10-2 ドアを隔てて
タマゴサンドを食べて、牛乳を飲んで――
「……これが朝帰りかぁ」
玄関で靴を履きながら
「言い方」
「へへ……すみません。では、帰ります」
「一応、怪我人なんだから、気を付けるんだよ」
「ありがとうございます、気を付けます――ほんと色々、ありがとうございました」
「こちらこそ、美味しいご飯を2食も」
「一宿一飯の恩義ですから」
「
「え……そんなに言ってました?」
「あ、いや……そんなことも〜ない、かな」
踵をコンコンとして、シャンとして、
眩しい光が雪崩込む。
「
ドアに手を掛けたまま半身に振り返って
その笑顔は朝日より眩しかった。
「――うん」
「じゃ、失礼します」
閉まっていくドアの隙間から、覗き込むようにしながら手を振る。
バタン――ガチャ……ピー
ドアが閉まって、オートロックでカギがかかる。部屋の中が少しだけ暗くなった。
ドアの内側で
1フロアの半分の高さを降りると小さい踊り場がある、折り返し階段。足元を凝視して降りると案外、目が回る。
「……」
コツコツコツコツ……ここは何階だろうか。あといくつ降りればいいのだろうか。頭がグルグルする。
「…………」
踊り場と折り返しが無い。どうやら1階に着いたようだ。
「わ……わた、わたし、ぜぜぜぜぜ絶対なんか言ってる……! 酔った勢いで先輩に何か言ってるじゃん、確実に!」
他の人には分からない。観察眼や洞察力のえげつない
しかし
「うわぁ……何を言ったんだろう、何を言ってしまったんだろう――先輩の反応的に、攻撃的なことを言ってなそうだから、そこは良かったけど」
そもそも、
しかし攻撃的ではないということは、逆に――
「……まさか、すす……好きですとか、言ってないわよね? 私! ……あぁぁ、ほんと、どうしよう。話し掛けていいですか話し掛けて下さいね、じゃないのよ。ほんとに」
カチャ、カチャ……ザーー……キュッ
バタンッ
1階の住人の、生活音が漏れ聞こえてきて、
立ち上がって、膝を払う。
背筋を伸ばして、数回深呼吸をする。
「帰ろう……先輩が、気を使って下さっているのだから、それを
エントランスを出て『言いたいことは、ちゃんと自分の意思で言うんだ。お酒のチカラなんかに頼ったりしない』と思いながら、ピョンと飛んで飛泳する。
「――あれれ?」
1回のキックで、普段よりだいぶ高い所に居た。
そしてそこに到達するまでに要した時間も短かった。
心なしか、いつもより体が軽かった。
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