第5話 スキルの条件

 待て待て待て!


 そんな発動条件ありえないって。......だけど、あの時したことといえばそれしかない。


「なぁミーア、ちょっと協力してくれないか?」


 もうミーアには恥を晒している。1度見せたもの、2度見せてもプライドもクソもない。俺は眉間に力を込め、彼女をじーっと見つめた。


「え、ちょっと......こんなところで?」

「こんなところで......だ」

「えぇ、恥ずかしいよ」


 ミーアは何故だか知らないが、頬を赤らめている。俺はというと、出したばかりだから力を込めてもアレが出てこないので、さらに眼力を強くした。


「......本気......なの?」


__プゥ!


「......は?」

「......え?」


 結局、出てきたのは屁だった。スキルは発動しないし、やはり漏らさないと発動できないんか?


「オルテガくん、今の何なのかな? 何なのかな!」

「何なのって、スキル発動するための協力だろ?」

「そうだったの?」


 杖を構えて何か繰り出そうとしていたのは、気のせいだよなミーア。俺は少し不機嫌な態度の彼女に、改めて事情を説明することになった。


「お漏らしするのが発動条件……仮にそうだとして、戦う時毎回やる気なの?」


 ミーアはジト目で冷ややかな視線を送る。正論すぎて言葉が出ず、膝から崩れ落ちた。彼女の言うとおり、いくら魔王軍と戦うとはいえ、仲間や敵に醜態を晒すのは嫌だ!だが、いくらこの肉体と魔法を鍛えても限度ってものがある。俺は一体どうすれば……。


「うんうん。オルテガくんは、スキルなんて発動しなくていいよ」


 彼女はそういって、ポンと俺の肩に手を置いた。


「......ミーア」


 ミーアの暖かな手の温度を感じ、少し気分が晴れたような気がした。見上げた彼女の表情は......ニヤニヤしていた。


「ふふふっ、安心して。オルテガくんはサポート役に徹してくれればいいから」

「サポート役って、例えば?」

「そうだな。掃除洗濯料理......あとはぁ」

「俺は雑用係かよ!」


 彼女は屈託のない笑顔を向け、目を反ろした。


「冗談だよ冗談!」


__キュイン!


 ミーアの笑えない冗談を聞かされた直後、突如スキルが発動した。俺の目の前に先ほどと同じ画面が空中に浮遊している。彼女もその存在を確認し、隣に来て文字を読み上げた。


「これがオルテガくんのスキル......あっ、ここに発動条件書いてあるよ?」


 彼女が指差すところには、焦って読み飛ばした文章があった。えーっと何々、"スキル所有者に対して、笑った相手はスキル所有者の一存で能力をリセットできる"だって。


「え、これすごい能力なんじゃないの?」

「あぁ、あの魔王幹部候補のシャディアークとかいう魔人もこれで無力化したんだろうな」

「「......」」


 俺とミーアは、またお互いに目を合わせた。彼女は額に汗を垂らし、ゆっくりと口を開く。


「ねぇ、まさかリセットしないよね?」

「うーん、本当に無力化するか確かめないとなぁ」


 さっきやられたお返しに、冗談半分でそういった。ミーアは焦ったのか、高速でペコペコとお辞儀をし出す。


「ごめんなさいごめんなさい! 反省しているから許してください!」


 ミーアは俺に顔を近づけて、うるうるとした上目遣いを向けてくる。いくら幼馴染とはいえ、反則すぎだ。


「わかった、わかったよ! そこまでいうなら」


 そんなやりとりをしているうちに、カウントダウンが0になって画面が消滅した。リセットされてないことを確認したミーアは、ホっとため息を吐く。


「はぁ、無事でよかった。ねぇ、そろそろ神官さんたちのお葬式の準備があるみたいだから行こ?」


 ミーアは何事もなかったように話題を切り替える。俺も今日は色々あって疲れたし、ひとまずスキルについて考えるのはまた今度にしよう。


__1週間後


 俺とミーアは早朝、村の人々に囲まれていた。


「オルテガ、ミーア、二人とも気を付けるのだぞ」


 村長は魔法学院の入学試験に旅立つ俺らに、そう声をかけてくれた。


「オルテガくん、ミーアをよろしく頼む」


 育ての親のミーアの両親も、門出に来てくれた。俺が「任せてください」と、言おうとしたタイミングだった。


「こらこら、逆じゃ。今はこのミーア・ビリジストがオルテガを守る立場なんじゃ。なんてったって、Sランクのスキルじゃからな」


 村長が自慢気にいうと、ミーアの両親は目を丸くさせて驚いた。


「そんなすごいスキルを貰ったのか。すごいなミーアは」


 彼女の頭を撫でる父親は、こっちを向いた。


「それじゃあ、オルテガくんはどんなスキルを貰ったんだ?」

「それは......」


 言い淀んでいると、村長を含め事情を知っている彼らはひそひそと笑い声を漏らした。恥ずかしくなった俺は、「もう行くぞ!」とミーアの手を引っ張って走り出した。


「お別れの挨拶なんだから、急がなくても」


 村から少し離れた場所に着き、彼女の手を離した。


「育ての親にも笑われたら、流石に耐えられない」

「ちゃんと説明すれば、オルテガくんのスキルが私より凄いかもしれないって、わかってくれるよ!」

「このスキルは俺とミーア以外、知られたくない」

「......?」

「このスキルは初見殺しなんだよ。知られれば知られるほど、対策できちゃうのさ」


 笑わなきゃ発動しないなんて、逆に言えば笑えないようにしたら効かないってことだからな。いまいち納得していないミーアは、「そうなんだ」と呟くようにいう。


「あれ、あの人たち魔法士じゃない?」

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