第2話 夢見る若者

 俺の名はオルテガ・マヘンディッシュ。今はギルドの依頼で、森の中を歩いている。Dランクのポイズンバットの巣穴を討伐する依頼なんだが、かれこれ1時間以上散策しているが見つかる気配がしない。依頼人の話では、桟道の先にある一本道の脇にある茂みの近くにいると言っていたが......見当たらない。


「おーい、オルテガくん! もう、置いていくなんて酷いよ」


 どうしたものかと悩んでいると、来た道の遠くから聞き馴染みのある声がした。振り返ると、こちらに手を振るミーアの姿があった。この依頼はDランクとはいえ、ポイズンバットの巣穴を討伐する依頼......命の危険がある以上、幼馴染を危険に晒したくはなかった。だが、ここまで来てしまっては仕方がない。


「ミーア、危なくなったらすぐに逃げろよ!」


 俺がそういった直後、彼女は視線を茂みにやった。まったく、ミーアはマイペースだな。そう少し気が緩んだ瞬間だった。視線の先から、無数の黒い物体が彼女に接近する。


「きゃあ!」


 悲鳴を上げる彼女の前にいたのは、討伐対象のポイズンバット......灯台下暗しとはこのことか。剣を抜いた俺は、間に合わないことを察して鞘を投げつけた。


「グガッ」


 鞘が頭に当たったポイズンバットは、ゆらゆらと浮遊している。俺はその隙を逃さず、剣を振り下ろした。


「下がれ!」


 __ザシュ!


 1匹を肩から縦に一刀両断すると、紫色の血が地面に飛び散った。倒したことに安心はできない。茂みの奥からワラワラと、100匹ほどが湧いて出てきやがった。俺は剣を構え、視線を奴らに向けたまま彼女の安否を確認する。


「怪我はないか?」

「う、うん。でも、こんなにいるなんて聞いてなかったよね? 危険だし、一旦ギルドに報告した方が......」

「いや、この依頼は俺たちだけで達成するんだ」

「......そうだよね。何か、いい作戦とかある?」

「あぁ、もちろんあるさ」

「え、ほんと!? 何々?」


__ザシュ!


 彼女が嬉しそうな声色で聞いてくる最中、俺はもう一匹を斬り殺した。


「1匹1匹......粘り強くさ」

「作戦っていうのかわからないけど、オルテガくんとならできる気がするよ!」


 __1時間後


 99、ひゃーくっ!かれこれ1時間は斬り続けているが、残りは......後10匹ほどか。よそ見をする余裕ができたので、俺は額の汗を拭いながらミーアの様子を見た。


「はぁ......はぁ。ね、ねぇオルテガくん、私たちって魔法士目指しているのにいっつも最後はこの展開になる気がするんだけど......なんで?」


 ミーアは杖でポカンとポイズンバットの頭を叩き、荒い息をしてそう話しかけてきた。


「この展開って......なんだ?」


 そう返しながら、俺は折れた剣で飛行する敵を突き刺した。


「だから、私はMP切れするし......オルテガくんはそもそも魔法一切使わないじゃん!」

「それはだなぁ......ふんっ!」


 スキルに適した魔法の属性があるから、スキルを付与してもらうまで封印している。と答えたかったが、残党が最後の猛攻と言わんばかりに一斉に来やがった。この依頼を達成すれば冒険者ランクC......魔法学院に入学するための条件だ。貴様らの攻撃ごときで、俺は弱音は吐かんぞ!


__ザッザッザッ......ザバッ!


 俺は雄叫びと共に、残りのポイズンバットに斬りかかった。正しい斬り方とか、姿勢とかもう関係ない。ただただガムシャラに勢いに任せて、剣をぶん回した。


「はぁはぁ......やったぞミーア! 俺たちはついに......ついに......」


 そう言いかけた途中、意識が朦朧として景色が横になった。


「えっ嘘、死んでないよね? 嫌だよオルテガくん!」


 駆け寄ってきたミーアは、腰を下ろして俺の肩を揺すった。屈んだせいか、彼女のおパンツが見え......ノーパンだった。そうだ、昨日の夜、水浴びするといって湖にパンツ履いたまま入ったんだ。まったく、興奮して毒が早く回りそうだぜ。


