【KAC20237】歪んだ愛の結末

大月クマ

第1話 やりたいことリスト

 僕のやりたいこと。

 大人になったら、天文学者になりたかった。

 子供の頃、親に連れられたキャンプで、夜空の美しさに心を奪われた。

 その後、駄々をこねて誕生日に天体望遠鏡を買ってもらった。

 貯めたお小遣いで天体の本を買うと、片手に夜空を見上げた。

 高校に行って天文部に入り、大学にはそちらの方向へと……落ちた。


 それがつまずきだったかな?


 滑り止めの三流大学に入ると、なんとか卒業して、なんとか就職した。

 市の図書館だったが、公務員には変わりない。

 昨今の不況を考えたら、安定した職業に就けたのはよかったのかもしれない。

 カノジョを初めて見たのは、それから数年後の事だ。


 が欲しい。

 結婚をしたい。

 子供を作りたい。

 温かい家庭を作りたい。


 僕のやりたいことには、それが並んでいたが、最初の『彼女が欲しい』が……この歳まで、女性に声をかけるのが苦手だったものだから、叶えられなかった。


 そこにカノジョが現れて、一目惚れした。しかし、奥手だった僕は、仕事の事以外で声をかけることは出来なかった。

 カノジョは小柄でいつも口元は微笑んでいたが、目は何か寂しそうだった。

 それもそうだ。

 観察していれば、大人しい事をいいことに、軽いイジメを受けていた。先輩、同僚、さらには後輩からも――。


「お人好しだから、彼女は断らない」


 そういって他人の仕事を押し付けたり、マルチ商法曲がりのものを買わされたり、昼食を無理矢理奢らせたり――。

 でも、僕は何よりカノジョを見るのが好きだった。

 そう、仕草が好きだった。


 好感というものか――。


 お人好しで何でも断らないカノジョに、僕は少し魔が差してしまった。

 僕のやりたいこと『彼女が欲しい』が埋まるかもしれない。

 そう思い、やっとの思いで、休日に食事に誘ってみた。と、どうだろうか。少し考えていたがOKしてくれた。


 カノジョの前では平然と振る舞っていたが、天にもぼる気持ちというものはこういうことか!

 誰もいなければ、鼻歌を歌い、スキップして感情を爆発させていただろう。


 それから休日になると、カノジョを誘って出かけてみた。

 最初の彼女。だから、どこに女性を連れて行っていいのか、分からなかった。

 僕の行きたい場所。博物館や科学館、プラネタリウム。少々子供ぽかったのか、ふと気が付くと、カノジョが僕が気が付かないようにつまらなそうな顔をしていた。


 僕は気付かないふりをする。

 カノジョの方も、僕の視線にすぐに気が付いて微笑んでいた。


 大人の女性が喜ぶところに――


 必死に調べて、女性が喜びそうな場所へ誘うことにした。

 断ることもなく、カノジョは来てくれる。

 頑張って話を盛り上げて、ご飯をご馳走していた。

 僕はとても楽しかった。カノジョは楽しんでくれていると思った。


 これは、やりたいこと『結婚をしたい』が埋まるかもしれない。


 正式にカノジョに「付き合ってくれ」とか言っていない。しかし、僕に好感が無ければ、いくら何でも来てくれるはずがない。


 こんな付き合いを数ヶ月、続いたのだ。


 僕は意を決して、指輪を購入した。もちろん、婚約指輪だ。

 予約が中々取れないという高級レストランを、なんとか押さえられた。

 くたびれた中古車愛車をピカピカにして、カノジョを迎えに行った。


 テーブルに座ると、しばらく微笑んでいた。

 食事が運ばれるにつれて、カノジョの顔が少し硬くなっていった気がする。


 そして、デザートが終わったときだった。

 ポケットに手を入れて、ケースを出したときだった。


「――ゴメンナサイ」

「えッ、何?」

「ずっと言い出せなかった。ホントは貴方のことが嫌いだったんです。

 もう誘わないでください――」

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