異世界転生したビビりなおっさんは、チートスキル『ギャグ』で無双する!しかし恥やプライドは捨てていく。

たかひろ

第1話 魔人襲来

 ここはカトリア国の辺境にある、少し埃をかぶった教会の中だ。室内は壇上の奥に女神像が祀られ、真ん中に人が4人並んで通れるほどの通路があった。その通路の左右には、奥へ向かって寸分の狂いもないような均一の並びで長椅子が配置されている。そんな室内の壇上、魔法陣が床に描かれている中心に、俺は立っていた。俺の名前はオルテガ・マヘンディッシュ__前世では、田中一平と言われた男だ。たった今しがた、一生に一個しか付与されないというスキルなるものを横にいる神官たちから授かった。この180cmのマッスルボディと、16歳にして30代に見える老け顔という不満はないわけではないが前世の俺と比べたら月とスッポンの大変化をして、さらなる飛躍を遂げる......はずだった。なのに......この貰ったスキルはなんだぁぁぁ!


 スキル『ギャグ』って......まーじでなんだぁぁぁ!


 と心の中で大絶叫したと同時に、前世の記憶が蘇ってしまったのだ。前世の俺はうだつの上がらないサラリーマンだった。ビビりな前世と勇敢で正義の心を持った異世界の自分......パニックとしか言えん。


 ゴゴゴゴゴゴ......ズバン!!!!!!


 状況を落ち着いて分析しようとした矢先、教会にけたたましい音が響く。目をやると、教会の屋根にぽっかりと穴が開いていた。ゆっくりとその下を見ると、通路の中央に振ってくる瓦礫と舞い上がる煙でくっきりと正体は見えないが、2メートルはある人の影が。いや、人影と思ったがコウモリのような翼が......てか、ようなじゃなくてコ......コウモリ人間?あぁ、そうか。こいつはもしかして、魔人って奴か。


 なーんだそうですか、魔人さんですか......?魔人ってヤバくね?たしか、この異世界で人間たちが戦っているのって魔王軍だよな?魔王軍って、魔人だよね。


「俺のポイズンバットの巣穴ぶっ壊したのはどいつだ?」


 コウモリ男は毒々しい紫色の顔面をしていて、喋る声色は反響しているように聞こえた。突然の襲来に沈黙が続いたが、一歩彼が動くと恐怖が音を立てる。ある者は入口に一目散に逃げようと、ある者は杖を構え、神官らはすでに魔法を発動させていた。


「魔人に聞く耳持たねぇってか? いいぜぇ、そっちがその気ならお望み通り!」


 神官らが火の玉を飛ばすと、コウモリ男は腕を水平に振った。その瞬間、神官らと同じ魔法を発動する。


「な、なんだあのファイアーボール!? でかすぎるだろ」


 俺と同じくスキルを付与された者の誰かが、杖を構えながらそう口にした。そんな彼が呟くよりも早く、神官ら目掛けて直径2メートルはあろう巨大な火の玉が発射される。神官たちが放った火の弾丸は巨大な弾に飲み込まれ、何の障害にもならなかった。そのまま彼らへ弾が直撃すると、火の玉がすっぽり埋まる大穴が壁にできる。歴史ある教会の女神像も、その攻撃に巻き込まれて残った上半身だけが床にコテンと落下した。


「オルテガくん! 私が時間を稼ぐから、その隙に逃げて!」


 呆気にとられていると、席に座っていたはずのミーア・ビリジストが駆けつけてくれた。明るい栗色のボブヘアで、小柄で小動物のような可愛さがある前世ではいてほしくもいなかった幼馴染である。しかもここだけの話......超絶美少女。俺が5歳ぐらいのときに上げた椿の髪飾りを、今でもずーっとつけている健気な子だ。


 アカン......泣きそうや......怖くて。


 ミーアの可愛さに見惚れる余裕なんてないんです。彼女は杖を構えてスキル『弱点分析(ホークアイ)』と、切迫した声色でそう発した。その瞬間、彼女の両眼は琥珀色に変化する。


「ウォーターショット!」


 余裕綽々とした歩きでこちらに接近するコウモリ男に、ミーアは水属性の魔法で対抗した。杖の先の空中でしゃぼん玉のように膨らんだ水は形状を変化させ、アイスピックのように尖りだす。


 ズドーーーーーーーーーン!!!


