第三十話

 19マス目の公園の公園に着くと、機械は〝ピーッ〟と鳴った。

【15分休み】の文字。


 残り一時間を切ったこのタイミングでのこんな指令に、苛立ちを覚える。

どうせ時間の経過を待つしかない。休憩していよう。


 いつの間にか空は薄暗くなっている。

かなり疲労が蓄積されている。

絶対に、廣哉を《天国》に連れて行く。


 デジタル表記を睨む。

【00:03】

【00:02】

【00:01】

機械が〝ピューン〟と鳴り、【CLEAR】と表示された。

そして、ルーレットが始まった。


 回転の速度が弱まっていく。

【1】で停まれ……。

【1】で停まれ……。

【1】で停まれ……。

回転の速度が弱まっていく。

ルーレットは、【3】で停まった。

 

 再び18マス目の公園に着くと、機械は〝ピーッ〟と鳴った。

【5人以上の人物を同意の上で現在地に集める】の文字。

画面下には【0/5】と表示された。

 

 「はぁ? 何で?」

公園に行かせる口実を考えていなかった事に、男の反応で気付いた。

「えっと……、これから歌手がライブやるらしいから」

「興味ねぇよ」

「すごい歌手らしいんだよっ!」

「いや、いい」

「頼むから行ってみてくれよっ!」

「だから行かねぇって」

男は舌打ちして去って行った。

【00:43:52】

【00:43:51】

【00:43:50】

時間がない……。

 

 「ちょっと、いいかな」

少年は足を止めた。

「これからあそこの公園でピエロが来るらしいから行ってみろよ」

「えっ、ピエロ? 見たい見たいっ! 行く行くぅー!」

いい反応だ。いい作戦だったらしい。

「あっ、ちょっと待って」

「ん?」と、公園に向かって歩き始めた少年は振り向いた。

「ピエロがなかなか来なくても待ってろよ。いいか、絶対に公園には出るなよっ!」

「うんっ!」と返事をした少年は公園に急いだ。

友達でも誘うように云った方が良かったかと過ったが、余計に時間が掛かるかもしれない上、人数にカウントされないかもしれないと、思い直した。

それから少しして【0/5】の表記が【1/5】に変わった。

 

 二人の少年が並んで自転車を漕いでいる。

「ちょっといいかな」

赤いキャップを被った少年とソフトモヒカンの少年は自転車を停めた。ボーダー柄のTシャツにジーンズという恰好に加え、小太りな体型まで同じだ。

「あそこの公園にピエロが来るから行ってみろよ」

「えっ、ピエロ? マジで?」

実績のあるピエロ作戦を実行すると、ソフトモヒカンが目を丸くした。

「えっ、何お前、ピエロ見たいのかよ」


 赤キャップは鼻をほじりながら冷ややかに云った。

「だって、ピエロだぜ、ピエロ」

「あんなのただ変なメイクした奴が変な動きするだけだろ」

「いや、ちげぇよ。ボールの上歩いたり、ジャグリングしたりすんだよっ!」

「興味ねぇよ」

「絶対面白いってっ! 行こうぜぇ!」


 頑張れ、ソフトモヒカン。

「行かねぇよ」

「何でだよ」

「あんなのガキが見るもんじゃねぇか」

「じゃあ、君だけでも――」

「てか、早くゲーセン行こうぜ」

赤キャップは俺の言葉を遮って自転車を漕ぎ始めた。

「解ったよ……」

友人と別れてまで見たいという程の熱量はなく、架空のピエロがゲーセンに負けたのか、或いはガキ呼ばわりされて萎えたのか、ソフトモヒカンは後を追う。

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