第4話 チートスキル?

「ギャグってなんだ?」

「何だって、笑いのギャグだろ」


 ……。


 神官がスキルの名を発してから、数秒ほど室内は静まり返った。そして徐々にひそひそと声が漏れる。


「「「ギャハハハハハ!」」」


 彼らが爆笑する中、俺は記憶が蘇ったことに気を取られていた。前世……日本に住んでいた頃の名は田中一平だった。前世の自分は、ビビりで頼まれたら何でも引き受けてしまっていた。サラリーマン時代、後輩に舐められてタスクを全部押し付けられ過労死したんだ。


「馬鹿にしないで!」


 ミーアは席から勢いよく立ち上がり、先ほどの神官に負けぬ大声を轟かせた。ムッと頬を膨らませ、口を開く。


「スキルがよく分からなくっても、オルテガくんは強いから!」

「でもよ、魔法学院の試験はスキルが雑魚だと通るのは難しいって聞くぜ? 宴会芸とか大道芸は向いてるかも知れないけどよ……ぷぷっ」


「「「ギャハハハハハ」」」


「こら、やめんか。ぷぷっ、ここは教会だぞ」

「神官様も笑ってますよね?」

「いや、すまんすまん」

「もう! オルテガくん、言われっぱなしでいいの?」


 俺が馬鹿にされてるのに、ミーアは自分ごとのように怒った表情をしていた。


「え、いや……その」


 前世の記憶が戻り、心なしか自分に自信が持てなくなった。必然的に、昨日までの鋼メンタルの対応ができない。困惑する俺をみて、ミーアは不安そうな戸惑いを見せる。


「オルテガ……くん? もしかして、ビビってるの? そうか、あまりに使えないスキルを貰ったショックでメンタルがやられちゃったのね!」

「えっ!?」


 近いけど違うわ!てか、庇ってたのに使えないって言ってくれるなよ幼馴染!


 ミーアは口に手を当て、ボロボロと涙を流した。


「うぅ、オルテガくん……可哀想で私も辛いよ。でも安心して、私チートスキル持ってるみたいだから守れるよ!」


 さっきまで俺のことを兄のように慕ってくれた幼馴染は、涙目だけど勝ち誇ったようなドヤ顔を向けてきてやがる。「ふん」と鼻で笑った彼女は、嬉しい表情を隠すように泣き顔になった。


 調子がいいな!

 マジで!


__魔人出現の場面


 という経緯を経て、コウモリ男から魔法で殺されそうになっている。うんこを漏らした俺は、スキル『ギャグ』を発動したがこれといって何か起きたわけでもない。目を閉じる直前、雷系の魔弾が飛んでくるのが見えた。やはり......奇跡は起きないのか。


__パシュン


 胸元にビリっと、少し強い静電気が走った。な、何が起こった?俺は恐る恐る瞼を開き、現状を確認した。視界にはコウモリ男と、彼が拘束しているミーアの姿がある。さっきと変わっていない......いや、あの魔人動揺している!


「ど、どうなってやがる! 俺の攻撃が......効いていないだと!」

「オルテガくん......すごいよ!」


 俺がすごい......のか?いや、俺の力は魔法士見習いより劣るはずだ。ポイズンバットの毒もちゃんと聞いたし、身体がガッシリしているがそれで耐えれる威力ではない。では一体、これはどういう......!?


__パシュンパシュンパシュンパシュンパシュン


 コウモリ男はミーアを投げ飛ばし、全属性の魔弾を両手で交互に放ってきた。しかしそのどれもが神官たちを瞬殺した威力や見た目とは程遠い、豆サイズの攻撃だった。俺の身体に当たるや、蒸発するように消滅する。まさに、痛くも痒くもないとはこのことだ。


