第4話【意力】前
異世界ものといったらチート能力を貰って美少女を助ける劇的な出会いから始まるのが相場と思っていた楠木だったが、悲しい事に彼の場合はヒーローどころかただのヒモとかしていた。
ようやくたどり着いた村は
だから宿屋だってないし、なんなら村の名さえない。余裕のある建物もないから2人は村人の好意で村の端っこで借り受けたテントを並べて過ごす事になった。
「棄民ってなんなんだ?」
ついたばかりの夜、皆の前では聞きにくかったので二人きりになった時に楠木はそう尋ねた。
「棄民は国や領地を捨てて壁内に逃げてきたヒト達の事さ。最近はあちこち情勢が不安定だからね」
戦争で故郷が焼かれた者、悪徳貴族の領地から逃げ出した人など様々な理由で生まれ育った土地を棄てた人達。
大変なんだなぁ、と他人事のようにつぶやくと簡単に気を許しちゃいけないよとアルケイデスは念押した。
「
話を聞いてチート能力のひとつもないとか不運だったなぁ、とかこっそり考えたのがとたんに恥ずかしくなってきた。
最初に出会えたのがアルケイデスだった。
ただそれだけがチート能力を貰える以上の幸運だったと噛みしめる。次の日、アルケイデスは村の周辺の魔獣を狩って回るために朝から出かけた。
自分もなにかせねばと気持ちばかり焦るが最近まで平凡な高校生だった楠木に出来る事なんて簡単な肉体労働ぐらいしか思い浮かばない。
しかしそれはすぐに諦めた。
なんせ5メートルはありそうなぶ厚い丸太を軽々と肩に担いで運ぶ村人をみたから。
(こちらとあちらで肉体のスペックが違うのかねぇ)
いや、そうに違いない。
でなければアルケイデスだってあんな怪物を剣一本退治なんてできやしないだろう。
・・・決して自分が貧弱なだけではないと信じたい。
「あぁ!ひもだ!」
「ひもだー」
もんもんと悩みながら借り受けた2人分の毛布を干していると三人の子供うちの一人がそう叫んだ。
聞き捨てならない台詞だ。まあ自覚はあるが。
「でもひもってなぁに?」
「さあ?母ちゃんが言ってただけだからしらね」
まさにガキ大将といったやんちゃそうな短髪の少年トイラがそう言うと、少し年下でおっとりとした少女のタンセはそっかーと特に興味なさげに返事をした。
「ひも。自身は働かず好きな事だけをして過ごし女性に養ってもらう男の蔑称だね」
「え?それって最低じゃん」
「じゃーん」
メガネをくいと上げながらそう言ったのはマッシュルームヘアの知的な少年トフレ。総じてこの村の仲良し三人組である。
娯楽のないこの村にやってきた部外者に興味津々らしい。それにしても子どもの純粋で真っ当な意見が痛いぐらいに楠木の胸に突き刺さる。
だがまともに仕事も出来てないし、養ってもらっているのも確かなのでぐうの音も出ない。
「おーし、つまりは悪いやつって事だな!こども騎士団かかれぇ!」
「れぇー!」
基本スペックは違うかもしれんが、しょせんは子ども。軽くノリに合わせて遊んでやるか。などと余裕をぶっこいて楠木は両手を広げた。
「ふっふっふ。大人の力を見せてくれるわ!」
◆
「いやさすがに強すぎないかな!?」
「オーラがつかえる俺さまの敵ではなーい!」
「なーい」
「おーら?」
普通に真っ正面から子どもに制圧された楠木の身体の上で勝ち名乗りを上げる三人。楠木の悲鳴に近い叫びにトフレはメガネをくいっと上げた。
どうやら誰かになにかを説明する時の癖らしい。
オーラ。
それは生命力をオーラと呼ばれる不可視の力に変換し肉体を強化する技。
使用すると肉体の力を何倍にも高める事ができるらしい。
「オーラなどを操る技術の総称を【意志を持ってなされる力】略して
「・・・すげぇ。まさに異世界」
それでかーと楠木はあの丸太を抱えた村人を思い出す。そんなチート技が使えるならあの怪力も納得だ。
「え?ていうかこの世界の人たちって皆そんな技使えんの?」
ずるすぎない?と漏らすとトフレはさらに勢いよく眼鏡を引き上げる。どうやらかなり説明好きらしい。まあ、こっちは助かるけど。
「それがそういう訳ではないんです」
オーラというのは生命力という形の無いものを変換して生み出される力。
それには生まれ持った天性の感覚が必須であり、出来る人は簡単に出来るが出来ない人は一生かかっても出来ない。
現にどうやって使っているのか尋ねてみたがトフレ曰く「腹のそこをぎゅをー!としたらぶわっとでるぜ」「ぜー!」という事だった。
なるほど。全然わからん。
(耳を動かせる人と動かせない人みたいなもんかな?)
ちなみに楠木は鼻の穴をぴくぴく動かせるが、どうやって動かしているのか具体的に説明しろと言われるとなんとなくとしか言えない。
楠木の感心をよそに「こども騎士団で鍛え直してやろうぜ!」「ぜー」「たしかにそれはいい考えかと」なんて子どもたちは勝手に盛り上がっていた。
こうして楠木は子供騎士団の下っ端として華々しい異世界デビューを飾る事になったのだった。
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