第六十四話
残り一分の音で目が覚めた。
空は薄暗くなっていた。
丘を這い上がり、入力機を伝う様にして立ち上がる。
そして、アブ・シンベル神殿の名前を入力した。
これで、四十七個目。
あと、三つ。
【⑬ 11:31:29】の表記が赤くなった。
あと、三つ。
あと三つ、答えを入力すると、最終関門はクリアとなる。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
躰がふらつき、ブロック塀に寄り掛かる。
顔を上げると、其々の街灯からアスファルトに向かってオレンジ色の斜線が広がっていた。民家の並びも其々が輪郭を失った。
目を擦ると、視界は戻っていく。
足の力がアスファルトに吸い込まれた様に、すとんと、尻餅を着いた。
力が入らない。
躰がそのまま宙を舞っている様な、不思議な感覚を覚える。
過度な疲労がそうさせているらしい。
暫くしてそれが戻り、何とか立ち上がった。
次の入力機に向かわなくては……。
がくんと、全身の力が抜けた。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
標識の傍に立つ〝⑳〟の入力機が見えた時、膝から崩れ落ちた。街灯が、歪んだ気がした。
足は、殆どの感覚を失っている。
世界遺産……。
記憶を探る。
残り一分の音が鳴り出した。
世界遺産……。
世界遺産……。
世界遺産……。
全く思い出せない……。
他には何があっただろう……。
世界遺産……。
世界遺産……。
世界遺産……。
【00:29】
【00:28】
【00:27】
世界遺産……。
世界遺産……。
世界遺産……。
ローマ帝国の国境線が世界遺産に登録されていたのを思い出し、それを入力した。
これで、四十八個目。
あと、二つ。
【⑭ 12:20:51】の表記が赤くなった。
その画面はぼやけ出した。
目を擦り、視界が戻るが、すぐにまたぼやける。
ブロック塀に寄り掛かりながら、アスファルトに向かって息を吐く。
頭が重い。
瞼が重い。
躰が重い。
足の力が抜け、膝から崩れ落ちた。
何とか、立ち上がる。
次の入力機に、向かわなくては……。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
ブロック塀を押さえながら、疲労と痛みに覆われた足を、何とか動かす。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。
しゃがみ込み、街灯に向かって、息を吐く。
絶対に、クリアしてやる。
絶対に、クリアしてやる。
絶対に、クリアしてやる。
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