言い訳のあと……(月光カレンと聖マリオ19)

せとかぜ染鞠

第1話

 キヨラコは教会で学校をひらくと言った。出入りする人は増え,シスターが怪盗だと露呈するのも時間の問題だ。汚れた男の養育した娘は好奇と非難の的になる。だから竜宮島での視力回復手術を機に身をひくことにした。共に過ごした 1 8 年を綴る日記から別離を知ったキヨラコは捨てられたと誤解し,治した目を傷つけ身投げした。同時に生じた地震のために竜宮島は海に沈み,キヨラコは行方不明になっていた。

 俺はひざまずき弁解を重ねた。「 赤子を愛でる思いにとらわれたのです。せめて早く歴とした家庭を見つけるべきでした。でも離れられずにいた。身勝手な言い分です。私を罰してください。周 囲 を巻 きこむのはやめましょう。罪を犯した者が 罰を受けます。このとおりです,キヨラコさん」泥塗れのセメンに額も鼻も唇も擦りつける。

「おやめください!」女が叫ぶ。その声は紛れもなくキヨラコのそれだった。

 あらゆる感情が胸を突きあげる。

「人違いよ。私はセイラ」ピンヒールを鳴らし独力で階段をおりる。

 俺が立ちあがると,三條さんじょうを担ぐ大男を制止し,魔導まどうが襲いかかる。

 銀髪に触れた拳を握りつぶし,跳躍して相手の肩に乗るなり体勢を崩し,頸部を両足で絞める。加勢を試みる大男へ主人の首が折れるぞと脅せば,魔導はシスターの正体見たりと毒を吐く。余分な力が入ってしまった。

「セイラを苦しめんな」魔導が歯軋りする。そして悪事は自分が企図し,彼女は日記の回収を望んだだけだと弁明して泡をふく。

 意識のない人質同士を交換し暗黙のうちに距離をとる。担ぐ対象をかえた大男がキヨラコをも抱いて駆けだす。携帯する日記を渡したくてキヨラコを呼んだが,階下は既に闇が座するばかりだ。

 鬱屈を凌駕する爽快さえ混じる高揚につつまれていた。キヨラコは俺を許さなかった。しかし彼女の生存と視力の回復までも確認された。十分だ。憎悪され生命を奪われても構わないと思った。

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