いいわけ、しないと。

micco

いいわけ、しないと

 肌を滑る布にさえ、声を抑えられない。

 髪の先から爪先まで細いピアノ線が私を貫いているようで、時折否応なしに彼がそれを強く引っ張る、私は堪らず背を反らす。

 息苦しい程の熱が私を支配して汗を滲ませるけど、触れる部分のすべて、濡れて擦れる場所から彼の熱が混ざってどうしようもない。胸の奥底から揺すぶられて彼の他は目に入らない、何も分からなくなっていく。全部ぼやけてただの熱の塊になる。まただ、また何も分からなくなってしまう。

 あーあ、ぐにゃぐにゃだね。

 彼の声がして、背にぬるりと何かが這った。つうと窪みを上ったと思うと下がる。往復、逸れて脇腹を横切る。喉が痛い。あぁでも責め苦は終わらない。

 繋がれたまま、糸の弛んだ人形のようになっても。涎の染み込んだ布の感触で顔中が冷たくなっても。

 君が悪いんだよ。

 呻くように彼が吐き出して、背と胸の隙間がなくなった。



「……これ、ジャンル違うけど」

「すみません、つい直前にTL読んじゃって」

「言葉も表現もちゃんと使い分けてよ」

「はい、書き直します」



 シャツで手首を縛られた私は、恐怖のせいで声が漏れてしまう。「や、め……」強制的に立った姿勢のままで刃を突きつけられ、座ることを許さない。背に尖った死の気配、せめて反らして隙間を作った。

 呼吸ができない。体の表面は汗を滲ませるけど、内臓は冷え切ってる。拘束されて伝わる体温が不快でどうしようもない。「ぁ!」熱が、背の、胸の底を揺すぶった。強烈な、痛み。

 見開いた視界に入ったのは――彼。でも刃をぐすぐすと動かされて一気に意識が遠のいた。全部ぼやける、刺されたところだけが熱い。膝が折れた。刃が自然、抜けた。まただ、何も分からないまま。

 あーぁ、死んじゃうね。

 暗い彼の声がして、背にも脇腹にも刃が滑る。何か温いのを吐いて喉が焼けた。

 気味が悪いんだよ。

 あぁあと何度、私はやり直すといいのだろう。

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