第六十五話

 〝①〟の入力機が立つ更地が見えた。

【11:28】

【11:27】

【11:26】

本来なら十数分程度で着く距離に、相当な時間を要してしまう躰になっている。」

 

 草を搔き分けていき、入力機が現れた。

それの前に腰を落とし、そのまま倒れ込んだ。

息が苦しい。


 世界遺産……。世界遺産……。

出てこい……。出てこい……。

何か出てこい……。何か出てこい……。

 

 残り一分の音が鳴り出した。

何とか上体を起こし、入力機に重心を預けながら、何とか立ち上がる。


 出てこい……。出てこい……。 

世界遺産……。

世界遺産……。

世界遺産……。

【00:26】

【00:25】

【00:24】


 フィレンツェ歴史地区。

架乃子の本の書いてあった文字をふと思い出し、それ入力すると、【○】と表示された。

思わず、息を吐く。


 あと、一つ。

遂に、あと一つ。


 あと一つで、クリア正解数である、五十に達する。


 あと一つで、最終関門が終わる。


 あと一つで、廣哉を《天国》に連れて行ける。


 息を吐く。

世界遺産……。

世界遺産……。

世界遺産……。

あと一つ……。

あと一つ……。

あと一つ……。


 頭がくらっとなり、気付くと、尻餅を着いてブロック塀に凭れていた。

更に重くなっていた足を何とか動かし、何とか立ち上がる。

 

 何度もよろめいてしまう。


 何度も躓いてしまう。

 

 何度も崩れ落ちてしまう。


 ブロック塀や建物の外壁を伝う様にして歩く。

躰はもうとっくに限界を超えている。

本能しか残されていない。


 絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。

あと一つ……。

あと一つ……。

あと一つ……。

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