 アイスピックのように尖った水は、矢のごとくコウモリ男の翼を貫こうとした。


「おっと」


 しかし、簡単に攻撃を手で叩き落とされてしまう。コウモリ男は「へへへっ」と不気味な笑いをし出した。


「あったりー! この翼にMP溜め込むのよ俺の種族」


 魔人は嬉しそうに、目を丸くさせるミーアに話しかける。


「いいねぇ。やっぱり雑魚狩りが正解だったわ。弱点すぐわかるなんていいスキル、お前には勿体ねぇよ……なぁ、そう思うよな?」


 またしても歩き始めたコウモリ男。ミーアは苦し紛れに何度も何度もウォーターショットを放った。しかし、まるで蚊でも叩くように攻撃は手で消されていく。後退りするミーアは、後ろに俺が立っているのを見てキリッとした顔に戻る。


「何してるのオルテガくん! 早く逃げて! 私じゃもう持たないよ! お願い、オルテガくんさっき、ミーアが助けてくれよって言ったでしょ? もうこれ以上助けられないよ! 早く!」


 ミーアちゃん……あぁミーアちゃん。ほんとーに申し訳ない。前世の記憶が蘇る前の俺じゃないんだ。今の俺はビビりなんよ。ビビりすぎて、足がピクリとも動かんのですわ。クソー、女子高生のパンチラ見える場面でも「ふーん」って興味なく素通りできるのに!なんで動かないんだ俺の脚!ま、まさかこのコウモリ男が女子高生のパンチラを上回る魅力があるっていうのか……バ、カ、ヤ、ロ、ウ!


「女の子1人に戦わせるな! みんなで戦えばきっと勝てる!」


 教会に残った者たちは、お互いを鼓舞して戦う覚悟を決める。コウモリ男を取り囲み、各々の得意とする属性の魔法を発動し出した。火、水、土、雷、風の多種多様な魔法属性の弾が発射される。身体中くまなく被弾し、コウモリ男は歩きを停止させる。


「効いたのか?」

「効いてねぇよ。お前らのような魔法士見習い未満の雑魚魔法、痛くも痒くもねぇわ」

「嘘……だろ?」


 魔人は「ウゼェから消えろ」といって、彼らに5属性全ての魔弾を発射した。マシンガンのように打ち込まれる火の玉や水の玉により、彼らは身体を蜂の巣にされてしまう。バタバタと死体が床に散らばり、気がつけば数分たらずで棒高校生探偵もびつくりの連続殺人現場ができていた。トリックも謎もなく、犯人は目の前にいるけどね!


 てか、ここここれ現実!?夢だと言ってくれ誰か!!!


 そう切望するも、現実は非情だった。ミーアが魔人に首を掴まれて足を浮かされていた。首を絞められて苦しそうにする彼女を見て、魔人は咄嗟にもう片方の手を動かす。


「いやぁぁぁ!」


 ミーアの衣服を爪で切り裂かれ、肌の露出が増える。


「知っているか人間の女。魔人はスキルを持った人間を食えば、そのスキルを奪えるんだよ」


 そうコウモリ男がいうと、ミーアは引き攣った表情を浮かべる。


「そう怯えるな。スキルを奪うにはもう一つ方法があんだよ。それはな、その人間の体液を大量に吸収することだ。テメェが命が惜しいっていうなら、そっちの方法でもいいぜ? 毎日ちょっとずつ貰えれば、それで手に入るからよ。ただし、その身体を使って俺に奉仕したらだけどなギャハハハハ!」

「その手を離せコウモリ野郎!」


 ビビりで情けない俺をずっと逃がそうとしてくれたミーアを、これ以上酷い目に合わせてたまるか!ビビりな自分と、この世界での勇敢な自分……足が震えて動かなかったけど、その両方が同時に出た。出たと言っても、口から威勢の良い言葉を吐いただけだけども。


「オルテ……ガ……くん……逃げ……て」


 ミーアは苦しそうな息遣いで必死に言葉を紡いだ。必死に伝えてくれたのはありがたいが、ここで引くことはできない!カッコいい理由じゃなく、ビビってるせいもあるけど……ミーアを守りたいんだ!


「ほう、こいつは驚いた」


 コウモリ男はミーアを持ち上げながら、俺の身体をじっくりと観察した。


「その恵まれた体格と、魔法士さながらのどっしりとした顔、この女に匹敵するスキルが期待できそうだ」


 期待しているところ大変恐縮ですが、俺のスキル『ギャグ』です。と口を裂けても言えず、なんやかんやあって俺は……うんこを漏らした。いや、漏らしたなんて表現は甘い。

 

 ブッチッパ!!!


 そう音が響く程、酷いうんこ漏らしだった。音でこの場にいる誰にも気づかれていた。


「ギャハハハハハハハ! 怯えてうんこを漏らすとは、貴様見掛け倒しだなギャハハハハ!!!」


 ミーアは拘束されて手で鼻を塞がないため、俺のうんこの臭いに苦悶の顔を浮かべていた。すまん幼馴染、ビビりすぎて出てしまったんだ。恥ずかしさと恐怖で目を瞑っていた。


__キュイン!


 しかし、不思議な音が聞こえて俺は瞼を上げる。目の前には、四角いホログラムの画面が浮遊していた。


『スキル【ギャグ】発動できます。発動ボタンを押すか、選択してください。発動終了まで3......2......』


 画面にはそう文章が書かれていて、でかでかとしたカウントが秒刻みで減っていった。これは......スキルの発動?この『発動』ボタンを押したら、何か起きるってことか?


「はーっ笑い疲れたわ。てめぇにはもう飽きた......死ね」


 そういってピタっと真顔になったコウモリ男は、魔法を発動する構えを見せる。頼む、奇跡よ起きてくれ!



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