだ。


 日の光でも浴びれば、少しは気分が優れるかな?


 そう思ってみたが……あまり変わらず、ベンチでふてくされている。

 ふと顔を上げると、住宅街の屋根が見えた。その並びの中に、何か銀色に光るものが見える。


「あっ……」


 それがなんなのか想像がついた。

 気が付けば、ベンチから立ち上がり、ふらふらとそちらの方へ向かっていた。


 ※※※


「やっぱり……」


 そこは住宅街のとある一件。ここだけ妙に高いと思ったら、他とは別で建物は3階まであるし、さらに上に銀色のドームが付いていた。


 天体観測をするドームだ。


 家主の趣味なのかもしれない。少し古びた家を見ると、ずいぶん前からここに建っている。

 そういえば、このあたりが宅地開発されたのは数年前だ。

 この家ができた頃は、田畑が広がり、家もまばらであったであろう。

 そうなると、こうがいもなく夜空が見られたのかもしれない。


 こんな家に住みたいなぁ……。


 ふと入り口の門には、不動産屋の看板が出ていた。

 お金があれば……だが、今の僕には夢にすぎない。

 カノジョに気に入ってもらおうと、張り切りすぎたこともある。貯金もあまりない。奮発して買った婚約指輪の返品は叶わなかった。


 やりたいことリスト『温かい家庭を作りたい』は、叶わない夢だ。

 僕はとぼとぼと、その場を後にした。

 サボって仕事にもいかないでいたら、収入もなくなるだろう。


 帰り道、商店街を通る。

 大安吉日、一粒万倍日などのぼりが目に入った。


「宝くじなんてどうせ当たらない……」


 売り場の前を通り過ぎるのが、やたらに長く感じた。

 気が付けば、財布の中を覗いていた。丁度、千円札が3枚。


 夢を見るのもこれっきり。


 なけなしの金で、一番高い当選金のを買った。

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