第6話 魔獣の群れ

 魔法学院フェアリーは、カトリア国の首都にある。首都に行くには、飛行船の停泊しているサイディーンと呼ばれる町に行かなければならない。俺とミーアはそこを目指していたのだが、その道の方からボロボロな格好をした少年と少女が来た。


「魔法士様じゃ……ないんですか?」


 少年は俺らの杖を見て、間違えてしまったらしい。魔法じゃないと知ったのがショックなのか、顔に暗い影を作っている。


「お兄ちゃん、パパたち大丈夫かな?」

「俺に聞くなよ!」


 少年が強い口調でそう言い放つと、少女はペタンと座り込んで泣き始める。その姿に感化されてか、彼もまた瞼から大粒の雫をポタポタと落としだした。


「何があったの? よかったら聞かせて?」


 ミーアは屈みこみ、座り込んだ少女と目線を同じくさせた。その慈しみを含んだ表情を見て、少女はギュッと彼女に抱き着く。


「俺が......話すよ」


 少年は腕でゴシゴシと涙を拭き取り、俺に向かってそういった。


__数分後


 彼らから事情を聞いた俺たちは、駆け足でサイディーンへ向かっていた。


「サイディーンに魔獣が出現するなんて、初めて聞くよね」


 ミーアは走りながら、そう話しかけてきた。俺は「あぁ」と頷き、彼女に視線を向けず走った。少年らの話では、身体に刻印がある四足魔獣3体が暴れているという。その戦闘によって、少年らの両親は瓦礫の下敷きになって動けないでいるのだ。さらに運が悪いことに、その瓦礫の周りを魔獣が縄張りにして、近づく人々を攻撃するらしい。


「倒せるかな?」

「無理なら、魔法士を待てばいい。あの子らが連れてくるまで、持ちこたえるんだ」

「うん!」

「お、見えたぞ!」


 街の入り口に着くと、奥に薄らと飛行船の影が3台ほどある。……この町は人通りが多いはずだが、全く誰とも会わない。それどころか、血痕がそこら中にあって凄惨な戦闘が行われたのを物語っている。ミーアもこんな状況初めてなのか、血を見るたびに目を逸らしていた。


「安心しろ。俺がいるだろ?」


 落ち着かせるように、ミーアへ声をかける。彼女は「そうだよね」と不安混じりの声色で返事をした。


「そこまでソワソワしてるなら、ミーアはここにいても……!?」

「ギャルルル!!!」


 角を曲がった直後、人だかりの奥から獣の鳴き声が響く。それと同時に、オオカミに酷似したフォルムの魔獣が壁を伝ってジャンプしていた。獣の口には誰かの腕らしきものが咥えられており、一瞬見えた切断面は言葉に表せない。「また1人やられたぞ!」と誰かいうと、人だかりはざわつき出す。


「や、やっぱり俺らに討伐なんて無理なんだよ。早く誰か魔法士呼べよ!」

「呼べったって、家族を置いて行くわけには……」


 クソっ、揉み合ってて奥へ進めない。俺はミーアの手を握り、互いに離れないよう歩いた。しかし、背中を押す力に勝てず彼女と離れ離れになる。この奥に魔獣がいるのは確かだ。さらに言えば、少年らの両親もまだ生きてるかもしれない。だが、俺1人でこの先に進めば……千切られた腕が鮮明に思い出せる。


「みんな、どいてくれ!」


__ゴゴゴ!


 俺は腕を天高く上げ、手のひらサイズの小さな炎を出した。こんなこと、ビビりな前世の自分じゃしなかった。正義感なんて、子供の頃に捨てたのに、この世界の俺はしっかりこの歳まで持っているんだな。


「おい、魔法士様がもう来てるじゃないか!」

「本当だわ!」


 この容姿が魔法士だと納得させたのか、徐々に人混みは無くなっていく。綺麗に道の左右に人々は離れ、真ん中にポツンと立っているミーアと再会した。俺と彼女は互いに頷き、魔獣のいる場所へ向かった。人混みが消えて、奥で何が起きているかはっきりわかる。数名の恐らくCランク未満の冒険者らが、3体のダークウルフと戦闘中だ。


「オルテガくん、あの刻印ってどっかで……」

「あぁ、シャディアークの使役していた魔獣だ」


 恐らくあいつの殺した人間のスキルで、魔獣を服従させていたんだ。だが支配から解き放たれ奴らは、本来の獰猛さを取り戻している。ダークウルフはCランク以上、つまり魔法士しか討伐できない魔獣だ。俺とミーアじゃ、束になっても勝てない。いや、彼女のスキルがあれば活路はあるか?俺は彼らの戦っている先に、瓦礫の山を見つけた。


「ミーア、奴らの弱点を狙ってくれ! 俺が隙を作る」

「わ、わかった!」


 俺が剣を振り下ろそうとした直前、ダークウルフは眼を光らせる。


__ザッ


 凄まじい速さで剣の間合いから離脱し、3体は合流した。


「おぉ、君たちも冒険者か? 助かるよ、一緒に魔法士が来るまで守ろっ……」

「危ない!」


 ダークウルフらは接近しながら位置を素早くシャッフルし、隙を窺っていた。気が緩んだ冒険者を目掛け、鉄砲のように一体の魔獣が牙を剥き出しにする。彼を押し飛ばしたはいいものの、ウルフの飛び掛かる攻撃は止められそうにない。ミーアとも射線上にいるから、助けてもらうことも……。


__シュン!


 致命傷を覚悟した俺の目の前を、閃光の如く何かが駆ける。瞬きするほどの短さで、真横を通ったそれは数メートル先にいた。目の前にいた3体の魔獣は、黒煙をあげるほど一瞬にし丸焦げになっている。


 な、何が起きたんだ一体!

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