第十一話

  十数分歩くとあった小さな公園に入る。

滑り台。

ブランコ。

シーソー。


 遊具を一通り調べた結果、此処にはないと引き返そうとした時、二つのベンチが目に留まった。

スイッチは、あるだろうか。


 裏側を覗き込んでみると、片方のそれに、スイッチが貼り付いていた。

果たしてこれは、本物か、フェイクか。

カードをスキャンし、押した。

〝ピキューン〟と鳴った。


 辺りを見渡しながら歩く。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。


 煉瓦道に花壇が並んでいる。

此処にスイッチはあるだろうか。

其々を掻き分けながら見ていく。

だが、花壇の列は途絶えた。

此処には、ないらしい。


 怪しい場所が目に留まる度に調べていく。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。


 街路樹の上にスイッチが乗っかっているのが、ふと、視界に入った。

足を掛けて手を伸ばし、スイッチを取る。

頼む。頼む。

〝ブブブーッブブブーッブブブーッ〟と鳴った。

畜生……。ハズレか……。


 スイッチは、何処だ……。 

道路沿いの茂み。

花壇。

建物の隙間。

スイッチはない。

第二関門は、残り二時間を切ったらしい。


 石段を下り、川沿いをなぞる様に歩く。

あちこちに生えた草に注意していくと、それの上にスイッチが置いてあるのを見付けた。

手に取ってカードをスキャンし、押した。

〝ピキューン〟と鳴った。

よし、あと三つだ。


 デジタル表記は滞りなく進んでいく。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。


 急ぎながら、目に留まった至る箇所を調べていく。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。


 広めの公園があった。

此処にあるだろうか。

まず、滑り台を調べるが、ないらしい。

上に置かれてもいないし、裏に貼り付けられてもいない。

ふもとに土管が埋められた丘がある。

いかにもありそうだ。

土管の中を見ると、やはり、スイッチはあった。

手を伸ばして取ったそれに、カードをスキャンし、押す。

〝ピキューン〟と鳴った。

あと、二つだ。

【00:57:28】

【00:57:27】

【00:57:26】

制限時間は、残り一時間を切っている。

急がなければ……。


 走りながら、街路樹の上や建物の隙間を確認していく。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

【00:46:36】

【00:46:35】

【00:46:34】

デジタル表記は滞りなく進んでいく。

急がなければ……。

急がなければ……。

急がなければ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。


 辺りを見渡しながら、住宅地を走る。

アパートのベランダの下。

室外機の裏。

屋根の上。

【00:38:19】

【00:38:18】

【00:38:17】

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。


 廃れた三階建てビルの螺旋階段を何気なく見上げると、最上階の踊り場の裏に、スイッチが張り付いているのが視界に入った。

急いで階段を上る。

やはり、見間違いではないらしい。

階段の隙間に入れた手を伸ばし、カードをスキャンする。

そして、押した。

〝ピキューン〟と鳴った。

良かった……。

スイッチは、あと一つ。

【00:23:47】

【00:22:46】

【00:22:45】

急がなければ……。


 走りながら、怪しい場所を素早く調べていく。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

あと一つ……。

あと一つ……。

あと一つ……。


 スイッチを探す動きは、荒く、本能的なそれになっていた。

あと一つ。スイッチは、あと一つ。

あと一つで、クリア出来る。

【00:16:53】

【00:16:52】

【00:16:51】

急がなければ……。

急がなければ……。

急がなければ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。


 削られていく残り時間に比例して焦燥が肥大化していく。

何処だ……。

何処だ……。

何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

スイッチは何処だ……。

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