「安心しろ。ポイズンバットの血を浴びただけだ。噛まれるよりは、毒の周りは遅いと言われている。それより、俺のこと運べるか?」


 俺は気絶しそうな中、なんとか気力を振り絞って見下ろすミーアに声をかけた。

彼女は眉にしわを作るほど悩んだ末、重々しく口を開ける。


「引きずってなら、できるけど......大丈夫かなぁ」


 ミーアはそう言いながら、俺の髪をさわさわした。


「な、何がだ?」

「えっと......ハゲちゃうかも? 特に後頭部らへんが」

「おまっ、頼むから怪我しないやり方で頼むぞ? この老け顔でハゲたら、16なのに悲惨だからな! 絶対だぞ!」


 そう声を荒げてしまい、全ての力を使い果たしてしまった。気力が尽き、俺は不安を抱えて意識の糸がちょきんと途切れた。


__数時間後?


「それでは、オルテガとミーアちゃんのCランク昇格を祝いして......かんぱーい!」

「「「乾杯!!!」」」


 意識を戻したのは、騒がしい音と酒の匂いだ。ぼんやりと目を開けると、天井があった。ここは......ギルドの酒場だ。上半身を起こすと、ミーアが屈強な男たちとジョッキをカコンと当てあっている光景が見えた。それに、冒険者だけではなく村人や村長までいるではないか。


「おー、もう1人の主役が目を覚ましたぞ!」


 村長はすでに酔っ払っているのか、顔が赤い。彼は千鳥足で近寄ってくると、俺の手を引っ張ってミーアのいるところまで案内した。


「それじゃあ、改めて……かんぱーい!」


 俺は強引に持たされたジャッキを、村長の掛け声と共に掲げた。


「さぁ飲め飲め! 食え食え! ……ぅおぇ!」


 飲め食え言った後に、盛大に吐きやがった村長!こんなの食欲失せるって……そう思っていると、ミーアがこちらを見つめてくる。


「飲まないの?」


 グビグビグビ……臆するのも男ではない!俺が一気に飲み干し、ジョッキを空にすると、ミーアは「おー流石!」と拍手した。


「オルテガくんって、やっぱ強いよね」

「えっ、どうしたミーア?」


 ミーアはムッとした顔をして、テーブルの上に登った。ジョッキを2つ抱え、すーっと空気を吸い込んでいる。


「私も負けないぞ! みんな見てて!」


 そういって小さな口を頑張って広げ、両手に持った2つのジョッキを傾ける。ミーアは俺に感心すると、いつもこうやって負けず嫌いなのか勝負するようなことをする。いつもなら無茶はするなと咎めるが、俺と彼女の祝いの席だから多めに見るか。


「おーミーアちゃんやるなぁ……ん?」

「おいなんか、ミーヤちゃん下履いて……」


 しししまった!ミーアの奴、濡れたパンツを脱いでいたこと忘れてんだった!


 俺は瞼をぎゅーっと閉じて、苦しそうにゴクゴクとエールを飲む彼女の足を掴んだ。


「ひゃっ!? ちょっと何するのオルテガくん!」


 ミーアは掴まれた瞬間、聞いたこともないような上擦った声を出した。すまん……しかしこのままでは大変なことになるのだ!俺は彼女をテーブルから下ろし、お姫様抱っこでギルドの空いている部屋に走った。


「おいおい、流石勇者様だねぇ。大胆にしけこもうとするなんてよ!」

「馬鹿野郎! まだ魔法士見習いですらないわ! あとしけこむとか、やましいことしないから!」


 そう大声で野次馬に反論し、部屋に入るや扉を閉じた。「ふぅ」とため息を吐き、暗がりを照らす小さな火を人差し指に灯した。すると、人差し指同士をツンツンして頬を赤らめるミーアの姿が映った。慌てて彼女を下ろし、咳をした。


「その、なんだ……パンツをだな」

「うん……脱げばいいんだよね」


 そう言ってミーアは、スカートの下に手を入れる。

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