第九話

 「頑張れよ、逞真」

「ああ。お前がクリアしたんだから俺だってクリアしてやる」

グータッチを交わす。


 エレベーターのドアは、閉まった。

第二関門が、始まる。

エレベーターの中で、思わず、大きく息を吐く。


 「これから月本様に行って戴く、第二関門の内容は――」

第一関門の時と同じ公園でクロシマが口を開くと、緊張は最高潮に達した。


 「宝探しです」

「宝探し……?」


 「この試験では、俯瞰ふかん力、根気、運が求められます。では、ルールを説明致します」

クロシマはスーツの内側から、赤いスイッチと溝が付いた箱形の機械を取り出した。


 「この場所から半径〇・五キロメートル範囲内の至る箇所に、此方と同じ装置が隠されています。見付けた場合は、此方のカードをスキャンして戴きます」

今度は銀色のカードを取り出した。


 「そうすると装置のロックが解除されるので、スイッチを押して戴きます」

クロシマは何も表示されていないそのカードを俺に渡す。


 「そして、五時間以内に十個のスイッチを押すと、第二関門突破となります。試験をクリアした場合は、私が車で向かうので、その場でお待ち下さい」

至る箇所に隠されたあのスイッチを、五時間以内に十個見付け出さなければならない。


 「尚、押してもカウントされない、〝フェイク〟のスイッチが三割程存在するので、お気を付け下さい」

〝フェイク〟のスイッチ。

だから運も必要という訳か。

クロシマはスイッチをしまうと俺の左手を持ち、機械を操作する。

画面上には、赤い円で覆われた地図と【START】の文字、そして、上部に【05:00:00】、【00/10】と表示された。


 「ルールは以上です。では、第二関門を開始致します」

クロシマは【START】の文字を押した。

制限時間が、動き出した。

 

 ナンパの次は、宝探しか……。

至る箇所に隠されたスイッチを、五時間以内に十個、見付け出さなければならない。

この試験も、容易たやすくはなさそうだ。

スイッチは、どんな場所に隠されているのだろう。

四方八方に、目をやる。道路沿いの花壇や街路樹を調べていきながら歩く。


 大きな出入口の上部に、文字の型の錆びた断片とそれ等の跡が並んだ、倉庫らしき古びた建物があった。

人気のないその中は奥行きがあり、積み重なったパイプが幾つも置かれている。


 死角だらけのこの場所に、スイッチは隠されているのかもしれない。

いや、待てよ。人が出入りする室内に、スイッチは隠されているのだろうか。

二十分間調べてスイッチが見付からなかったら此処を出よう。


 結局スイッチは見付からず、引き続き住宅地で探し回る。

民家の隙間に隠されていないだろうか。

それに注意しながら歩く。


 アパートの敷地内に入ってみた。

周りの茂み。

駐輪場の屋根。

簡易な遊具。

スイッチはない。


 その時、一階のベランダが目に留まり、それの下を覗いてみた。

薄暗い隅に置かれた物体に手を伸ばすと、それはやはりスイッチだった。

カードをスキャンし、押した。

〝ピキューン〟という音が鳴った。

【00/10】の表記が【01/10】に変わった。


 引き続き住宅地でスイッチを探し回っていると、目の前の十字路に、黒い車が横切った。

咄嗟に躰は、それを追う。

だが、やはり間に合わなかった。

思わず、立ち竦む。

車は、小さくなっていく。


 目を、疑った。

信じられないが、確かにあの車の上には、スイッチがあった。

車が見えなくなった道路から、暫く視線が離れなかった。

あの車は、一体……。


 小さな公園があった。

ブランコの裏。

滑り台の裏。

シーソーの裏。

遊具をとことん調べたが、スイッチは見付からなかった。


 角を曲がると、大きな廃屋があった。

それを覆う蔦を捲りながら、周りに生い茂った草葉を掻き分けてみる。


 すると、ふと、郵便ポストが目に留まった。ぼこぼこに凹んだそれを開ける。

中には、スイッチがあった。手に取ってカードをスキャンし、押した。

〝ピキューン〟と鳴った。

これで、二つ目。


 スイッチが隠されていそうな場所……。

辺りを見渡しながら歩く。


 また廃屋があった。小さなそれが二つ並んでいる。

庭の茂みを調べる。

スイッチは、見付からなかった。


 隣の廃屋に移動しようとした時、その二軒の僅かな隙間が目に留まった。

此処にスイッチはあるだろうか。

近付くと、予想通りだった。

手を伸ばしてカードをスキャンし、押した。

〝ピキューン〟と鳴った。

これで、三つ目。

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