第十話

 花壇。


 建物の隙間。


 更地の茂み。


 怪しい場所を調べていく。


 四方八方に目をやりながら歩いていると、突然、肩に重い衝撃が加わった。

通行人と肩がぶつかったらしい。


 紺色のワイシャツと白いジーンズ姿の、金髪のソフトモヒカンの男。


 「どう落とし前付けんだぁ、こらぁ!」

俺は胸ぐらを掴まれた。こんな時に限って面倒なのに捕まってしまった。

「悪いけど、今時間ないんだよ」


 色黒なゴツい手を振り解こうとした時、顔面を殴られた。

「ナメてんのかぁ、こらぁ! 慰謝料出せ慰謝料っ!」

こんな奴の相手をしている場合ではない。

「だから、時間がないんだよ!」


 この場を去ろうとすると、横腹を蹴られ、倒れる。

「金出せっつってんだろうがっ!」

革靴を履いた足が何度も躰に振り落とされる。

「んぐゎっ!」

腹を何度も蹴られる。

「やめ、ろ……」

時間がない。こんな奴の相手をしている場合ではない。腑に落ちないが、金を渡すしかないらしい。


 渋々ポケットから出した五万円余りの金カードを放り投げる。

「大人しく出しゃあいいんだよ」

ソフトモヒカンが足許のそれを拾う。俺は立ち上がる。すると、ポケットから二枚の二十万円カードと、スキャン用のカードが落ち、再び俺は腹を蹴られ、倒れる。


 「おぉーおぉーおぉー、結構持ってんじゃねぇかぁ。あん? 何だ、これ。まぁいいや、貰っとっか」

マズい……!

「やっ、やめろぉっ!! それだけはっ!! 金は全部やるからっ!!」

立ち上がった俺はソフトモヒカンの腕を掴みながら、何度も腹を蹴られる。

「離せ、おらぁ!」


 崩れ落ちた俺は、背を向けたソフトモヒカンの足にしがみつく。

「返せっ……」

スキャン用のカードだけは……。


 「しつけぇなぁ!」

片方の足が何度も振り落とされる。

その時、ソフトモヒカンの背後に、〝境国取締署〟と書かれた、パトカーの様な車が停まった。


 それから、運転席と助手席から、警察官の様な恰好の、スキンヘッドの男と長髪の男が、其々出て来た。

「何やってんだぁ!」

ソフトモヒカンは舌打ちしながら金カードとスキャン用のカードを放り投げ、逃げるが、すぐに捕まり、暴れながらも車に入れられた。

それから長髪が、事情聴取をしに俺の方へ来たが、時間がないと云って逃げた。


 ったく。タイムロスだ。

立ち上がろうと花壇に置いた手に、固く冷たい感触を覚えた。


 スイッチがあった。

カードをスキャンし、押すと、〝ピキューン〟と鳴った。

これで四つ目。

第二関門が始まって、間もなく二時間半になるらしい。

ペースを上げていかなくては……。


 辺りを見渡しながら歩く。

スイッチは、何処だ……。

スイッチは、何処だ……。

スイッチは、何処だ……。


 怪しい場所を調べていく。

スイッチは何処だ……。

スイッチは、何処だ……。

スイッチは、何処だ……。


 スイッチは何処だ……。

街路樹。

花壇。

茂み。

スイッチが見付からない。


 河川敷をまたぐ鉄橋の柵の上に、スイッチが乗っかっていた。

カードをスキャンし、押した。

すると、〝ブブブーッブブブーッブブブーッ〟という、今までとは違う、太く鈍い音が鳴った。

機械の画面を見ると、押したスイッチの数は【04/10】のままだった。

これが、〝フェイク〟のスイッチか……。


 スイッチは何処だ……。

五時間という時間が、いつの間にか短いと感じる様になっていた。


 広い更地が目に留まり、それを囲う有刺鉄線をくぐる。

一面に生えた一メートル程の草を掻き分けて行く。

迅速に、且つ入念に。


 すると、中心辺りで、スイッチが現れた。

それを手に取り、カードをスキャンした。

頼む。頼む。

押すと、〝ピキューン〟と鳴った。

よし、当たりだ。

これで、五つ目。これで、半分。

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