「ふざけんなよ。うんこ漏らすような男に、俺の攻撃が効かないなんて……夢なのかこれは!」


 コウモリ男は現実が直視できないのか、ポカポカと自身の顔を殴る。


「ミーア、今のうちに逃げるぞ!」


 奴がいつ力を戻すか分からない以上、ここにいては危険だ。


「オルテガくん!」


 ミーアは近づくと鼻を指でつまみ、引き攣った表情をしていた。


「な、なんだよ」

「やってることはカッコいいけど、うんこ漏らしたから台無しだよ!」

「ぐっ、そんなこと言ってる場合じゃ……」


 俺は彼女に上着を被せ、教会から連れ出そうとした。


「待てうんこ野郎!」


 しかし、コウモリ男は俺らの行手を塞ぐ。


「危ない! 下がってオルテガくん!」


 __ドガッ!


 危険を察したミーアは、俺を突き飛ばした。壁に衝突する最中、彼女がウォーターショットを放っていた。


「嘘……だろ……俺が……負ける……なんて」


 彼女の放った魔法は、コウモリ男の胸に風穴を空ける。男は驚いた顔のまま、仰向けに倒れ込んで動かなくなった。そしてそのすぐ後、逃げ出した人たちが魔法士を連れてきた。


「これは……魔王幹部候補のシャディアークではないか! だ、誰がこいつを殺ったんだ?」


 魔法士は生き残った俺らを見て、何故か俺の方へと向かってきた。


「君か、その貫禄のある佇まいですぐにわかっ……くっせ! 何だこいつ、くっせ!」


 臭いが漂う範囲に入るや、魔法士は「くっせ」と連呼し出した。


「すいません、うんこ漏らしまして……。後、あの魔人を倒したのはミーアです」


 俺は涙目になりながらも、彼女を紹介した。


「うんこを漏らしただと? まぁいい、本当なのかそこの君」

「えっ、私が殺ったって言うのかなぁ」


 ミーアは「うーん」と唸り、反応に困った。


「魔法士様、その人が倒したんだよ! その人、弱点分析ホークアイってチートスキル貰ってたんだぜ!」


 助けを呼んだ1人は、魔法士にそう話かける。


「うん、やはり君が倒してくれたのだな。スキル付与の儀式を得たと言うことは、これから魔法学院の試験に向かうのだろ? この件の報告と共に、私が君の試験をパスできるよう頼んでおこう」

「えぇ!? そんなことしてもらっていいんですか?」


 目を丸くさせるミーアは、開いた口が塞がらずにいた。


「当然だ。君のような実力者を、手違いで落とすようなことあってはならないからな」

「うーん……いいのかな、オルテガくん」

「俺に聞くな! もう尻拭きに行かせてくれよ」

「あっごめん」


__近くの川


 俺は涙目で教会を後にし、近くにあった小川でお尻についたアレを洗い流した。幸い、下着にしかブツはついていなかったのでノーパンなら問題なく過ごせた。


__はぁ。


 ったく、今日はとんだ1日だ。魔人に襲われるわ、ビビってうんこ漏らして恥ずかしい思いはするわ、付与されたスキルはゴミだわ……そうだスキル!


 付与されたスキルって、一体何なんだ?あの魔人……シャディアークの力が弱まったって、もしかして俺の力なのか?


「おーい!」


 スキルについて考えていると、ミーアが話を終えたのか駆け寄ってきた。


「もう、探したよ?」

「ミーア……優遇の話、どうしたんだ?」

「あー、それね。断ったよ」

「え!? な、なんで?」

「何でって、私がいないと試験通れないかも知れないじゃん」

「……誰が?」


 ミーアは何も言わず、ピンと人差し指を俺に向ける。生意気になりやがって……そうだ、もう一度スキルを発動して、俺が役立たずじゃないこと証明してやる!


……って、あのスキルどうやって発動したんだっけ?


「オルテガくん? 何ぼーっとしてるの? おーい、聞こえてますかー? 私のこと見えてる?」


 俺の周りをキョロキョロと動き回り、反応を伺うミーア。彼女のことは置いといて、あのスキルを発動した状況を思い出そう。記憶を遡る最中、1つの嫌な予想が立った。


__もしかして、うんちを漏らすのが発動条件……じゃないよな?

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