80億のいいわけ

ここのえ九護

その本屋は今日も


※本作はKAC2023の一つ目のお題である、〝本屋〟を題材にした短編、〝80億の本屋〟の実質的な続きになります。

 先に80億の本屋をご覧頂きますと、ほんの僅かに楽しいかもしれません。


 ――――――

 ――――

 ――


 さあ、どうだった?

 こうしていくつかの物語を見たわけだけど、少しは君の気も晴れたかい?


 ふふ……その様子じゃ、まだ少しだけ踏ん切りがついてないって感じだね。

 でも最初にここに来たときよりは、いくらかマシな顔だよ。


 ――そうだね。本当は君も、ここを忘れてたわけじゃなかった。夢を見ること、物語を考えること。そしてそれを形にすることを、忘れていた訳じゃなかったんだ。


 外では、君にも色々あったみたいだね。

 人間関係がうまくいかなかったり。

 日々の仕事でストレスを抱えたり。

 思いがけずに体を壊したり。

 そして……大切な人を失ったり。

 きっと、凄く大変だったんじゃないかい?


 ――そんなの言い訳だって?


 そっか……。

 どんなに忙しくても、大変でも。

 それでもここは、君の〝一番大切な場所〟だったんだね。

 それなのに、ずっとこの場所を忘れていた自分が許せない。

 やれやれ……相変わらず、君も損な性格をしているよね。

 

 でも、僕は君がそう言ってくれてうれしいんだ。

 もう分かってると思うけど、この店に並んでいる本に書かれている内容は、どれも君の心の中にある物語だからね。


 君が物語を考えることを止めるのなら、僕もいつかは、ここの店じまいをしないといけないところだった。


 けれど、君はまたこうしてここに来てくれた。

 今だってとても辛そうで、きっと凄く疲れているだろうに。

 そんなときだからこそ、またここに来てくれたんだろう?


 言い訳なんて、いくらでもするといい。

 そうして楽になるのなら、いつでもここで吐き出せば良い。

 

 言い訳でもいい。

 弁明でもいい。

 なんなら口汚い罵倒や、言葉にならない悲鳴でもいい。


 君の感情の揺れ動き全てが、君だけの物語だ。

 君が生きて色々な体験をして、色々な感情を思い浮かべたとき。僕がいるこの場所に、また新しい本が並ぶんだ。


 大丈夫。

 たとえ何があっても。

 僕もこの本屋も、そして君が書いた物語も。

 いつだって君の傍にいる。

 無くなったりしない。

 消えたりもしない。

 

 だから、また来てよ。

 僕は君がここに来てくれるだけで、とても嬉しいんだ。


 ずっと待ってるよ。


 君の新しい物語がこの店に並ぶのを。

 遊びに来てくれた君と一緒に、君の書いた物語を楽しむのを。


 いつだって。

 

 僕はいつだって、ここで待っているからね――。 


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