10-4 深淵をのぞく時
とある学舎の屋上。
「……で、どうだった? 既成事実の1つや2つ、作ったのか? アイツ、あんまし酒強くねぇだろ」
「
「いや? でも、人体の生体電流を読み解けば、そういうのも分かったりするんさ。アンタだって出来るんじゃないか?」
言いながら
腰ぐらいの高さしかない柵に寄りかかってそれを受け取る
ちょっと上体を反らせば、その重みで柵の向こうへ落ちて行ってしまいそうな格好だ。
「俺は。プライバシーに関わる領域には、極力触れないようにしてる」
片手でプルタブを器用に開ける。
「あははははは! ほんと面白いな、
「当たり前だろ。お前らみたいな人外にはならないよ」
「……ふん、その方が面白いかもな。アンタまでこっち側に来たら、逆につまらない」
「はぁ……まったく……やっぱりクラス6の連中は、人の気持ちなんて分からないのかね」
理論上、誰も到達しえないライセンス――クラス6……
「そんな悲しい事言うなよ、
「可能な範囲で、してるつもりではある」
「ふふふ、そうだよね。アンタみたいなのが居ないと、どうにもウチらは浮世と関わりにくい――だから感謝してるんだぜ」
遠過ぎて、墓標は見えやしないけど。
「まあ、とにかくさ。
「――あれで良いんだよ。
「アイツのとこの宗教は厄介だからね。自殺は大禁忌の1つらしい。その疑いが少しでもある間は身内として引き取れないなんてね」
「タブレットは落下の衝撃でぶっ壊れてしまっていたみたいだし2人のやり取りも見られることも無いだろ……何、この缶コーヒー……不味いな」
「そう? ウチは好きだけどね。2割くらいしか珈琲感しないでしょ」
首を傾げる
「アンタが闇に葬った
「それは嬉しい。報奨金でも出たりして」
「多分な。そもそも
「世間体的にね。それに上乗せあったら……ウハウハじゃん、俺」
「『何でコイツはまたロイヤルゲートホテルなんだよ』とか言われそうだけど」
「ははは、確かに」
「――だから、
刹那、しんとする屋上。
「だから、間違っても時間差で暴露とかすんなよ。墓場まで持っていけ」
「あ? そんな当たり前のこと、わざわざ釘刺しに来たの?」
飲み干して空になった缶を、歯だけで器用に咥えながら睨み返す
「そんな怖い顔するなって。ウチは必要無いと思っているよ。多分だけど、
「
「『
「なるほどね……『御忠告どうも。だけどそんな、世界を敵に回すような自殺未遂、俺はしないよ』って伝えといて。あの引き籠もり野郎に」
「ああ、わかった……って、ん? ホントに不味いなこれ。リニューアルして珈琲感濃くしたな」
「そういや、
「……どうだろうね」
「もう10月だけど、今回のでだいぶ稼いだだろうし、ここから追い上げりゃアンタなら間に合うだろ」
「そう上手くいくかなぁ〜」
「いやいや。2留は笑えねぇ……って、ん? まさか……アンタ、
「実際、成功例あるし」
「それは共同演算の不可抗力だろ」
「新しい発見なんて、大体そういうもんでしょ」
はぁ、と大きな溜め息を吐く
「マジで実装出来てしまうと、新たな
「ウチの? 何の話? ……ま、一般性があるかどうかは、現時点でかなり怪しいけど」
「どうせやるなら
また缶を咥えて頷く
「――ただな」
左の足先でタン! と床を打って。
「1つ、言っとくぞ。例え
「……ん」
「ましてや、死んだヤツの人格を再現して、その人格に自分の体を貸して、それとメッセージアプリで会話するなんて――普通に考えて、有り得ないだろ」
「そう、だね」
気の無い返事に「ちゃんと聞いているの?」と三白眼で睨み返す
「そんなことしたら、それこそ禁忌を犯すことになる。宗教とかじゃねぇ……人類の禁忌だ。だから、そこは踏み越えんなよ」
「分かってるって」
まだまだ憮然としたままの
「何? ……
缶を手渡す
その缶が、
バチッ!
空き缶は、青白い閃光と炸裂音に変わった。
「……おい。手、焦げそうになったろうが」
「でも焦げなかったろ? だから何も問題無い」
ニタっと笑って
後ろ手に、右手をヒラヒラとさせながら。ひどく既視感のある去り方だった。
「――おい、
その背中に
「酒に強いかどうかを、体表面の生体電流から読み解けるなら――墜落事故の首謀者も、わざわざ俺らを動かさなくても分かったんじゃないのか?」
そして悪魔のように振り返って、天使のように笑う。
「このカラダじゃ、そこまでは出来ないの」
「チッ……なに可愛子ぶってるんだよ。出来ないってんなら
「アンタが、いくら
「ウチにはあんなくだらない
強大なチカラを持っているが故に、世界に干渉しないようにしている――そんな風に見せ掛けておきながら、実は自分達の思い通りになるようにコマを操っている。
「……っ」
柵を超えて落ちてしまいそうな気がした。
「――あぶねぇ……」
とはいえ、きっと1メートルも落ちることはない。
今の
逆様になった空を見上げると、遥か上の方で
――つまりそれは
「……でもきっと」
あの水面を綺麗と思えているうちは、きっとまだ大丈夫。
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